表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/12

第一話 「私は死なないから」

 少女が、殺されかかっていた。

 だから、少年は少女を助けることにした。

 ただ、それだけだった。



「…………っ」

 状況は、極めて単純。

 夜。

 人気の無い駅前。

 紺色のブレザーを着た少女と、白いスーツを着込んだ金髪の男。

 男は少女ににじり寄り、右手に携えた剣で少女の命を刈り取ろうとしている。

 恐怖のあまり、なのか、少女は悲鳴を上げることもしなければ、逃げ出すこともしなかった。否、出来ないでいた、というのが正確なのか。

 何はともあれ、このままでは少女は殺されてしまうことだけは間違いない。

 故に、少年は走った。

 男の剣が振り上げられ、それがまさに振り下ろされんという瞬間だ。

 少年の身体が、男と少女との間に割って入ったのは。

「何……ッ!?」

 動揺を見せたのは、男の方だった。

 男からしてみれば、突然現れた誰とも知れぬ少年が、剣を止めたのだ。

 少年の腕が、まるで盾であるかのように、凶刃を受け止めたというその状況は――男にとって予測不能、予定外の事態であったことに疑いは無い。

 思わぬ闖入者の出現に対し、男は即座に剣を引き、バックステップを踏んで後退。

「……何者だ」

 男は眼前の少年を睨み付けつつ、尋ねる。

 対する少年は、まるで何事も無かったかのような、この事態が日常の一部でしかないとでも言うような、そんな平然さで以って、男の問いに答えた。

「日本概念省・入国管理局。不法侵入者の取り締まりに来た」

 その答えは、男にとって最悪のものだったのか――苦々しげに舌打ちをする。

「やはりな。だが、まさかこの結界に気づき、侵入してくるとはな」

「アンタの結界は、外部にその発動を悟られないタイプのものだったらしいけど、運が悪かったよ」

 少年は、少女を背中に隠し、男の前に立ちはだかる。

 学ランを纏った、本当にどこでもいそうな雰囲気の少年だった。唯一、その右眼の色が真紅であるという点だけが、変わっているといえる。

 むしろ、平凡な雰囲気を纏っているからこそ、紅い右眼の異常性が際立っている、とも見える。

「ご愁傷様だ。因果体系概念術師――『狩人』ロベルト・ブラック」

 己の名を呼ばれ、男――ロベルト・ブラックは、僅かにその身を硬直させる。

 そんな反応を見逃さず、追い討ちをかけるように少年は述べる。

「既に身元は割れてるんだよ、ロベルト・ブラック。お前は異世界からこの世界へ無断で立ち入り無断で滞在している『不法滞在者』であり、入国管理局はそうした連中を、どんな手段を使ってでも排除する」

 少年の眼光が、刃の如き鋭さを帯びる。

 殺気とは違うが、確かな威圧感を備えた視線。しかし対峙するロベルトは怯まない。

 さっ、とロベルトが手を振ると、手に持っていた剣が掻き消えた。

「そういうことであれば、仕方あるまい。お前を排除し、目的を遂行するまで」

「『目的』ってのは、何だ? この子を、殺すことか」

 少年は、己の背で庇った女の子を一瞥する。

 男は答えない。代わりに、男は右手を振って、その手に新たな剣を出現させた。

 どこからともなく、一瞬で。

「お前が一体、どんな概念術を使っているのかは知らないが。それを打ち破る概念を用いればよいだけのことだろう。……次は防げないぞ」

「……異なる場所から物体を取り寄せる……因果律を捻じ曲げる因果体系概念術お得意の技だ。

 けど、それがどうした」

 あくまで、少年の態度は揺ぎ無い。

 怯まず。

 臆さず。

 相好を――崩さない。

「……君、ちょっと離れてて。危ないから、さ」

 後ろを振り向いて、少女に避難を促す少年。

 言われるがまま、少女は少年とロベルトから距離を取る。

 そして、少年と『狩人』が、対峙する。



 『狩人』ロベルト・ブラックは、疑念に眉をひそめた。

 ……こいつは一体、何者なのだ?

 そもそもの誤算は、この少年がロベルトの作成した結界――隔絶空間内部に侵入してきたことである。

 ロベルトの作った結界は、因果的に孤立しており、外界とは隔絶されている。

 『作ったことを周囲に悟られない結界』というものを、ロベルトは作り出すことが出来る。空間を重層化し、標的だけを重層空間に連れ込むことで、『狩場』を作り出す。表面上、そこに何ら変化は見られない。故に、その空間自体に気づかれない。

 その術式から、ロベルトは『狩人』の異名を頂いているのだ。

 普通ならば、『狩場』は外部に気づかれないものだ。『狩場』そのものが因果的に孤立しているのであり、それを認識するという現象自体が、本来であれば成り立たない。

 目の前の少年は、いとも容易く、『狩場』を発見するという行為をやってのけた。本来、不可視にして不可侵たる筈の『狩場』に易々と侵入してきたのだ。

 それだけで十分に、『狩人』の沽券に関わる事態である。

 ……それにしても、隙だらけだ。

 随分と余裕でいるようだが、目の前の少年の構えを見る限り、格闘技の心得があるようには見えない。

 だが、自分の剣と標的との間に割って入った能力があることを考えれば、近接戦闘においてそれなりの力を持つと見てよいのだろう。

「隙だらけだって、そう思ったろう?」

 こちらを指差し、少年はそう言った。

 まるで心を読まれたかのような言い方、そしてタイミング。

 ……落ち着け。

 これはハッタリに過ぎない、と自らに言い聞かせる。

 ここで動揺しては、相手の思う壺だ。

 もしくは人の心を読む術式の使い手なのかもしれない。もしそうであるならば、なおのこと動揺してはいけない。迂闊なことを思考するだけで――状況は不利になる。

「攻撃、してこないのか?」

 不適に、少年は微笑する。

 まだ年若いのに大した余裕だ、とロベルトは思う。自分の力を過信しているか、酔っているか……何にせよ、そういう余裕は身を滅ぼしかねない。

 年齢は関係ない。実力がものを言うのが概念術師の世界だ。だが己を過信し身を滅ぼしていくのはいつだって若者なのだ。

 かく言うロベルト自身もまだ若者ではあるが、それでも、過信すること勿れと己に言い聞かせ続けてきたものだ。何が起こるかわからない、常識などまるで当てにならない世界で生き続けるために、そうしなければならなかった。

 油断はしない。

 過信もしない。

 ただ――意志だけを持つ。

 目的を遂行する意志。

 獲物は確実に狩らなければならない――それが狩人としての、矜持。

 『狩人』ロベルト・ブラックは、『獲物』を見据える。

 少年の背後に庇われている少女。

 少女こそが、ロベルトの標的だった。彼女を殺すことで、ロベルトの目的は達成される。

「標的は……やっぱこの子か。何でこの子を狙う?」

 どこか呆れたような声色で、少年が言ってのけた。

 ……心を、読まれた?

 だが、この程度のことでいちいち驚いてもいられない。

 己の標的が見抜かれようと、関係は無い。少年も一緒に狩ればいいだけの話だ。

「この子は、ごく普通の学生じゃないか。何の理由があって、この子の命を? いつから『狩人』は弱いもの苛めをするようになったんだ」

 立て続けに少年は言葉を並べ立てるが、ロベルトには答える気は毛頭無かった。

 沈黙は金。

 目の前の少年は消すべき敵でしかなく、対話の必要性すら無い。

「……答える気はない、か」

 少年は嘆息。

「じゃあ、あんたを叩き潰した後で、ゆっくりと調べることにするよ」

 言葉。

 と、同時。

 少年が、動いた。

 ロベルトの眼は、少年の動きを捕捉する。

 直進。

 地面を強く蹴った少年は、馬鹿正直に、こちらに向かって直進してきていた。

 この上なく、読みやすい軌道だ。そこに何の意図があるのかは分からない。

 だが、迎え撃つのみだ。

 ロベルトは右手に持った剣で、迷わず横薙ぎ。

 対する少年は、こちらに向かって右手を突き出してくる。

 その動作が何であるかは分からない。攻撃なのか、それともロベルトの剣を防ごうとしているのか……。

 どちらにせよ、攻撃を止める意味は無い。だからロベルトは剣を振り切った。

「っ!」

 果たして――ロベルトの剣は、少年の右腕を下方から斜め上へ向けて走った。

 切断。

 少年の右腕が、すっぱりと、切り落とされる。

 腕から分離した腕が、宙を舞う。

 血が、溢れ出る。

「……っ……ああ……っ!」

 苦痛に少年は顔を歪め、膝をついた。

 ショック死してもおかしくはない激痛だっただろう。どちらにせよ、おびただしい出血量を見る限り、放っておいてもすぐに失血死する。

 決着を、ロベルトは確信した。

 少年はもう――戦えない。

「言ったろう、『次は防げない』と」

 切っ先を、地に膝を着いている少年の顔に向ける。

「その剣……やっぱり防御無効化武装かよ……」

 ロベルトは答えない。

 だが、内心で思う。少年の答えは、半分合っている、と。

 この剣は、無論、ただの剣ではない。概念術が付加された武装だ。

 先ほど、少年は何らかの手段を持って、ロベルトの剣を素手で防いでみせた。そのときにロベルトが使ったのは、単純に、攻撃力を概念術で底上げした剣だった。鋼鉄であろうと容易く切り裂く剣であったのだが、結果として、少年に防がれてしまっている。

 ならば、違う概念を用いればいい。

 この剣に付加された概念は、《この剣による攻撃を防御するものを斬る》というものだ。

 『防御』という概念そのものに対して攻撃をする、防御不可能の剣。

 防御無効化ではなく、防御破壊。

 つけられた銘が『守人殺し(シールドブレイカー)』だ。

 どんな術式を使っているのか、などということは、この際どうだっていい。

 少年が取る手段が『防御』である限り、この剣は不敗なのだから。

 先ほどの少年の意図は分からないが、少年はロベルトの剣をその手で『防御』しようとした。だから『守人殺し(シールドブレイカー)』は少年の右腕を破壊したのだ。

 無論、それらの情報を少年に教えてやる真似などしない。

 瀕死の獲物を前に饒舌になる狩人は、返り討ちに遭うのが鉄則なのだ。

 だからロベルトは、沈黙を貫いたまま、空いているほうの手――左手に、先ほどの剣を呼び戻す。

 『守人殺し(シールドブレイカー)』の欠点は、明確な『防御』を行っているものしか斬ることが出来ない、という点だ。『防御』という概念を直接に切断する故に、それ以外のものを斬ることは決して出来ないのである。

 だから、目の前の無防備な少年に止めを刺す前に、別の武器を用意する必要があったのだ。

 ……念のためもう一本貰っておこう。

 用心深い『狩人』は、左手の剣を、少年の左肩に突き刺した。

 そのまま、振り下ろす。

「がっ、あああああああ、う……っ!」

 切断こそしていないが、最早まともに動かすことも叶わない。

 これで、両腕は封じた。

 あとは首を落として、それで終わりである。

 ……終わってみれば、呆気なかったな。

 左手の剣を、振り上げる。

 その時だ。

「……終わって、ない」

 真っ青な顔で、少年は、笑った。

 その笑みに不気味さを感じ、ロベルトの剣に躊躇いが生まれる。

 それは、一瞬。

 だがその一瞬が、時として命取りになる。

「『接続コネクション』!」

 少年の体から、光で出来たプラグのようなものが飛び出し、ロベルトの胴体に突き刺さる。

 ロベルトの身体が、少年の身体と接続される。

「《彼我の差は無い》……!」

 次の瞬間、変化が生じた。

 最初に目に付いたのは、停止。

 それまで少年の体から流れていた、おびただしい量の血液が、止まったのだ。

 そして瞬きをする間に、少年の傷口が塞がっていく。

 ……馬鹿な!

 ロベルトは驚愕するが、変化はそれに留まらない。

 再生。

 確かに切り落とした少年の右腕が、切断面から再生されていく。

 再生、というよりは、再構成、という感じだった。明らかに、生物の自己再生機能とは一線を画している。

 変化が終了する頃、少年の身体は完全に五体満足なものとなっていた。

 完全回復した少年は、間髪入れず、ロベルトの顎にアッパーカットを決めた。

 不意打ち。

 顎を揺らされ、ロベルトはバランスを崩す。

 だが、仰け反ったり倒れたりすることはない。ぎりぎりのところで最低限の体勢は維持し、左手の剣を突き出す。狙いは少年の心臓だ。

 その刺突を、少年は左手で止めた。そうだ、普通の剣は防がれる。

 ……いったい、どんな術式を使っているっ……!

 だが、右手に持つ『守人殺し(シールドブレイカー)』ならば。

 あらゆる防御を撃破するこの剣ならば、関係ない。

 ロベルトは左手の剣を手放し、右手の『守人殺し(シールドブレイカー)』を上から振り下ろす。

 それに対し少年は、無謀にも、拳を繰り出してきた。

 ……馬鹿が!

 先ほどと同じ結果を迎えるだけだと、ロベルトは思った。

 だが、違った。

 少年の拳は、『守人殺し(シールドブレイカー)』を、すり抜けた。

「な……っ!」

 その結果、拳は真っ直ぐ、ロベルトの顔面を捉える。

 殴りぬけた。

 ロベルトの身体は、後ろに大きく仰け反る。

 そのまま姿勢を制御できず、ロベルトは仰向けに倒れた。

 そして少年は、そんなロベルトを見下ろす。

「……その剣が防御を無効化する概念武装だっていうなら、こっちは防御をしなければいいだけの話なんだよ」

 血色の戻った顔に、それでも疲労の入り混じった表情を浮かべて、少年は言う。

「だから、『防御』じゃなくて『攻撃』で迎え撃てばいいのさ。……まあ、すり抜けるとは思わなかったけど……。その剣は、『防御』という概念に対してのみ効果を発揮する武器……概念武装だってことが分かれば、こっちのものだ」

 危ない賭けではあったけどな、と苦笑しながら少年は二本の剣を拾い上げる。

「貴様……一体何者だ……?」

「僕か? 僕は、入国管理局所属、全一体系概念術師――各務勲弥かがみいざやだ」

「全一……体系、だと……」

 その名を、ロベルトは知っている。

 全一世界。

 謎に包まれた、噂だけが一人歩きするような、世界。

 そんな未知の世界の、未知の概念術を使う少年。

 ……とんだ化け物がいたものだ、この世界、この国に……。

 無数に存在する世界で唯一、物理法則が完全に安定し、概念術の発達する隙のなかったこの世界。

 そんな世界の中でもこの日本という国は、特に温い空気で包まれていると、ロベルトはそう評していた。だがその認識は改める必要があるだろう。

 ……ここは、退かせてもらう。

 このまま捕まってやるような真似はしない。

 これ以上無様を晒すことは、狩人としてのプライドが許さなかった。

 素早くロベルト・ブラックは起き上がると、まずは己の作り出した空間隔絶術式を、解除した。

 結果、『狩場』が元の空間に回帰する。

 夜の駅前。

 相変わらず人気は少ない。自分たちの姿は傍から見れば突然出現したかのように見える訳だが、それを目撃された心配はしなくてもよさそうだった。

 次いで、術式を展開する。

「っ、逃げるつもりか! 待て!」

 少年が手を伸ばしてくるが、一拍遅い。

 捕まるより早く、ロベルトの術式が発動した。



「くそ、逃げられた」

 少年――各務勲弥かがみいざやは、地面を蹴り飛ばして毒づいた。

 あとちょっとのところで、ロベルト・ブラックの姿が掻き消えてしまったのだ。

 因果体系概念術ではポピュラーな、空間移転術式だろう。『今ここにいるから、n秒後にはそこにいる』という因果を捻じ曲げることで、n秒の間にどうやっても到達不可能な地点まで瞬間移動することが出来るのだ。

「とにかく、局の方に連絡……っと」

 携帯電話を取り出したところで、先にしておかなければならないことがあったのを思い出した。

 勲弥は、少し離れたところにある街路樹の陰に隠れている少女の姿を見つける。

 驚いてしまったのか、腰を抜かしてしまったようで、少女は地面に座り込んでいた。

 無理もないことだった。

「きみ、大丈夫だった?」

 とても怖い思いをしたであろう少女を少しでも安心させようと、勲弥はつとめて優しい言葉をかける。立ち上がれるよう、勲弥は手を差し伸べた。

「…………」

 対する少女は頷き、自力で立ち上がった。差し伸べた手が無視されてしまったことは寂しいが、自分で立てる力があるのならばそれで十全だ。

 勲弥は少女を見る。かなり長く伸ばした黒髪が特徴的で、随分長いこと髪を切っていないんだろうな、と想像してしまう。

 やや前髪が長すぎて顔立ちがはっきりとは見えないものの、かなり端正だ。美人と言っても差し支えは無いだろう。右眼側の泣き黒子が色っぽい。

 しかし、無表情。

 というよりは、無関心にすら見える。

 少女は恐らく、勲弥とロベルトの戦いを見ていた。いたいけな少女に見せるのもはばかられるほどに血なまぐさい戦いであったが、勲弥にそこまで気を遣う余裕は無かった。

 一歩間違えれば死ぬ。

 そういう世界に、勲弥はいるのだ。

「君、その制服……三千院学園だろ」

 少女のブレザーの胸元には、私立三千院学園の校章が見える。

 それと同様のものが、勲弥の学ランの襟元にもあった。

「僕もなんだよ。二年B組の各務勲弥だ。よろしく」

 そう言って、勲弥は同じ学校に通っている少女に握手を求める。

 だが、少女はそれに応じない。

 ……しまった、流石にさっきのはショックすぎたか。言葉を失ってる。

 無理もない、と勲弥は少女の心中を察する。いきなり殺されかけたり、目の前でファンタジーじみたバトルを展開されれば、人間誰しも混乱するに決まっている。

 ましてこの少女は、勲弥の腕が切断されるというショッキングなシーンまで目撃しているのだ。そんな状態の人間と日常会話をしようとする方が間違っている。

 ……こういうところが、デリカシーが無いと言われてしまうんだろうか。

 そんなことを考えつつ、どうしたものかと頭を掻いていると、少女がその口を開いた。

「二年A組、吉川天満よしかわてんま

 ぽつりと、少女は名乗った。

 ……なんだ、隣のクラスかあ。

 少女がとりあえずは話が出来る程度には元気だと分かって、勲弥は安堵する。

 いたいけのない少女にトラウマを植えつけたなどということになっては、やりきれない。

「怖かっただろ、吉川。でも、もう大丈夫だから」

「……ありがとう、各務君。でも、別に怖くはなかったわ」

 吉川は、どこか憂いを帯びた表情で、そう言った。

 その表情に、勲弥は何か引っかかりを感じる。

 少女の表情はまるで、助かってしまったことが不都合であるかのような、そんな意図が見て取れるような気がしたのだ。

「私は、死なないから」

「死なない……って」

 冗談を言っている風ではない。吉川の表情は至って真面目だ。

 真面目に、とんでもないことを言っている。

「助けてくれて、ありがとう、各務君。お礼に、一つ忠告しておくわ」

 そして吉川は、自嘲の笑みを浮かべ、言った。

「――私に近づかないほうがいいわ。不幸になりたくなければ」

 

こんにちは、リゾットです。


この作品は、ジャンル的には現代ファンタジー、といえるでしょうか。

終わりのクロニクル、円環少女あたりの影響が結構強めです。

今まで書きたかったジャンルで、結構前から書き溜めてた設定を出していけるかと思うと何だか嬉しいですね。


どうぞお付き合い下さいますようお願い申し上げます。

感想、評価、批評、web拍手等いただけますと、とても嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ