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呪われ黒騎士の英雄譚 ~脱げない鎧で救国の英雄になります~  作者: さとう
第四章 六魔将

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呪装者との戦い⑤

 戦場の空気が、目に見えて歪んだ。

 ラクレスの前に立つ三人――モクレン、ジュリアン、インビジブル。

 だが、三人の視線は必ずしも同じ方向を向いてはいなかった。


(……連携する気は、ないな)


 ラクレスは剣を構えたまま、三者の気配を読む。

 互いに背を預ける様子はなく、むしろ――。


「フン……卑怯者どもが、同じ獲物に群がるか」

「群がる? 違うわよ、モクレン。奪うの」

「おやおや。お二人とも、先走るのはよくありませんねぇ」


 インビジブルの声は、すでに姿を失った空間から響いていた。

 次の瞬間だった。

 ゴンッ!! と、大地が爆ぜる。

 モクレンが地を蹴り、巨大な棍棒を振り抜いた。


「まずは正面からだァ!!」


 棍棒は瞬時に巨大化し、建物一つ分の質量を叩きつける。


「っ――!」


 ラクレスは後方へ跳躍。

 直後、棍棒は極細化し、鋼線のような形状で追撃してくる。

 剣を構え、棍棒を受け止める。


「く……っ!!」


 剣で弾くが、重い。

 細いにもかかわらず、質量がまるで変わっていない。


(まともに受け続けたら、剣がもたない……!)


 だが、その瞬間。


「捕まえたぁ」


 背後から、冷たい感触。

 ラクレスの腕と脚に、髪が絡みつく。


「ジュリアン、貴様……!!」


 モクレンの棍棒が、舌打ちするように空を切った。


「チッ……邪魔をするな、女ァ!!」

「うるさいわね。先に殺したほうの勝ちでしょ?」


 髪が締まり、呼吸が奪われる。

 ラクレスは呼吸が荒くなるが、静かに息を吐いた。


『おい、ラクレス。落ち着け』

(……わかってる)


 ラクレスの背中から、黒い影が噴き出す。


「『黒ノ蜘蛛脚(ブラックタランチュラ)』!!」


 八本の脚が展開され、髪を切断。

 同時に地を蹴り、ラクレスは宙へと逃れる。

 ――しかし、そこへ。


「今度は、こちらですよ」


 見えない刃が、胸元を掠めた。


「っ――!」


 インビジブルの攻撃。

 透明化したナイフが、急所を正確に狙ってくる。


(見えない……気配も薄い……!)


 ラクレスは即座に『黒ノ糸(ブラックスレッド)』を周囲へばら撒く。


「無駄です。私に当たる前に、あなたが死にますから」


 糸は空を切る。

 その背後で、モクレンが吼えた。


「どいつもこいつも、好き勝手しおってぇ!!」


 棍棒が再び巨大化し、周囲ごと叩き潰す。


「邪魔!!」

「……っ!」


 ジュリアンの髪が吹き飛び、インビジブルの透明化が一瞬乱れる。


(今だ――!)


 ラクレスは、その“乱れ”を逃さなかった。


「『黒き閃光(ブラックレイ)』!!」


 漆黒の光線が、空間を穿つ。

 インビジブルの肩口が抉れ、姿が一瞬露わになる。


「チッ……!」


 だが、同時に――モクレンの棍棒が、横合いからラクレスを殴り飛ばした。


「ぐっ……!!」


 地面を転がり、血を吐く。


『ラクレス!!』

(……まだだ)


 立ち上がろうとした瞬間、再び髪が絡みつく。


「今度こそ、逃がさないわよん!!」


 締め上げられる首。視界が暗くなる。

 その時、モクレンが、怒鳴った。


「その拘束、儂の獲物を殺す気か!!」

「知るもんですか。先に奪ったほうが勝ちよ!!」


 二人の殺気が、真正面から衝突する。

 その一瞬の隙。


『今だ、ラクレス!!』

「――『黒ノ百足(ブラックセンチピード)』!!」


 百足が出現し、地面を這ってモクレンの足へ絡みつく。


「ぬぅ!?」


 拘束された一瞬、ラクレスは全力で跳躍し、距離を取った。

 息が荒い。鎧は軋み、全身が痛む。


(……三人とも、強い。しかも、容赦がない)


 だが――だからこそ。

 ラクレスは、剣を構え直す。


「よし……いける!!」


 三人を見据え、低く言い放った。

 剣先が、ゆっくりと上がり……モクレンが笑った。


「ほう……まだ吠えるか!!」

「面白いじゃない」

「……殺し甲斐がありますね」


 三つの殺意が、再びラクレスへ向かう。

 だが、その中央に立つ男は、微塵も退かなかった。

 ――この戦いは、まだ終わらない。


 ◇◇◇◇◇◇


 息が荒い。

 ラクレスの胸が上下するたび、黒鎧が軋む音を立てた。

 全身に走る鈍い痛みは、確実に消耗を物語っている。

 だが――視線だけは、澄んでいた。

 三人の敵。モクレン、ジュリアン、インビジブル。

 彼らはそれぞれ、距離を取りながらラクレスを囲む……が、陣形と呼ぶにはあまりにも歪だった。


(……連携はない。狙いは同じだが、意識は別々)


 モクレンは正面から力で押し潰す気満々。

 ジュリアンは拘束からの確殺。

 インビジブルは背後・死角からの暗殺。

 ――だが。


(見えた)


 ラクレスは、深く息を吸い込んだ。

 これまでの戦闘で、十分すぎるほど観た。

 三人の能力、癖、判断速度、そして――油断。


『……おい』


 ダンテの声が、低く響く。


『ようやく顔つきが変わったな』

(ああ……わかったよ)


 ラクレスは、剣を静かに構え直した。


(こいつらは……自分が狩る側だと信じて疑っていない)


 だからこそ、

 自分が狩られる可能性を、微塵も想定していない――それが、最大の隙。


「なにをブツブツ言っておる!!」


 最初に動いたのは、モクレンだった。


「終わりだァ!!」


 棍棒が巨大化し、質量の暴力が振り下ろされる。

 空気が震え、大地が砕ける。

 だが――ラクレスは、逃げなかった。


「……一人目」


 呟きと同時に、ラクレスは前へ踏み込む。


「なっ――」


 モクレンの視界が、一瞬で黒に染まった。


 ラクレスの背中から展開されたのは、蜘蛛脚ではない。


「『黒ノ蝙蝠羽(ブラックウイング)』」


 翼……重力を無視した瞬間加速。

 棍棒が振り下ろされる前に、ラクレスは懐へ潜り込んでいた。


(でかい一撃の前には、必ず溜めがある)


 モクレンの能力は、棍棒の形状変化のみ。

 己の身体は、強化されていない。

 だから――そこを狙う。


「『黒き閃光(ブラックレイ)』」


 至近距離。

 腹部へ、零距離で放たれた漆黒の閃光が、モクレンの身体を貫いた。


「……ぐ、ぉ」


 巨体が、そのまま崩れ落ちる。


「なっ……! なによ、それ……!」


 驚愕したのは、ジュリアンだった。

 彼女の髪が一斉に蠢き、地面を這い、空を裂き、ラクレスへと殺到する。


「動くな……動けないでしょ?」


 だが――ラクレスは冷静だった。


「……二人目」


 ラクレスは、剣を地面へ突き刺した。


「『黒ノ糸(ブラックスレッド)』」


 無数の糸が、全方位へ瞬時に展開される。

 髪と糸が絡み合い、動きが止まる。


「なっ……!? 嘘、やばっ!?」


(髪は伸ばすもの。だが、糸は――縫い止める)


 ジュリアンは気づかなかった。

 自分が、すでに動けない位置に誘導されていたことに。

 ラクレスは、彼女の正面へ立つ。


「『黒ノ蜘蛛脚(ブラックタランチュラ)』」


 一点集中。

 心臓を正確に貫く、突き。

 髪が、力を失って地に落ちる。


「……ぁ」


 ジュリアンは、そのまま崩れた。

 ――そして、最後の一人。


「……お見事ですね。ですが――あなたは、背中が甘い」


 背後……気配は、すでに感じていた。

 インビジブルのナイフが、心臓へ突き出される。


「三人目」


 ラクレスは、振り向かない。


「『黒ノ百足(ブラックセンチピード)』」


 地面から伸びた百足が、見えない腕を絡め取る。


「なっ――見えて……!?」

(見えなくてもいい)


 ラクレスは、静かに言った。


「攻撃意思のある場所は、必ず歪む」


 透明化は、完全ではない。

 魔力、殺気、空間の揺らぎ――それを、ラクレスは感じていた。

 振り返りざま、剣を抜く。


「終わりだ」

「くっ……!」


 インビジブルが逃げようとした瞬間。


「『黒き断罪ブラック・エグゼキュート』」


 一閃。闇が走り、空間が裂ける。

 透明だった身体が、真っ二つに分かれ、血が宙に散った。

 静寂……三人の魔装者は、地に伏していた。

 ラクレスは、剣を納める。

 膝が、わずかに震える。


『……やれやれ』


 ダンテの声が、どこか呆れたように響く。


『やや苦戦、って言っといて、結局これかよ』

「……正直、かなりギリギリだった」

『嘘つけ』

「本当だ。あ~……危なかった」


 ラクレスは、空を仰ぎ……大きく息を吐き、脱力するのだった。

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お読みいただき有難うございます!
月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~
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