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擬人化兵器少女たちの戦場に、貧弱ショタとしてTS転生した私は、それでも仲間を守ってみせる  作者: ねこ太郎


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第11話 信濃の後悔

 コメットの体が落ちていく。

 砕けた艤装の残骸を撒き散らしながら、蒼白い軌跡は力を失い、ただの流星のように黒い海へ沈もうとしていた。


 白い影が海面すれすれを駆け抜けた。

 グローウォームだった。

 月光を弾く金髪縦ロールが、速度に乱れながらもなお気高く揺れている。

 彼女は落下していくコメットの下へ、ほとんど滑り込むように飛び込み、両腕を伸ばした。


――衝撃


 決して軽くはない。砕けた艤装ごと落ちてきたコメットの体を受け止めた瞬間、グローウォームの細い体が大きく沈み、海面を跳ねる。足元で黒い飛沫が爆ぜ、彼女の軍服の裾を濡らした。


「っ……く、ぅ……!

 しっかりなさい、コメット!!」


 絶対に離さない、確かな足取りで腕に抱く。


 コメットを撃墜したのは、ヘルキャットの11.75インチロケットTinyTim(タイニー・ティム)――頑丈なコンクリートトーチカを砕き、艦艇を沈めるために作られた、1,250ポンド級の大型ロケットである。

 本来なら、目標へ向けて切り離し、機体から離れた後に点火して命中させる兵器だ。精密な目標、ましてや移動している飛翔体に当てられるものでは決してない。

 それをヘルキャットは、手で掴んで、立体軌道で直接当てたのである――曲芸としか言いようがない。


「やったにゃ!!」


 最初に叫んだのはヘルキャットだった。

 ここまで自分たちを追い詰めてきた強敵が、ようやく墜ちた。


「……っ、仕留めた、よな……?」


 サンダーボルトも荒い息のまま、食いしばった歯の隙間から吐き出す。

 脇腹も背も、あちこちが焼けるように痛んでいた。分厚い装甲艤装はところどころ(・・・・・・)ひしゃげて裂けている。

 

 水面すれすれに飛行しているのは、急降下を終えたドーントレス。

 あまりにも深い角度からの突入だった。まともなら、そのまま海に食われてもおかしくないほどの無茶な軌道。だが彼女は隼の名に相応しく、ぎりぎりのところで機体を起こし、低く低く海面を舐めるように滑ってなんとか体勢を立て直していた。

 赤い髪が、潮風に煽られ、バサバサと散らばる。


「あんた達!油断しない!!」


 その瞳は、信濃が沈んだ、燃える水面をなお見据えている。


「み、見たよ。直撃だった…!!」

「にゃ、にゃあ……さすがに、あれは終わりだにゃ……」


 しかし視線だけは逸らさない。海へ落ちていくコメットの影を、獣じみた執念で睨み続ける――その刹那


――ぞわり…


 三人の背筋が、凍えるような殺意に反応した。

 爆炎の中、黒煙に覗いた、鮮血色の禍々しい瞳。


「う…そだろ…?」

「なん…にゃ…」

「私の…爆撃が…効いてない?」


 次第に露わになる、信濃の船体。

 外装甲に深く傷は刻まれていたが、決して致命傷ではない。脆く弱い空母が、あれだけの爆撃を受けて、沈んでいない。

 額から一筋血を流し、怒りと、殺意に満ちた、瞳でドーントレス達を睨んでいた。


「…いいえ、これは私の失態…」


 自問のような信濃の、不気味なつぶやき。


「――つい、あなたの背中が頼もしくて、心のどこかで頼りにしてしまったのだわ…」


「お姉さま――」


 戦場を滑るようにして、グローウォームが信濃のもとに駆けつける――意識を失ったコメットを抱いたまま。

 信濃はコメットのすすで汚れた頬を指で拭うと、前髪をかき分けて撫でた。


 ヘルキャットの猫耳がぴくりと震え、サンダーボルトの頬が引きつる。ドーントレスもまた、次の言葉を継げずに信濃を睨み返していた。

 ありえない、と目が言っていた。

 だが、その「ありえない」を現実として立って見せているのが、今目の前にいる女だった。

 月を背負い、炎を背負い、信濃は静かにそこにいた。


「グローウォーム」


 呼びかけは短い。

 だが、その声音に、さきほどまでの艶は一欠片もなかった。


「その子を連れて、離脱なさい」


 一瞬、風の音だけが残った。

 グローウォームの瞳が見開かれる。


「……は?」


 呆けたような声。


「ふ、ふざけないでください!!」


 遅れて激高する――バカにするな。自分の命が危ないからと、仲間を置いて、敬愛するお姉さまを置いて、おめおめ逃げ帰る臆病者だと思うのか、と。

 しかし信濃は意にも介さない。


「コメットちゃんは戦闘不能よ。このままここに置けば、命を落とす…」


「そ、そんなことは、分かっておりますわ!」


 ほとんど叫ぶような返答だった――冷静な言葉ではない。

 腕の中のコメットを抱く力が、わずかに強くなる。


「だからこそ、尚更ですわ。お姉さまもご一緒に――」


「駄目よ」


 即答――冷たく、揺るがず、鋭い答え。


「今ここで誰かが残らなければ、全滅するわ」


「なら、わたくしが残ります!」


「貴女では無理よ」


「っ――」


 あまりにも容赦のない言葉だった。

 おごりも侮辱も見くびりもない、ただ現実だけを切り出した、軍人の判断。

 グローウォームは唇を噛んだ。

 悔しさと怒りと恐怖がないまぜになって、胸の奥で焼けついていた。


「お姉さまを置いて逃げろと、そうおっしゃるのですか」

 

「そうね」


「馬鹿にしないでください!!」


 その瞬間、声がひび割れた。

 いつもの気品も、皮肉も、何もかも剥がれ落ちた、生々しい叫びだった。

 しかし――

 

「わたくしは――」


 そう言いかけた時だった。

 静寂――あまりにも静かな、信濃の瞳に、乱れた心を制された。

 休息に冷えていく心、冷静になる頭。 

 死を覚悟した者の、静かな決意の目――戦場で幾度となく見た戦士の目だった。


「聞きなさい。

 ここで敵を喰いとめないといけないわ…」


「…はい…」


「私の足は貴女よりも遅い――貴女が残っても私は逃げきれない」


「……はい…」


 幼子をあやすような優しい口調で、分かったかしら、と一言一言、表情を窺うように確認を取る。


「…3人沈むか、1人沈むか――そういう話なの」


――そして、追撃がこれで終わるとは限らない。

 戦力は出来るだけ残しておきたい。


 冷徹な言葉で、信濃は自身の言葉を結んだ。


 その押し問答を断ち切るように、海の向こうから轟音が響いた。

 低い、腹に響く唸り。

 信濃がわずかに目を細める。

 グローウォームもはっと顔を上げた。


 来る――敵の後続だ。

 次の瞬間、夜空の向こうにいくつもの光が煌めいた。

 

「――はは!!姐御達が来てくれた!」


 サンダーボルトが笑った。

 さっきまでの警戒を振り払うような、悪辣な笑み。


「間に合ったじゃねぇか!」


「にゃはッ、増援にゃ!ぶわぁーか!!お前たちの負けだにャ!」


「やっと来たわね」


 ドーントレスが達が安堵する。


 最初に見えたのは、砲火だった。

 線ではない。塊だ。

 重巡洋艦の火力が、夜を切り裂いてくる。


 ニューポート=ニューズ。


 その射撃は、美しさすら感じるほど整然としていた。

 迷わず、正確に、冷酷に。

 最短で、最も致命的な場所を撃ち抜いてくる。

 海面を跳ね、空を裂き、信濃たちの逃げ道そのものを削り取るような砲撃だった。


「お姉さま!!」


 グローウォームが叫ぶ。

 直後、さらに空がざわめいた。


 エセックス。

 レキシントン。


 二隻の空母が追いついたのだと、見なくても分かる。

 上空で幾つもの影が散らばった。新手の航空攻撃が、すでに展開に入っている。


 信濃の頭上で、爆裂し、墜落し、黒煙を上げ沈んでいく。

 グローウォームも反射的に身をひねり、コメットを庇うように抱え込んだ。爆風が横から叩きつけ、縦ロールの髪が乱れる。


「――くっ……!」


 砲撃。

 機銃。

 爆撃。

 三体だけでも絶望的だった戦場が、一瞬で別物になった。


 ニューポート=ニューズの主砲が海面を抉る。

 エセックスとレキシントンの航空隊が頭上から圧をかける。

 目の前にはなお、サンダーボルト、ヘルキャット、ドーントレス。


 時間がもう、無い。


 信濃が一歩、前へ出る。

 その歩みは静かで、迷いがなかった。


「グローウォーム」


「嫌ですわ!!」


 それは悲鳴に近い拒絶。


「嫌です! こんな、こんなの……! お姉さまを一人置いて行けるわけが――」


「行きなさい!」


 初めて、信濃が声を張った。

 グローウォームの肩がびくりと跳ねた。


「命令よ」


「……っ」


「この場で泣き言を言う暇があるなら、その子を生かすことだけを考えなさい」


 砲撃がまた飛ぶ。

 今度は近い。

 ニューポート=ニューズの一撃が、信濃のすぐ脇の海面を破裂させる。白い飛沫が夜空へ噴き上がり、その向こうからエセックスの艦載機が低く突っ込んでくる。


 信濃は砲火を上げた。

 月下に開いた艤装が、炎を吐く。

 迎撃の火線が空を塗り潰し、飛び込んできた敵影の軌道を無理やりねじ曲げ、そして折る。

 それでも、圧倒的に数が多い。


「ふぅん?

 まだやる気なんだ」


 遠くから、ニューポート=ニューズの冷えた声が届く。


「てめぇ、まさか一人で足止めできるなんて、思ってねーよな?」


 サンダーボルトが嗤う。


「そう――これは、わたしの失態…

 どうにかここで、おまえ達をすべて葬り去りたいと――…」



――もう少し引き付けて、もう少し懐に誘い込んでから、と――欲をかいてしまった。



 それがコメットを危険に晒した――それは、信濃のまぎれもない後悔。

 信濃の纏う空気が、凍えるようにひやりと静かに沈んでいく。


「な、なんだっていうのよ…?」

 

 その不気味な変化に、底知れない怖れを感じるドーントレス。

 そしてその異変を、グロ―ウォームと戦場でもう一人(・・・・)、感じ取ったものがいた。


「……必ず――」


 グロ―ウォームの声が震えた。


「――必ず、迎えに戻りますわ!!!」


 そう言って、背を向けて全速力で駆け出す。


「はッ!逃がすと思――」

「わたしが追――」

「ッ!?ヤバいにャ――」


刹那、



――精霊殺し(ラ・シルフィード)


信濃の呼びかけに応え、大きな、ドーム状の檻が、夜闇に姿を現した。

それは一瞬だった。

空中を舞う精霊達(航空機)は、なすすべなく羽を折られ、地に伏した――暗い水面に煙を上げて墜落していく。

驚愕に目を見開く、ドーントレスとサンダーボルトを、信濃は静かに殺意の籠った瞳で見つめていた。

ユニークアクセスが増えているようなので、続きで読んでくださってるのでしょうか。

ありがとうございます。

最初は、誰にも読まれないのでは…と不安でしたが、ほんと、ありがたいです。


あ、あの…言いにくいのですが、その…

ぜ、ぜひ、ブックマークと★高評価をお願いできますと…ありがたいな、なんて、げへへ、あ――え?


なんです?

タダじゃ無理?

え?


じ、じゃあ、あなたの癖のキャラを今後登場させますから!!

ね!?おねがい!!!いいでしょ!?



有識者の方へ。こんな兵器、おもろいんじゃね?みたいな意見もあったら教えてください。

いろいろ調べながら書いていますが、マニアックであまり知られてなくて逸話のあるような、WW2時代周りの兵器の話、その他ご意見ご感想お待ちしております!!

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