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呪われ黒騎士の英雄譚 ~脱げない鎧で救国の英雄になります~  作者: さとう
第四章 六魔将

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次なる舞台

 魔界――『罪滅』地区。

 常に赤黒い瘴気が立ち込め、地表には罰を刻むような亀裂が走るこの地は、冥府六将が一角、『罪滅』のエクスパシオンの支配領域である。

 その中心にそびえるのが居城。黒曜石のような外壁と、無数の処刑台を模した尖塔を持つ巨大な居城だ。

 その最上階、大広間。

 安っぽい椅子に腰掛けていたのは、白と黒の仮面をつけた魔人――エクスパシオンだった。


「――はは……ははははは!!」


 仮面の奥から、愉悦に満ちた笑い声が響く。

 彼の前には、二人の配下が跪いていた。

 一人は、大きなツボを背負った少女、カトレア。

 もう一人は、首にニセモノの蛇を巻いた少女、シュネク。

 二人は主の機嫌が極めて良いことを察し、言葉を挟まず沈黙を守っている。


「聞いたかい? あの鎧クン……やっちゃったよ」


 エクスパシオンは、玉座の肘掛けを叩きながら言った。


「凶悪級を三つ、一人で屠ったそうじゃないか。しかも、魂まで喰らったと来た」


 その声音は、怒りではない。恐怖でもない。

 明確な――『喜び』だった。


「いやー楽しいね。実に楽しい、あはは!! こんなに楽しいのは久しぶりだよ」


 エクスパシオンは立ち上がり、仮面を被って広間を歩く。

 仮面の奥で、確実に笑っているのがわかる。


「七曜騎士に任命されているけど、あれは間違いなく『こちら側』だ。もしかしたらボクら冥府六将に匹敵する存在かもしれない……そんな彼が牙を剥き、同士である魔族を喰らう。いやぁ、長く生きてるけど、こんなこと初めてだよ!!」


 彼は断言した。


「楽しくなる。もっともっと楽しくなる。あはははは!! ゲームを初めてよかったよ!!」


 エクスパシオンは子供のように笑っていた。

 そして、カトレアは静かに口を開いた。


「……では、次の『遊戯』を?」

「ああ」


 エクスパシオンは頷いた。


「これまでは様子見だった。だが、もういい。こちらが一段、盤を進める」


 その時だった。広間の空間が、歪んだ。

 空気が圧縮され、知識と狂気が混ざったような魔力が満ちる。


「おっとっと。いやぁ~、楽しそうだねエクスパシオン。キミの笑い声、城全体に広がってたよ?」


 声と同時に、空間から一人の魔人が姿を現した。

 冥府六将、『天津甕星』ペシュメルガ。

 長衣を纏い、手にした魔導書のホコリをポンポン払う。


「おやおや、これはこれは。ペシュメルガ……引きこもりのキミが、わざわざここに来るなんてね」

「まぁね。これで冥府六将の配下が一人、みんな死んじゃった……ああ、ニャンニャンは別か。まあ、そろそろキミがゲームを次の段階に進めると予想してね、提案に来たんだ」

「提案?」


 ペシュメルガは「うん」と淡々と言う。


「『暗黒鎧』……あれはすごいねぇ。魔神様に喰らわせれば間違いなく、その濃くどす黒い魂は至上の糧となる。極上の栄養で間違いなく魔神様は復活するよ。正直、今のうちに仕留めたいね」


 エクスパシオンは肩をすくめる。


「だろう? だからこそ、次は派手にやろうと思ってね。誰をぶつけるか……」

「――愚策だね」


 即座に、ペシュメルガは否定した。

 広間の空気が、一瞬で冷える。


「直接戦闘じゃ、配下じゃ勝てないよ。三対一でも負けたんだ。それに、魂を喰らってさらに強くなってるはず。このまま配下を全員食らわせれば、冥府六将であるボクらと同じ領域まで登ってくる。そうなればボクらが直接戦うしかない……もし、ボクらの一人でも負けて、魂が喰らわれることがあれば、もう手が付けられない」

「まあ、理にかなっているね。でも、ゲームの仕掛け人はボクだ。キミにどうこう言われてもねぇ」

「だから、提案なのさ」


 ペシュメルガは歩み寄り、エクスパシオンの前に立つ。


「彼を直接叩くんじゃなくて、彼の周りの『世界』を叩くのさ」

「……ほーう?」


 ペシュメルガは、静かに言った。


「一国を舞台にする。彼じゃなく、彼の周りを狙う。それで、彼が奔走する姿を見るのも楽しいんじゃない? 舞台や仕掛けを利用すれば、真正面じゃなくても彼を倒せるかもしれないよ? それに……そういうの得意な子もいるでしょ」


 ペシュメルガは、チラッとシュネクを見た。

 エクスパシオンは、笑みを深める。


「国堕とし、か。それも悪くないねぇ」

「でしょー? 堕としがいのある人間の国、いくつか見繕ってみたよ」


 ペシュメルガは、手にした本をめくる。すると透明なページを何枚か千切り、エクスパシオンに投げる。そのページはエクスパシオンの前で塵となり、エクスパシオンの頭に吸収された。


「……へえ、面白いね。ていうか、こんな国があったなんてね」

「いいでしょ? ボクら魔神崇拝者ではない、人間たちの……『女神崇拝者』たちの国。そこを舞台にして、国堕としゲームをする……」

「いいね~……ペシュメルガ、キミの提案に乗ってもいいかもね」


 エクスパシオンは手をパンと叩く。


「ダンテくんは人間が好きみたいだ。もし、人間が大勢犠牲になれば……心が、折れる」


 エクスパシオンが続きを口にした。


「あるいは、闇に堕ちる」


 沈黙が落ちる。

 やがて、エクスパシオンは大きく笑った。


「ははははは!! いい!! 実にいい提案だ、ペシュメルガ!!」


 彼は両手を広げた。


「よし。『ゲーム』の盤を、国家規模に拡張しよう。主役は――ダンテくんと、その国だ。シュネク、今回はキミの出番だよ」


 シュネクが頭を垂れる。


「承知しました」


 ペシュメルガは踵を返し、転移の準備に入る。


「じゃ、細かいところは任せるね。帰って準備しなきゃな~」

「ああ、ありがとうペシュメルガ。それと……提案を聴くのは今回だけ。フフ、わかってるよね?」

「もちろん。キミを手名付けようなんて思ってないさ……じゃあ」


 空間が再び歪み、彼の姿が消える。

 後に残ったエクスパシオンは、椅子に戻り、静かに呟いた。


「踊ってくれよ、ダンテくん。次の舞台は女神崇拝者の国。ある意味で……キミにとって最悪の国だ。フフフ、さぁて……楽しませてもらおうか」


 仮面の奥で、確かな期待が燃えていた。

 それはやがて、人界を巻き込み、一国を飲み込む『災厄』へと姿を変える――その、始まりだった。

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月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~
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