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呪われ黒騎士の英雄譚 ~脱げない鎧で救国の英雄になります~  作者: さとう
第四章 六魔将

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高まる力

 戦場に、静寂が戻りつつあった。

 つい先ほどまで三つの殺意が渦巻いていた場所には、今や倒れ伏した三人の魔装者と、立ち尽くす一人の男だけが残されている。

 ラクレス・ヴェンデッタは、剣を下ろしたまま動かなかった。

 呼吸は荒く、黒鎧の内側で心臓が強く脈打っている。

 そして。彼の足元に転がる、三つの呪装備。

 砕けた棍棒の核、血に濡れたヘッドドレス、ひび割れた半透明のプレート。

 それらが、微かに――いや、はっきりと脈動し始めた。


「……ダンテ」


 ラクレスが呟くより早く、黒鎧が低く鳴動した。


『ああ。ごちそうだぜぇ? ケッケッケ!!』


 ダンテの声が、いつもよりも生々しく響く。

 ラクレスが呪装備に手を向けると、棍棒、ヘッドドレス、半透明のプレートが砕け散り、半魔神の魂が飛び出し、ラクレスの手に吸い寄せられていった。

 それは――魂。

 女神カジャクトによって歪められ、封じられた半魔神の魂そのもの。


『いただきまぁ~す!!』


 黒鎧が、喰らった。

 呪装備に宿っていた魂が、悲鳴とも嘆きともつかぬ波動を放ちながら、鎧の奥へと引きずり込まれていく。

 次の瞬間……ラクレスの膝が、わずかに沈んだ。


「っ……!?」


 重い。

 比喩ではない。

 まるで世界そのものが、突然彼の身体にのしかかってきたかのような圧力。


『半魔神級の魂が三つだ。さすがに……少し、効いたな』

「少し、って……!!」


 ラクレスは歯を食いしばり、体勢を立て直そうとする。

 だが、いつもと同じ動きが、わずかに遅れる。


(身体が……重い!?)


 魔力の流れが変わった。

 鎧と肉体、そのつなぎ目が一瞬だけ軋んだ感覚。


『安心しろ。拒絶反応じゃねぇ』


 ダンテの声が、低く落ち着いた調子に戻る。


『力が増えた分、馴染むまでの誤差だ。ほんの一瞬で終わる』

「……そういうのは、事前に言え」

『言ったところで変わんねーだろ』

「当たり前だろ……!」


 だが、数秒もしないうちに――重さは、嘘のように引いていった。

 代わりに、黒鎧の内側から湧き上がる感覚。

 より深く、より濃く、闇が根を張った感触。


『……よし』


 ダンテが、満足そうに息を吐く。


『これで、凶悪級三つ分だ。悪くない』

「悪くない、で済ませるな……」


 ラクレスは肩で息をしながらも、ゆっくりと立ち上がった。

 剣を地面に突き立て、空を仰ぐ。


「……で? 強くなったのか?」

『おう。命も補填できた。やっぱ質のいい魂は違うねぇ』


 ダンテは、愉快そうに笑った。


「それ、褒めてるのか?」

『最高級の賛辞だ』


 そのときだった。


「――ダンテ!!」


 聞き慣れた声が、戦場に響いた。

 白い光を纏って駆け寄ってきたのは、レイアースだった。

 その少し後ろからエリオも続く。


「無事か!?」

「……派手にやったねぇ」


 レイアースはラクレスの前で立ち止まり、全身を見渡す。

 血、傷、ラクレスの鎧を見て、小さく息を吐く。


「……生きてるな」

「ああ。なんとか」


 短い言葉……だが、それで十分だった。

 エリオが、肩をすくめる。


「いやあ……正直、もうちょっと時間かかると思ってたんだけど。三人まとめて相手して、この結果は上出来だよ」

「……上出来、で済む話じゃない」


 レイアースは、ラクレスを真正面から見据えた。


「無茶をしすぎだ。三対一に持ち込んだのだろう? 命を失っていた可能性もあるぞ!!」

「……そうか」

「そうだ」


 即答だった。


「だが――」


 彼女は一度、言葉を切り、そして。


「よくやった。七曜騎士として、お前を誇りに思う。ありがとう、ダンテ」


 真っ直ぐな声で、そう言った。

 ラクレスは一瞬、言葉を失い――やがて、視線を逸らした。


「……礼を言われるほどのことじゃない」

「言わせてくれ」


 レイアースは、そう言って微笑んだ。

 エリオが、軽く手を叩く。


「はいはい、感動は後にしてさ。これから残務処理の時間。それに、敵がまだいるかもしれないし、警戒は続けるよ」


 エリオはそう言い、ラクレスとダンテはようやく我に返るのだった。

 

 ◇◇◇◇◇◇


 その頃――戦場から、はるかに離れた大樹の上。


「……うへえ」


 そこにいた小柄な影が、目を見開いた。

 魔装者ケットシー軽快な身のこなしを誇る斥候であり、冥府六将に仕える者の一人。

 彼は、遠眼の魔具を通して戦場を見ていた。

 ――否。見ていた、つもりだった。


「……うっそぉん」


 視界に映るのは、倒れ伏すモクレン。

 動かないジュリアン。

 そして――完全に沈黙したインビジブル。


「……全滅?」


 背筋に、冷たいものが走る。


「いや、いやいやいや……待て待て待てにゃん」


 彼は慌てて魔具を外し、周囲を見回した。


「……あの三人、いい感じに押してたけど、一撃ずつ入れられて負けちゃった。うへええ……こわい」


 信じられなかった。

 凶悪級呪装備を使う魔装者が、三人同時に。

 しかも――相手は、一人。

 ケットシーは、即座に判断した。


「これは……報告案件。いや、報告だけじゃ済まない。早くニャンニャン様に……!」


 天仙猫ニャンニャン、冥府六将の一角。

 軽やかな跳躍、逃走。

 もはや、戦場を振り返る余裕すらなかった。


 ◇◇◇◇◇◇


 再び、ラクレスたちの元。

 エリオが、空を見上げる。


「……逃げたね。一匹」

「え?」

「な、何? エリオ、一匹……とは、どういうことだ?」

「そのままの意味。斥候か、偵察か……気配は掴んでいたけど、すごい速さで遠ざかってる。さすがに追いつけないな」

「な、なぜそれを先に言わなかった!!」

「逃げちゃうかもしれないでしょー? とりあえず泳がせて、接近してきたら、って考えてたんだけどね……まあ、仕方ないか。そうだよね、ダンテくん」


 ラクレスは、静かに答えた。


「ああ、問題ない」

『むしろ、好都合だ』


 ダンテの声が、低く響く。


『伝えろ。見せつけろ。冥府六将に』


 黒鎧が、わずかに蠢いた。


『――狩られる側が、入れ替わったってな』


 ラクレスは、拳を握る。

 レイアースとエリオが、その背に並ぶ。

 戦いは、終わった。

 だが――物語は、確実に次の段階へ進み始めていた。

 遠く、見えない場所で。

 天仙猫ニャンニャンへと、凶報が届こうとしていることを――まだ、誰も知らない。

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月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~
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