もやは晴れて
翌朝。ウータンのギルドセンターの前には大勢の記者がいた。ギルドの戦士の不祥事と聞き、誰もがその情報を求めてやってきたのだ。ムラサメはギルドセンター近くにある病院の部屋から、その様子を見ていた。
「この世界のマスコミも同じことやってるのかよ。呆れた。他人の不祥事をネタにして新聞やら雑誌を売ろうだなんて」
ベッドの上で寝ているムラサメは呆れてこう言った。ロマクとの戦いで右足の太ももを負傷したムラサメは、しばらく入院することになったのだ。
「とりあえず、マスコミの連中がここにこないことを祈るか」
小さく呟き、ムラサメは手元にあるグラビア雑誌を手にし、読み始めた。その直後、扉が開いた。
「入るわよ、ムラサメ」
「おー。リミス」
入ってきたのはリミスだった。リミスはお見舞いの品をベッドの近くにある机の上に置き、椅子をムラサメが寝ているベッドに近付けて腰掛けた。
「様子はどう?」
「昨日より痛みは弱くなった。でも、数日は絶対安静だとよ」
「そりゃそうよ。あいつのスキルで太ももを貫かれたんだもん。それから、無茶して動いたから」
リミスは厳重に巻かれているムラサメの右足の太ももを見ながらこう言った。ムラサメは笑いながらリミスの方を見た。
「ま、生きていればこのくらいの傷は治る」
「笑いながら言う言葉じゃないでしょうが」
能天気なムラサメの返事を聞き、リミスは少し呆れてため息を吐いた。しばらく間を開けた後、リミスは口を開いた。
「ありがとう」
その言葉を耳にしたムラサメは、少し考えた。
「俺、何かした?」
「私、感情的になってロマクを殴ってたでしょ? あの時、ムラサメが止めてくれたじゃない」
「ああ。あん時か。気にするなよ」
ムラサメは笑ってこう言ったが、リミスはうつむいたままだった。
「あんたが止めなければ……私はあいつを殺してたわ。後先のことなんて、考えてもなかった」
「若いからしゃーねーよ。だけど、我に戻ってくれてよかったよ。リミスがあいつと同じ畜生になるのは嫌だからな」
ムラサメはそう言って、空を見上げた。
「俺がここに転生する前、いろんな人の依頼を受けていろんな仕事をした。成功した仕事もあったけど、失敗した仕事もある」
「何かやらかしたの?」
「ある女性の依頼だった。誰かを探してほしいって。俺はその女性の言う通りに尋ね人を探してその人のところに連れて行った。だけど、その女性の目的は恨みを晴らすためだった」
「この先の話が分かる。言わなくていいわ」
「気を使ってくれてありがとな。一応あれは仕事をこなしたっつーことになるけど……人の命を救えなかった。あの女性は恨みを持った人を殺した後、高らかに笑ってた」
「それからどうなったの?」
「逮捕された。だけど、目的を果たした直後に頭のねじがぶっ飛んで、精神病院送り。多分今でも、精神病院にいる」
話を終えたムラサメは、ため息を吐いた。
「嫌な思い出だ。俺が仕事をしなければ、あの人は生きてた」
「恨みを買うような人間でしょ?」
「話を聞いたところ、そこまで恨みを買わない人だとさ。調べた結果、あの女性が個人的に、敵意を向けていただけってのが分かった」
「そう……」
リミスは小さく返事をした後、ムラサメの手を握った。
「あんたもいろいろあったのね」
「あったんだよ。一応同い年だけど、人生経験は俺の方が上だからな」
「確かにね」
リミスは返事をし、立ち上がった。
「それじゃあ行くね」
「おいおい、いい雰囲気になったんだから、もうちょっといてもいいじゃねーか。何なら、助けたお礼でキスの一つくらいしてもいいと思うけど?」
「退院した後ね」
と言って、リミスは去って行った。呆然とするムラサメは、リミスの返事を脳内で何度も繰り返していた。
数日後、無事にムラサメは退院することができた。ギルドの戦士や役員が見送りにきたが、リミスの姿はなかった。
「あり? リミスは?」
周囲を見回すムラサメを見て、役員が近付いた。
「リミスさんはギルドセンターで待っています。そわそわしてたので、早く行ってあげてください」
「おう」
話を聞いた後、ムラサメは急いでギルドセンターに向かった。
ギルドセンター入り口、両手を後ろで組んだリミスはムラサメがくるのを待った。だが、ムラサメより先に姿を見せたのは、マスコミの連中だった。
「あなたがリミスさんですよね?」
「今回の不祥事の件について答えてください!」
「あなたは確か、犯人のロマクにいろいろされたと報告がありますが」
いきなり現れ、いきなり質問攻めされたため、リミスは慌てた。それでも、マスコミは質問攻めを止めなかった。助けてほしいとリミスが願った直後、空からムラサメが現れた。
「悪いね、マスコミの皆さん。この子のお相手の予定は、俺が先に取っちまったからな」
「ムラサメ! 退院したのね!」
「ああ」
ムラサメの姿を見たマスコミは、ムラサメにも質問しようとカメラを構えたが、その前にムラサメは魔力を開放し、周囲に強風を発した。
「俺はあんたらみたいな連中が嫌いなんだよね。悪いけど、取材はノーセンキューだ!」
そう言った後、ムラサメはリミスをお姫様抱っこし、空高く飛んだ。
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