花の妖精と女の子
ある日ある時ある所、ちいさな妖精の子供がおりました。
夏に咲く花のような、小さく鮮やかで可愛らしい妖精でした。
今日も野原に花を咲かせたり、夜明けの葉っぱに朝露を乗せて
ひとりでくるくると遊んでいました。
ある日、妖精のいる野原に、片腕のない女の子がやってきました。
女の子は、綺麗な花を摘んで売って生活しています。
家にいるのは病気のお母さんと、うまれたばかりの小さな弟。
働けるのは、片腕のない小さな女の子だけです。
町のどんな花売りに負けないくらいきれいな花を摘もうと
朝早くに町を出て、森の奥の奥にあるこの野原にやってきたのでした。
「かわいい妖精さん、あなたの花畑で、私が花を摘んでもかまわないかしら?」
女の子が尋ねると、妖精は喜んで応えました
「かわいい人間のおじょうさん、わたしの花があなたのやくにたつのなら!」
妖精はくるくると花びらのように空中を舞って、女の子を驚かせました。
女の子は毎日朝早く家を出て、妖精の花畑で花を摘むようになりました。
町中のどんな立派な花屋よりも、女の子の売る花は美しく良い香りがしたので、女の子は毎日パンが買えるようになりました。
もっとお金があつまったら、お母さんの病気がお医者さんに診てもらえるかもしれません。
「たのしいね!おはなをつむのは、たのしいね!」
女の子の痩せこけた顔がふっくらと可愛らしくなった頃には、妖精も毎日花を摘みに来る女の子のことが大好きになっていました。
女の子のために珍しい花やとても良い匂いのする花を探してきては、女の子が来る度に跳びあがって喜びました。
「ねえ妖精さん、このあたりで一番きれいな花はどれかしら?」
ある日女の子はそう妖精に尋ねました。
そうして妖精の選んだ一番きれいな花を使って花輪を編みました。
片方しかない小さな手で、肘までしかない腕で押さえながら、ちいさな花輪を編んで妖精の頭にのせました。
「あなたに贈り物がしたかったの」
妖精は小さな水たまりにそうっと自分の姿を映して
うれしくて、うれしくて、雲のそばまで飛び上がって喜びました。
妖精は、花輪のお返しに女の子に、自分の腕と女の子の腕を交換しました。
女の子は妖精の子供に腕を返そうとしましたが、片腕がなくたって妖精は、くるくると上手に踊れます。
「必要になったら返すから、いつでも言ってちょうだい」
妖精とそう約束すると、女の子が両手いっぱいに花をかかえて帰りました。
町中の人が驚いて女の子の様子を見に来ました。
腕をくれた妖精のはなしをすると、皆がうらやましがりました。
「だってあなたの手は真っ白ですらっとして、本当にきれいなんだもの!」
しばらくすると、そばかすだらけの女の子が真っ白なきれいな肌になりました。
「妖精に贈り物をして、妖精の肌と交換してもらったの」
そう綺麗な白い肌の女の子が言います。
ある人はちりちりの赤毛が、透き通るような金髪に。
ある人はごつごつした足が、まっすぐで早く走れる足に。
ある人は毛だらけの腕が、すらりと細い腕に。
町の人たちがきれいに、丈夫な手足を手に入れましたが
女の子は毎朝花を摘みに行くたびに、小さくて可愛らしかった妖精は、どこかつぎはぎになっていくのを悲しく思いました。
女の子は、町の人たちに妖精のことを話したことをたいへん後悔してなんども謝りましたが、妖精は気にしてないようでした。
「たのしいね!おはなをつむのは、たのしいね!」
妖精はもう、女の子に出会ったころの半分も飛べません。
毛むくじゃらの手足をぴょこぴょことさせながら、花畑を跳ねまわり、にこにこわらうのでした。
ある日、妖精の子を迎えに、妖精のお母さんがやってきました。
妖精のお母さんは、妖精の子供の姿に酷く腹を立てました。
「まあ!勝手に体を交換するなんて!
あなたは本当にその毛むくじゃらで折れ曲がった足と交換してよかったと思っているの?
そのガラス玉や小さなゆびぬきと一緒に、元の持ち主にもどしていらっしゃい!」
その日、朝早く女の子が花畑に行くと、そこには小さな妖精の子供がいました。
夏に咲く花のような小さく鮮やかで可愛らしい妖精でしたが、その妖精の子供には片腕がありませんでした。
「おかあさんがむかえに来たから、おうちにかえらなきゃいけないの」
妖精の子供はさびしそうに言いました。
その頭には、編んだばかりのようなみずみずしい花輪がのっています。
「お花のかんむりはいちばんのお気に入りだから、交換したままでいい?」
妖精は適当な性格なので、返却パーツがちゃんとくっついてない人とか
自分のじゃないパーツがくっついてる人がいるはず。
その辺ちゃんと書くとホラーになるので割愛。
誤字脱字があるような気がする。