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擬人化兵器少女たちの戦場に、貧弱ショタとしてTS転生した私は、それでも仲間を守ってみせる  作者: ねこ太郎


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2/12

第2話 ショタになっていた

「にょわああああああ!!」


「ぎょえええええええ!!」


 アンジュの絶叫につられて、コメットまで奇声を上げる。

 もちろん叫んだ本人が一番何が起きているのか分かっていないのだが。


「え、え、ちょ、なに!?どしたの!?」 


「取れた!?取れてない!いや、付いてるぅぅ!!?なんで!?

 え、ちが、わかんない!!」


 自分でも何を言っているのか分からない。

 アンジュはしゃがみこむように膝を抱え、顔を真っ赤にしたまま震えていた。


 胸のあたりを押さえる。ない。

 恐る恐るもう一度確かめる。やっぱりない。

 そのうえで、下の方に意識が向くたび、頭が真っ白になる。


(なんで!?なんでじゃーーー!?)


 混乱しすぎて、むしろ涙も出なかった。


「……あ、あのさ」


 コメットが心配そうな表情で覗き込む。


「えっと……ほんとに、だいじょうぶ?」


「だいじょばない……」


 潤んだ()()()声だった。

 

(大丈夫なわけがないだろうが。

 だって、ち〇ち〇ついてる)


 さっきまで何となく感じていた違和感が、今はもう誤魔化しようがないくらいリアルだった。


「そ、そっか……うん、そりゃそうだよね!」


(違う、絶対理解してない。

 なにが“そりゃそう”なのか。

 絶対違うから。)


「とりあえず、ここじゃダメ! 風強いし、人も来るし! 中、入ろ!」


「え、いや、でも……」


「でもじゃないの!」


 ずい、と顔を寄せられる。

 さっきまで仔犬っぽいと思っていた顔が、今は妙に頼もしく見えた。


「だいじょうぶ。話はあとでいいから。ね?」


「……」


 アンジュは答えられなかった。


(説明も難しいい、とにかく今は現状把握か…) 


 このままここ居続けるのも、あまり良くないということも理解できた。

 なんせ吹き曝しの、船の上だ。このまま傘でもさせば、遠くまで本当に飛んで行けそうだ。


 コメットは自分が羽織っていた白い上着を、ぱさっとアンジュの肩にかけた。


「ほら。ちょっと大きいけど、ないよりマシ」


「……ありがと…」


「うん!」


 必要以上に優しい笑顔と、元気な返事。


(そうか…)


 多少落ち着きを取り戻したアンジュは、自分の身なりをよく見て理解した。

 いつもより、かなり低い視点。短い手足――恐らくだが自分の容姿はかなり幼く見えてるのではないか。


 ここに来る前(前世)で、恐らくコミュ障だったアンジュは、差し出されたコメットの手を、慣れない手つきで取る。

 温かい。

 そして見た目よりずっと力強い。


 手を引かれるまま歩き出すと、甲板の硬い感触が靴底越しに伝わってきた。

 さっきまで目に入らなかったものが、少しずつ見えてくる。


 灰色の長い甲板と、規則的に引かれた白線。

 遠くに見える艦橋?とかいう大きな塔。

 足元から、ごうんごうんと響く音――機関の唸り。


(ほんとに……空母なんだ)


 テレビの向こうでしか見たことのない、戦うための船。

 やがてコメットが、甲板の片隅にある鋼鉄の扉の前で立ち止まる。

 ハンドルを掴み、慣れた手つきで開放装置を操作した。


 ごう、と。

 風の音が一瞬だけ強くなって、次の瞬間、扉の向こうへ吸い込まれる。


「こっち!」


 中へ入った瞬間、世界が変わった。

 バサバサと荒れ打つ風は途切れて、代わりに金属と油の熱が混じった匂いが鼻を刺す。

 空気はひんやりしていて、壁も床も天井も、どこを見ても無機質な鉄だった。

 白い照明灯が一定間隔で続き、通路の奥へ奥へと消えている。

 足音が、硬い床に乾いた音を立てた。


「……」


 アンジュは思わず振り返る。

 開いた扉の向こうでは、青い空と光が、ひどく遠く見て不気味だった。

 ごぅん、と重い音がして扉が閉まる――風の音が止み、外界と完全に切り離された――胸の中が、少しだけ静かになる。


「歩ける?」


「……うん」


「よし!」


 コメットはまたアンジュの手を引いた。

 今度はさっきより少しだけゆっくりだ。


 通路の途中、作業着姿の整備員らしい男たちがすれ違う。

 誰もが一瞬だけアンジュを見たが、何も言わなかった。

 軍服姿の女性が足早に横を通り抜け、遠くからは、何かの報告を読む声が聞こえる。

 どこか別の通路では、金属を打つような音もした。


(ここ、ほんとに……そういう場所なんだ)


 アンジュは肩にかけられた上着をぎゅっと握った。


「ね、」


 不意にコメットが振り向いた。


「ほんとに、全部わかんない感じ?」


「……うん」


「名前も?ファミリーネームとかは?」


「名前は、たぶん……アンジュ」


「んー…アンジュちゃん」


 コメットはその名前を口の中で転がすみたいに繰り返した。


「うん、かわいい」


「……かわいい、は今いらない」


「あ、ごめん」


 えへへ、とコメットは笑って謝る。

 なんだか少し肩の力が抜けた気がした。

 さっきから、変に問い詰めてこない。

 大丈夫大丈夫と言いながら、ちゃんとこちらの歩幅に合わせてくれている――きっと優しい子なのだろう。

 

「コメットちゃんは……その」


「うん?」


「……なんで、そんなに普通なの」


 口にしてから、自分でも変な質問だと思った。

 けれどコメットは笑わなかった。


「普通じゃないよ?」


 むしろ、少しだけ困ったように笑う。


「だって、空から人が落ちてくるの見たの、今日が初めてじゃないし」


「初めてじゃないんだ……」


「うん。よくあるとまでは言わないけど、ない話じゃないよ」


 やっぱり、よく分からない世界だ。

 アンジュはこめかみのあたりを押さえた。

 するとコメットが、急に思い出したように言う。


「でも、アンジュちゃんはちょっと珍しいかも」


「……なにが?」


「名前、聞いたことない」


 その言い方には、何かひっかかるものがあった。

 名前の響きとして聞いたことがない、というより、もっと――


「たぶん信濃さんたちなら何かわかると思う。あの人たち、そういうの詳しいし」


「信濃さん……」


「うん。あとグロさんと、千早ちゃん」


 それからコメットは、なぜか少しだけ言いにくそうに目を逸らした。


「えっとね」


「うん」


「ちょっと変な人もいるけど」


「え?」


「でも、悪い人じゃないから!」


 不安だけが残る前置きだった。

 コメットは、そんな反応に構わず、明るく笑って歩き続ける。


「だいじょうぶだよ。みんな優しいよ! たぶん!」


「たぶんって言った……」


「こ、細かいことは気にしない!」


(……)


 話しながら通路をいくつか曲がる。

 途中から、人の気配が少しずつ減っていった。

 代わりに空気が変わる。騒がしさが薄れ、ぴんと張った静けさが漂い始める。


「このへんから先は、ちょっとおかたい感じなんだよね」


 コメットが小声で言う。

 それまでの足取りは軽いままなのに、声だけ少し控えめなのが妙に可笑しかった。

 やがて、一枚の鋼鉄扉の前で止まる。

 他の扉よりひと回り大きく、無機質で、重そうな扉だった。

 横のプレートには、ゴシック体でこう刻まれている。


 Briefing Room


 アンジュの足が止まった。


「だいじょうぶ」


 そして、少しだけ声をひそめた。


「ちょっと変な人だけど、いい人だから!」


(それ、不安を煽ってしかないからね…)


 そして、今の言いぐさから“変な人”とは、ある特定の個人を指すことが分かった。

 じと目のアンジュに見守られながら、コメットは扉の開閉スイッチへ手を伸ばした。


 ゆっくりと、鋼鉄の扉が左右へ開いていく。

 アンジュはコメットに背中を押されるまま、一歩を踏み出した。

ルックスより心が大事だ、という人がいるが、あれは嘘だ。

こどもたちよ、みな、騙されてはいけない。

重要なのは見た目である。

その真理にたどり着いた私は、後世のためにこれを書き記しておこうと思う。


2026.3.31.作者

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