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呪われ黒騎士の英雄譚 ~脱げない鎧で救国の英雄になります~  作者: さとう
第四章 六魔将

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帰還後のラクレス

 王都ソラシルの白き城門が見えた瞬間、張り詰めていた空気が、ようやく緩んだ。

 遠征から戻った部隊の先頭を歩くのは、黒鎧を纏った一人の男――ラクレス・ヴェンデッタ。

 その背後には、光のマントを翻す七曜騎士『光』のレイアース、そして軽装のまま周囲を警戒するエリオの姿があった。

 城門の兵士たちは、彼らの姿を認めるや否や、慌てて号令を飛ばす。


「七曜騎士帰還!! 任務、完遂!!」


 門が開かれ、王都の日常が目の前に広がる。

 白い石畳、行き交う人々、遠くから聞こえる市場の喧騒。

 それらすべてが、つい先ほどまでの死地が幻だったかのように思わせた。


(……戻ってきたんだな)


 ラクレスは、胸の奥で静かに息を吐いた。

 王城では、簡潔な報告が行われた。

 魔装者三名の討伐、そして敵の斥候が撤退したこと。

 余計な誇張はなく、事実だけを淡々と並べた報告だった。


「――以上です」


 最後にそう締めたのは、エリオだった。

 報告を受けた上官たちは、深く頷く。


「ご苦労だった。想定以上の戦果だ」


 そう言われても、ラクレスは特に表情を変えなかった。

 ただ、無事に戻れたという事実だけが、胸の奥でじんわりと重みを持っていた。

 報告が終わり、解散となった廊下で、エリオがラクレスの肩を軽く叩く。


「ダンテ……本当に助かったよ。正直、あの状況で全員生きて帰れるとは思ってなかった」

「……俺一人じゃ無理だった」

「謙遜はいいって。君がいなきゃ、あの場は崩壊してた」


 そのやり取りを聞いていたレイアースが、一歩前に出る。


「ダンテ」


 彼女は、真っ直ぐ彼を見た。


「改めて礼を言う。お前の判断と覚悟が、皆を生かした」


 一瞬、言葉に詰まる。

 彼女から、こうして正面から感謝を告げられることは、そう多くない。


「……役目を果たしただけだ」

「それでもだ」


 レイアースは、柔らかく微笑んだ。


「お前が戻ってきてくれて……よかった」


 その言葉に、ラクレスは視線を逸らし、小さく頷くしかなかった。


 ◇◇◇◇◇◇


 久しぶりの自室は、驚くほど静かだった。

 鎧を外し、剣を壁に立てかけ、ベッドに腰を下ろす。

 ベッドが軋む音……それだけで、身体の力が一気に抜けた。


「……生きてる」

『ケケケ。そりゃよかったなあ』

「ああ。本当の疲れたな……眠い」


 ダンテがからかうように笑う。ラクレスは適当に返事をした。

 単純な事実だが、それが何よりも重い。

 目を閉じると、戦場の光景が脳裏をよぎるが、不思議と心は荒れていなかった。


 ――コンコン。


 控えめなノック音が、扉の向こうから響いた。


「開いてる」


 入ってきたのは、ウルフとアクアだった。


「よう、まだ死んでなかったか」

「フン、ちょっと失礼ね。むしろ元気そうじゃない」


 二人とも、いつもの調子だ。

 それだけで、場の空気が一段軽くなる。


「で? 今回の件、詳しく聞かせてもらおうじゃないか」

「お酒、付き合いなさい」

「え……」


 ウルフはジョッキを煽るような動きをし、アクアが短くそう言った。

 ラクレスは微妙に首を傾げて言う。


「……今から?」

「今だから、だ」


 ウルフに肩を叩かれ、ラクレスは一瞬迷う……そして、頷いた。


「……わかった。でも、あまり飲めないぞ?」

「問題はない。話がメインだしな」

「そうね。レイアース、エリオと一緒だったのよね? いろいろ聞かせてもらうわよ」


 二人に連れられ、ラクレスは町へと出かけるのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 王都の酒場は、夜になっても賑わっていた。

 木造の店内には、笑い声と酒の匂いが満ちている。


「「「乾杯!!」」」


 三人のジョッキがぶつかり合い、音を立てる。

 せかされたので、ラクレスは今回の戦いについて説明する。

 エリオに頼まれ、魔装者三人と同時に戦ったこと、エリオとレイアースも魔装者と戦ったこと。そして、戦い方、敵の情報などを語る。

 終わるころには、ジョッキ三杯目になっていた。

 ウルフはジョッキを煽り、ドンとテーブルに置く。


「三人相手に生き残るとか、どれだけの無茶をした?」

「無茶しかしてないさ」


 ラクレスの答えに、ウルフが大笑いする。


「だろうな!! チッ……オレがその場にいれば、お前の負担は軽減されていただろう」


 初めて出会った時の敵意が嘘のように、ウルフは親しみやすくなっている。

 アクアも、頬を赤く染めてチーズを咀嚼。


「フン。あたしだって、一緒に戦いたかったわ。くっそー、レイアースのヤツ……今度はあたしがいっしょに、いくからねぇ」


 アクアは酔っているようだ。やや呂律が回らなくなっている。

 そのとき、背後から声がした。


「――私も混ぜてくれるかしら?」


 振り向くと、そこにはエクレシアが立っていた。

 驚くラクレス、ウルフ。アクアはぼんやりとエクレシアを見ていた。

 ラクレスは言う。


「……いつからいた?」

「今来たところ。楽しそうだったから」


 当然のように席に加わる彼女に、誰も文句は言わなかった。

 酒を飲み、話をする。戦いの話、失敗談、どうでもいい愚痴。

 ラクレスは、グラスを傾けながら思う。


(……こうして、戻って来られたんだ)


 ただ、仲間と酒を飲む夜。

 それが、何よりも尊いと感じられた。

 だが――その安堵は、長くは続かない。

 この平穏が、嵐の前触れであることを、まだ誰も知らない。

 ここではないどこかの国では、静かに崩れる準備を始めていた。

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月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~
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