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擬人化兵器少女たちの戦場に、貧弱ショタとしてTS転生した私は、それでも仲間を守ってみせる  作者: ねこ太郎


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第5話 敵補足――この子も出撃させるのかと、艦長は聞いた。

 真っ赤な非常時を告げる光が街並みを明滅させる。

 高く、鋭く、逃げ場のない音。

 まるで空気そのものが震えているみたいに、足元まで響いてくる。


『――警報。敵影接近。敵影接近。全ての戦闘要員は直ちに持ち場へ』


 機械的な音声が、容赦なく現実を告げた。

 さっきまで笑い声があった通りが、一瞬、水を打ったように静まり返る。


 ――そして。


 次の瞬間、全員が一斉に動き出す。

 店員は店の奥に消え、そして商品は床部に機械的に格納されていく。

 通行人は慌てることなく、それぞれ決められた方向へ。

 誰一人として騒がない。

 ただ、訓練された動きで、持ち場へ――そう、戻っていく。それが本当の役割であったと、思い出すように。


(……これが)


 アンジュは、喉の奥がひゅっと鳴るのを感じた。


(戦争……軍隊……)


 空気が変わる。

 その隣で


「……来た」


 コメットの声が一段、低く落ちた。

 さっきまでの屈託ない明るさは、もうない。


 目の色が違う――スイッチが切り替わったみたいに。遠くを見ている。


「アンジュちゃん、こっち」


 ぐい、と手を引かれる――優しい力なのに、迷いがない。


――都市区画・非常接続ゲート


 一般区画の端、人の流れから外れた場所に、それはあった。


 分厚い隔壁、無骨な金属扉、上部に赤いランプが点滅している。


 コメットが手をかざすと、手首の端末が淡く光り、ピピピっと認証音が鳴る。

 ガンッ――シューっと、油圧ロックが開いたような鈍い音を立ててロックが外れ、

 重い扉が横にスライドする。


――ここから先、軍属専用


 赤く光る立ち入り禁止の電光掲示に、コメットは迷わず中へ入る。


――戦闘用アクセスライン


 一歩踏み込んだ瞬間、空気が変わった。

 ひやりと冷たい――乾いた匂いのグレーの装甲板。

 むき出しパイプや配線。ところどころ、びりびりと振動が伝わってくる。

 天井のライトは白く、異様に無機質で、そして足音がやけに響いた。

 通路は細くまっすぐに伸びていて、分岐には無機質で明瞭な表示。


 ――CIC(戦闘指揮所)

 ――航空管制

 ――兵装管理

 ――エレベーター・ハンガー直通


 すれ違うのは全員が軍服の人間だった――誰もが早足で、視線は前だけを見ている。


(……別の船、みたい)


 さっきまでの街の空気は、完全に消えていた。


――中枢ブロック・CIC(戦闘指揮所)


 ガシュッ――ガコン

 自動扉が開いた瞬間、熱気と電子音の波が押し寄せた。


「――前方三百、水上反応多数!」

「反応三、針路、こちらへ接近!速度、高速!」


 怒号のような報告が飛び交う。


「RCS不安定!」

「電波パターン照合中、IFF反応なし!」


 壁一面のスクリーンには、海と空の情報が重ねて表示されていた。

 無数のデータの中に、異質な三つの光点。


 高速で接近する物体であることがアンジュにも分かった――それは異様な速度だった。


「おもぉーかーじ!面舵十五度。機関最大戦速。

 以後、回避運動は艦橋指示に従え――全艦に通達。本艦はこれより離脱に入る」


 警報に急かされるまま飛び込んできたコメットは、姿勢を正すことすら忘れて声を上げた。


「艦長さん!」


 その一声に、CICの空気がわずかに揺れた。

 報告を飛ばしていた士官が一瞬だけ言葉を切り、コンソールに張りついていたオペレーターたちも、思わず肩越しに振り返る。

 本来、この場でそんな呼びかけ方をする者はいない。だからこそ、その無遠慮なほど真っ直ぐな声は、張り詰めた指揮所の空気の中でひどく目立った。


 だが、それもほんの一瞬のことだった。コメットの姿を認めるや、CIC要員たちは険悪な色を見せることもなく、何事もなかったようにそれぞれの役割へ戻っていく。


 “艦長さん”と呼ばれた男が、中央で指示を飛ばしていた位置から静かに振り向く――歳は50手前くらいだろうか。黒に近い濃紺の詰襟の軍服。決して大柄なわけではないが、その男の周りだけ空気が静かで重い。歴戦を潜り抜けた軍人の所作だった。


「ご、ごめんなさい…」


 周囲の視線に気づき、声を潜めて謝罪するコメット。


「コメットくんか。早かったね。状況は把握しているな」


 目尻に刻まれた皺――纏う空気に反して、その表情と声音はやさしい。


「うん」


 コメットは短く応える。

 

「艦長」


 そこへ、ヘッドセットを首にかけた士官の青年が歩み寄ってきた。


「やぁ、コメットちゃん、と…ん?

 こんばんは、おちびちゃん」


 張りつめた空気の中、にこやかに挨拶をすると、アンジュの頭に軽く手を置いた――無遠慮だが、不思議と嫌な感じはしなかった。


「どうした?」


 艦長に向き直った士官の青年は、それまでとは一転して冷静な軍人の表情に戻り、報告した。


「推定サイズ、通常の艦艇のサイズ以下、恐らく兵器少女(ジゼル)の可能性が高いかと」


 そこへ、入り口の扉が開く。


「お待たせいたしました」


 信濃――先程とは違う、静々と落ち着き払った口調。

 ひやりと底冷えするような緊張感を纏った、それは信濃の軍人としての佇まい。

 まだ見ぬ敵へ向けた“戦意”とでも言い換えようか、張り詰めた空気。アンジュはそれを、少し“怖い”と思った。


「おまたせー」


「おまたせしましたわ」


 続いて、千早とグローウォーム。

 いつもとは違う二人の空気に、さらに場が引き締まる。


「反応から見て、おそらく兵器少女(ジゼル)の可能性が高い。

 速度から見て、恐らく空母を含む中規模艦隊だ」


 艦長がスクリーンに視線を向け、冷静に告げた。


「……追ってきましたのね」


 グローウォームの声が、低く落ちる。


追ってきた(・・・・・)?)


 アンジュが胸の奥でその言葉を反芻した、そのときだった。


「目標データ照合! 特徴一致――」


 CICに声が響く。

 一拍。誰も息をしない。


「第一、第二反応、エセックス級空母――個艦識別、エセックス!レキシントン!」

「第三反応、重巡、ニ、――」


 わずかに言葉に詰まる。


「ニューポート=ニューズ!!」


 空気が、止まった。

 特に、信濃とグローウォームの空気が張り詰めたように感じた。

 スクリーン上の光点はただの記号ではない――名前を与えられた瞬間、それは更なる意味を持つ。

 空気が重くのしかかる――それが何より明確に、敵が強大であることを指し示していた。

 信濃の表情は変わらない。

 だが、その目だけがわずかに細められたのを、アンジュは見ていた。


「…世界最強の重巡洋艦…」


「厄介…ですわね」


 コメットとグローウォームがスクリーンを睨みながらつぶやく。


「へっ、そんなんうちが、打ち抜いたるわ」


 千早は頭の後ろで手を組み、わざとらしく肩をすくめてみせた。強がりなのは、さすがに隠しきれていない。

 一瞬の沈黙、それを裂いたのは、艦長の言葉だった。


「――飛行甲板、発艦最優先。直衛を上げる」


 それは決して信濃達に向けた言葉ではなかったが、信濃は即座にその意味を汲み取ったのだろう。間髪入れず、コメット達へ向き直る。


「わたしとグローウォームは前方迎撃。コメットちゃんはわたしと一緒に来てもらうわ、いいわね?」


「ええ、お姉さま」


 グローウォームの凛とした声音――すっと伸びた背筋にも、指先まで崩れない所作にも、生まれついての気高さが滲んでいる。誰かに守られる側ではない、自ら誇りを背負って立つ者の気配がそこにはあった。


「はい!」


 コメットの真っすぐなまなざし(・・・・)


「う、うちは?」


 1人呼ばれていない千早だけが、なさけない声を上げた。


「貴女は、()()()()()よ」


「は、はァ?

 な、なに冗談いうてんねん!」


 背丈上、アンジュの目の前、デニムのショートパンツの尻をぷりぷりさせながら怒りだす千早――当然であった。しかし


「今回は“マジノ”がいないの。

 “陸地”がなければ貴女は()()()()――」


 あえてだろう冷徹な口調。信濃のその言葉に千早は急速に勢いを失う。


「うっ、せ、せやけどなぁ、うちは――」


「仕方ないですわ。あなたのせいではありませんけれど、今回は耐えてください。

 いいですこと?このまま戦場に出れば、あなたは死にますわ。

 それを分かっていながら、戦友を戦場に送った、そんな後悔をわたくしにさせないでくださいまし」


 グローウォームの静かな制止――生き急いでくれるなという心からの願い。


「千早の分まで私が大活躍してくるから」


 ふんす、と鼻息荒くシャドーボクシングのように何もない(くう)を殴るコメット。


 千早はとうとう、反論の言葉を返せなかった。


「艦長、千早を置いていきます。何かに役立ててあげてください」


「ああ、存分にこき使ってやろう」


 しょげ返った千早を見て、艦長はわざと肩の力を抜いた声音で言った。そのそこには、からかいめいた軽さと、それ以上に年長者らしい気遣いが滲んでいた。


「本来、わたしも防空に残るべきですが…おそらくグローウォームとコメットだけでは持たないでしょう…」


「無論理解している。君の思うままにしたまえ」


 優しく微笑む艦長。

 しかし、それはきっと、軍属が軍属に向ける目線では恐らく――ない。


「戦闘が始まったら、できるだけ早く遠くへ。なんとか時間稼ぎはしますが――」


「ああ、委細承知した。」


 難しいこは分からなかったが、戦況が相当に思わしくないことを、アンジュも肌で感じた。


「申し訳ございません」


「謝ることなどない」


 艦長の視線が、ふとアンジュに向く。

 一瞬だけの沈黙――そして、唐突に投げかけられた問、それは必然だった。


「……その子も、出撃させるのか?」


 静かな言葉だった。責めるでもなく、諭すでもない。ただ現実だけを突きつける問い――その一言に、アンジュの胸はぎゅっと縮む。次に何を答えるべきなのかさえ分からなくなった。


わたしは、世界のある重大な真理を解き明かしてしまった。

この秘密を解き明かした私は、いずれ、消されるであろう。

だが、後世のため、どこかに書き記さねばならない…

後世の皆よ、語り継いでほしい、わたしの研究の成果を。


おれ、この戦争が終わったら故郷に帰って結婚するんだ、というセリフは、決して死亡フラグなどではない。

それは、婚約者NTRのフラグなのだ。

伝承では、FA〇ZAにそれを証明する書物が多数眠っていると聞く。

皆、わたしはもう長くはない…

私の代わりに、その書物の謎を解き明――


2026.4.2.作者

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