回転寿司店のレッドドラゴン事件
250524
週間の短編で32位になりました!
ありがとうございますm(_ _)m
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悪役聖女さんを有名にしよう企画(ぇ
https://ncode.syosetu.com/n4626km/
※聖さんのページ
# 回転寿司店のレッドドラゴン事件
「よお、見た?昨日の『べっ品!』に出てた新人さん」
「ああ、あの子ね!めちゃくちゃ可愛かったよな。編集も効いてるし、一気に人気者になりそう」
ニーチェAB、うっせえわ! ニーチェBC、うっせえわ!
納品先に向かう、賑やかなBGMを纏った配送トラックの中で、運転手の中村と助手席の田中は熱心にスマホ用動画アプリの話題に花を咲かせていた。車内の温度計が示す外気温は真夏の炎天下ならではの数字。しかしトラックの荷台はきっちり冷えており、「回転寿司海鮮△○屋」のオープン前準備に必要な食材が運ばれていた。
その中の一つ、特別な発泡スチロール箱に入った「レッドドラゴンの肉」。通常、完全に冷凍された状態でなければならないそれは、二人の会話の隙間を縫うようにして、わずかに解凍が始まっていた。
「ちなみにさ、この『海鮮△○屋』、明日オープンするんだって。この街に初出店だから大盛況らしいぜ」
「へー、じゃあ今日の納品、けっこう重要なんだな。ところで今日の最終納品ってなんだっけ?」
「えーと…あったあった。『レッドドラゴンの肉』だって。最近流行りの高級食材らしいぜ」
「マジか!あれって本物のドラゴンなのか?」
「さあ?聞いた話じゃ、ダークゾーンって呼ばれる異世界から輸入してるらしいけど、まあ見た目は赤い高級マグロみたいなもんだろ」
二人が「べっ品!」の話題から戻る間に、荷台の温度はわずかに上昇していた。
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オープン前日の夕方、店長の村上は急ぎ足で厨房を回った。
「レッドドラゴンの肉、ちゃんと冷凍庫に入れたか?」
「はい、ちゃんと、専用の魔法印が刻まれた箱に保管しています」と副店長。
「良かった。明日はVIPも来店するらしいからな。間違いがあってはならん」
その頃、冷凍庫の奥では、発泡スチロールの箱の中で、わずかに温かくなった肉片が微かに脈動していた。緑色の魔法印は、肉が半解凍状態だと感知すると赤く変わるはずだったが、工場でのミスで力が弱まっていた。そして夜、店が閑散とした頃、最後のチェックをする者もなく、その箱は静かに夜を明かした。
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オープン初日の朝、「海鮮△○屋」には長蛇の列ができていた。SNSでの宣伝効果もあり、地元住民だけでなく、遠方からのファンも集まっていた。
その中で特に目を引く女性客がいた。黒いワンピースに華やかな赤い髪を後ろに流した美しい女性。洗練された雰囲気と上品な佇まいが、周囲の視線を集めていた。
彼女は「悪役聖女さん」という小説に登場するキャラクターに似ているとSNSで話題になったこともある女性で、地元では有名な美食家だった。回転寿司が大好きで、新店のオープンには必ず足を運ぶほどの熱心なファンでもあった。
「いらっしゃいませ!」
開店と同時に店内に入った赤髪の女性は、カウンター席に着き、次々と皿を取っていった。店長の村上は汗をかきながら、店の奥でレッドドラゴンの準備を進めていた。
「これが噂のレッドドラゴン…」
彼が箱を開けた時、肉は完全には冷凍されておらず、どこか生々しい赤みを帯びていた。だが納期に追われる村上は、それを気にも留めず、素早く寿司ネタとして切り分け始めた。
やがて「本日限定!レッドドラゴン」と書かれた皿が、ベルトコンベアに乗って流れ始めた。フレイアの目が光った。
「これは…珍しいメニューね」
彼女はその皿を手に取り、箸を持った瞬間、肉が微かに震えるのを感じた。しかし、美食家としての好奇心が勝り、彼女はそれをマグロのような高級魚だと思い込んで口に運んだ。
「おいしい…でも、なんだろう、この力強さは…」
レジで会計を済ませた悪役聖女が店を出ようとした時だった。突如、店内に轟音が響き、厨房から炎が噴き出した。残りのレッドドラゴンの肉が急速に変形し、小さいながらも完全なドラゴンの姿となって、怒りの咆哮を上げたのだ。
「我が身を食らう者ども!」
パニックになる客たち。赤髪の女性も他のお客さんと同様に驚き、出口へと急いだ。
後日、この「回転寿司ドラゴン事件」は、SNSで大きな話題となり、幸いにも多くが軽傷で済んだものの、店舗は完全に焼失。保険会社は「ドラゴンによる災害」という前例のない事態に頭を抱えることとなった。
(完)