ネギはなぜこの世に生まれたのか
どうして、日本人はこんなにもネギを愛しているのだろう。
カップラーメンにネギ、麻婆豆腐にネギ、味噌汁にネギ、トロにネギ、馬刺しにネギ。あちらこちらでネギだらけだ。
日本人だれしもがこの緑の物体を好きだと思ったら大間違いだ。奴の白だが緑だかはっきりしない姿を見ているといらいらする。匂いも嫌いだ。吐き気すらしてくる。
何故こんなにも僕がネギに関して述べているかというとネギなしを注文したはずなのに、何故か大量のネギが乗っかった蕎麦が運ばれてきたためである。
客をなんだと思っている。恥を忍んであえてネギなしを注文した僕に対しこれは嫌がらせか。嫌がらせなのか。
「あのー、すいません」
ぼろっちいそば屋の敷地はせまく、席はカウンターを入れても十席といったところである。客は全部で四人。近くの競馬場から昼食を食いに来た親父と、サラリーマンらしくスーツを着た男。
それともう一人。カウンターに座っているセーラー服の少女。
「ざるそばネギ大盛りで注文したんですけど、ネギ全然のってないじゃないですか」
なるほど。理解した。どうやら店員はおれのそばと彼女のそばを間違えて運んで来たらしい。
店員に抗議している少女に僕は控えめに声をかけた。
「なんですか?」
きょとんとした顔は子どものようだった。実際小学生から上がったばかりの中学生といったところか。その割には胸のふくらみが大きい気がしたが、そこに視線を向けている事がばれぬよう僕は彼女を瞳を見つめた。
大きく黒い瞳だった。二重のぱっちりした目だ。僕の妹が見たら嫉妬するに違いない。まぁ今はそんな事どうでもいいのだが。
「僕の蕎麦、ネギが大量にのっかってるんですよ。良かったら交換しません?」
不機嫌そうに歪んでいた口元はテーブルに置いてあるネギてんこもりのそばを見て綻んだ。彼女は海苔だけしかのっていない蕎麦を持って僕の席まで運んできた。
「はい、こーかん。口つけてないよね?」
「ネギ嫌いなんだ」
「ふぅん。勿体ないね」
そのままカウンターに戻るのが面倒だったのか、彼女はネギたっぷりのそばを受け取ると僕の向かいに座っていただきますと手を合わせた。
何故か知らないが僕もしなければいけないような気がして、小さく手を合わせていただきますと呟いた。
可愛い女の子と一緒に食事……本来なら喜んでいいのだろうけど、どうしても気が滅入ってしまうのは彼女が美味しそうに頬張っているのもが僕が世界で一番嫌いなものだからだろう。