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邪教聖女

転生者のピンク頭聖女が精霊の加護を受けし者(自称)の令嬢の親にアドバイスするくだり~日本から、転移してくるものは、善いものだけとは限らない的な話

作者: 山田 勝

 生徒会執行部の書記、ダン男爵家のサリーと申します。ミリダ様の様子はいかがですか?ご存じの通り。あたしは、ぜんせありのおつむが弱いと評判のピンク頭の聖女です。

 あたしが何を言っても、皆、軽んじます。



「どうか、安心して、何が起きたのか?原因をお話くださいな」


「はい、娘があのようになったのは、一月前に、異世界から来た、精霊の依り代を拾ったからです。精霊の名は、ショテンゼンシンと言っていました」


 ・・・諸天善神か?これは、ビンゴだね。カルトの定番だね。因果だね~



「詳しく。お役にたてそうですわ」



「はい、娘は、夢見がちで、よく始まりの草原に散策に行きました。異世界から、人が来た伝説があります。現在は柵で囲っています。よく、柵の外から、異世界人はいないかと探していました」





 ☆☆☆王都郊外・始まりの草原


「お嬢様、滅多に異世界人は現れませんわ。帰りましょう」

「分かったわ。アン、異世界人は、やっぱり居ないわね。伝説だったのね。私が、ファーストコンタクトを取る令嬢になろうかと思っていたのに」



 ヒュ~ヒュ~


「風が強いわね。あら」


 ヒラヒラヒラ~~


「まあ、紙が飛んできましたわ。何て書いてあるのかしら、異世界の文字だわ!」


「お嬢様、気持ち悪い文字ですわ。王国に届けましょう」


「アン、届出るのは人よ。これは違うわ」



 ・・・・



「ええ、娘は、40センチ×20センチくらいの紙を拾ってきました。それから、部屋にこもって、奇妙な詠唱をするようになりました。『ナーゲーキョー』と唱えます。それも、繰り返しです。一日、何時間も、異世界のものでしょうか・・・精霊の加護を受けし者=ホッケのギョウジャと名乗るようになったのは、ご存じのとおりですね」


 べベン♪


 ・・・法華の行者ね。しかも、


「ククク、神だけに、紙ね」



「聖女様、お手にしているリュークは・・」


「お気になさらないでくださいませ。因果を感じると、奏でる癖がございまして、して、ミリダ様は、明るくなった。何でも前向きになったのではございませんか?」


「はい、確かに明るくなりましたが・・・・何ていうのか・・・」


「笑顔に、底がない。闇のない笑顔・・」


 べベン♪


「はい、その通りです。ニコニコと笑顔ですが、ちょっとしたことで、キレます。学園でも」



 ☆学園


『皆さま、当家にはご本尊があります。私の魂です。祈りに来てください。さすれば、精霊の加護がついて、功徳は計り知れません』


『あの、ミリダ様、我国は、女神教です。それは・・・』


『大丈夫ですわ。女神さまが、ご本尊様を信仰すればいいのです』


『そんな。女神さまが祈るって・・・』

『分かりませんわ』


『ピキー!皆さま、大悪ですわ。自分の心が師のソウジョウマンですわ!!グスン、グスン』




 ・・・・


「それから、ご存じのように、長期欠席になりました。気晴らしに、馬を買ってあげました。ミリダ専用の乗馬練習用です。あの子、欲しがっていたから、そしたら・・」




 ☆回想


『まあ、お馬さんを買っていただけたのね』


 ヒヒ~ン


『そうだ。趣味の乗馬でもして、気晴らしでもするがよい』


『フフフフフフ~、ア~ハハハハハ、私、一日、3時間お祈りしていたら、ショテンゼンシンが、願いをかなえてくださいましたわ!ご本尊様のおかげだわ』



 ・・・・


 ゾォと、しました。家族への感謝がない。すべて、ご本尊様に祈ったおかげになっている。


 メイドのアンは、勧誘に耐えられずに、レディースメイドを辞しました。


『アビキョウカン地獄に落ちるわよ!』


 と長年世話になったアンに投げつけました。



 ・・・・・・



「今は、誰も、ミリダのお世話をしません。皆、気味が悪がっています。いっそのこと、強制的に、あのご本尊だとかいう紙を燃やそうかと思っていますが、何が起こるか怖くて、怖くて・・・・」


「なるほどね。こりゃ、因果だねえ」


「王国に届けようかと検討しています。ミリダは女神教会で療養が最適かも、別れることになるのかもしれませんが・・・もう、こうするしか助ける方法が思いつかなくて・・・」


 べベン!



「そいつは、お角違いだ。善因善果・悪因悪果・因果応報、助けるのは、旦那様と夫人、貴方たちだよ」


「しかし、どうやって」


「お話を聞くのさ」


「でも、話は、矛盾ばかりしています。精霊の加護があったのに、怪我をした話とか・・信心をしていなければ、もっと、大変なことになったとか。あの紙が来る前の話を持ち出します。指摘すると、ピキー!となるから・・・」


「そうじゃないのさ。全力で。心を込めて聞き流すのさ」



 ・・・結局、学園から来た転生聖女のいうとおりにした。ピンク髪の目立つ令嬢だ。男爵令嬢だから、爵位のない王宮役人である私は、逆らえない。渋々、受け入れることにした。


「旦那様、大丈夫でしょうか?」

「ダメもとだ」



 ミリダの部屋から、あの薄気味の悪い詠唱が聞こえてくる。



「ナーゲーキョー!ナーゲーキョー!ナーゲーキョー!・・・」


 トントン!


「入るよ。ミリダ・・・話を聞きたい」

「ええ、たまには、お父様と、母とお話をしましょう」



「悪知識はいらないわ!出て行って!」


「違うよ。ミリダの精霊様のお話を聞きたいのだ」

「ええ、そうよ。ご本尊様は、勧誘をしなさいと命じるのよね」


「シャクブクよ。悪を折って、伏せる正義の行いよ!」


「だから、シャクブクを受けにきたのだよ」


「まあ、そうですの。ジャジャジャーン!東京戦果報告会地域友好雑談会を行いまーす♡」


 トウキョウ?戦果報告会・・・聞きなれない異界の言葉を口にしている。

 やはり、異世界神に取りつかれたのか?



 ・・・ここで、女神様にもシャクブクとやらをするのかと問いただしてはいけない。。

 あのピンク髪の聖女は・・・


「そうか、そうなのか」

「そうなのよね」



『どんなに、矛盾した話があっても、そうか、そうかと、聞き流すのさ』

 と言っていた。本当にこんな簡単な方法で、昔のミリダに戻るのか?


 引っ込み思案だけど、思慮深くて、優しい娘に・・・


「お父様、泣いているわ」

「グスン・・・いや、ミリダの話を聞けて、うれしいのだ」



 それからの話は、覚えていない。

 良いことは、すべて、ご本尊様のおかげで、悪いことは、祈りが足りないと帰結する。


 ああ、どうして、こんな子に・・いや、いかん。いかん。

 あのピンク髪は言っていた。



 べベン♪


『話を聞く。時には、苦行さ』

『しかし、何か魔法とか、悪魔払いの儀式とかしなくてよろしいのですか?』

『この段階なら、まだ、幼虫ってところさ。機関誌を発行して、皆に売り出したり、国が滅ぶとか言い出したら・・・ヤバいのさ』



 ・・・私は、全力で聞き流した。

 しかし、ところどころ、ミリダの話から、幼いころから

 寂しさを感じていたのだろうと分かった。



 結局、8時間、ミリダは一方的に話し、力尽きた。


 ドタン!


「湯あみだ。いや、まず睡眠だ。寝台に」

「ええ、その前に、報告だわ・・・」


 カチャ!


「ごめんよ」


 べベン♪


 あのピンク髪の聖女が入ってきた。


「ちょいと、このご本尊様を燃やしに行ってきます」


「え、そんなことをして大丈夫ですか?」


「ええ、これはね。ほら」


 ピラ


 裏側を見せる。何が書いているかわからない。


「これは、何のことはない。印刷物なのさ。異界では、カラーコピーと呼ばれていたのさ」

「ええ」


「この異世界の教団には、教義はない。拝むものもない。形だけ。教祖を拝んでいる新興宗教なのさ。その悪い魂が、異世界転移したってからくりさね」


 そして、ピンク頭はご本尊を手に我家を去った。




 ☆始まりの草原



「成仏しなさい。ここにあんたの居場所はございません。どうか、悪濁末世の日本を天上界から見守ってくださいな。着火!」


 ボオオーーーーーーーー



 べべン♪べベン♪


 せめて、燃えている間は、唱えてあげよう。

 前世の縁





「南無妙法蓮華経南無妙法蓮華経南無妙法蓮華経南無妙法蓮華経・・・・」



 ピカッ


 ほほ、前世が浮かんでくるね。



『お爺ちゃん。畑で何を燃やしているの?』

『おう、佐理、戦果研究会の本尊だよ。お前の母ちゃんの頼みで、書類にサインしたら、これが送られてきた。絶対にやらないしな。気味が悪い』

『大丈夫なの?』

『さあ?』

 それから、お爺ちゃんは2年後に、亡くなった。享年72歳だ。


『まあ、ご本尊を燃やしたから、病気で・・・』

『見て、あの死顔、題目を唱えない人は苦しそうな死顔ね』


『お前ら出ていけ!』

『仏教は厳しいのよ!事実を言ったまでよ!』


 お爺ちゃんの親戚と、母の友達、戦果研究会がもめてる。


 ああ、燃やす役は、あたしが引き受けよう。





 ☆貴族学園


「サリー、ミリダ様にプリント届けにいったのよね。どうだった?邪教付きだと聞いたけど」


「えー、サリー、わかんない。だけど、邪教の依り代は、風で飛んで、お庭に落ちたの、サリーが、焚火の発火剤にして、燃やして、お芋を食べた感じ」


「サリー、王国案件よ。何で、他家のお庭でお芋を食べているの!」


「大変です。ミリダ様が登校されました・・普通です」

「よし、生徒会一同で出迎えよう」



 ・・・・


「み、皆さま、その節は、大変ご迷惑をおかけしました。グスン」


「いいのよ。過ぎたことよ」

「ああ、これから、遅れを取り戻せばよい。頼むぞ。エリザベス」

「はい、殿下、もちろんでございますわ」

「皆に、サポートするように通達するぞ」


「皆さま。ありがとうございます」


 ニコッ


 ミリダ嬢は力なく微笑んだ。

 力強くではないが、芯の強さを感じられたと云う。


 異世界と呼ばれる日本から来る人、物は、善いものだけではないのかもしれない。









最期までお読みいただきありがとうございます。

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