魔装者との戦い②
ラクレスの剣、モクレンの棍棒が激突する。
「ホホォォォ!! 儂の一撃をこうも容易く!! 楽しいのぉ、バショウ!!」
『ホッホッホ。久しぶりに血沸き肉躍る!!』
モクレンの呪装備、『千変万化』バショウの声が聞こえてきた。
モクレンは、棍棒を頭上でくるくる回転させて振り下ろす。
ラクレスは剣で受け流そうとしたが、棍棒がいきなり巨大化した。
「なっ」
「『大根』!!」
回避……は、間に合わない。
ラクレスは背中から八本の『蜘蛛脚』を瞬時に権限させ、根を受け止めた。
「『黒ノ蜘蛛脚』!!」
「『麺』!!」
「なっ……っ!?」
だが、瞬時に棍棒が細くなり、鋼線のような鋭い糸となり、ラクレスの蜘蛛脚、そして身体を切り裂いた。
ラクレスは全力でバックステップ。だが、元の大きさに戻った棍棒でモクレンは連続突きを繰り出してくる。
「『筍』!!」
棍棒の先端が鋭くなり、持ち手が自在に伸縮する。
高速突き。ラクレスは剣で受けるが、鎧に何度も掠って傷がつく。
『よけろよけろ!! ったく、オレ様と似たような能力、めんどくっせえな!!』
「形状、変化……っ!!」
『違う。オレ様みたいな万能じゃねぇ。棍棒の大きさだけを変える力だ。伸びてるように見えるのは、巨大化させて質量を増大させた上で細くして、質量はそのままに細くすることで伸ばしたように見えてるんだ。こいつ、脳筋そうな見た目のくせに、能力の使い方を熟知してやがる……!!』
突きの連続。
ラクレスは呼吸を整え、両足の裏を『ばね』のように変形させ跳躍。
通常よりも高く飛び、剣を投げ捨てた。
そして、両手をモクレンに向ける。
「む!!」
「『黒ノ糸』!!」
放たれるのは、漆黒の糸。
粘着をイメージすることで、本当の蜘蛛の糸みたいに絡みつく。
モクレンの腕に糸が付着したところで、ラクレスは連続で糸を発射する。
「連射だ!!」
「むぅ!? おのれ、奇妙な技を……だが!!」
モクレンが腕を引いてラクレスを引き戻そうとするが……なんと、糸は切れることなく伸びた。
さらに、ラクレスは背中から『黒ノ百足』を二本生成、モクレンの足、体に巻き付ける。
「拘束……!!」
『おいおいラクレス、捕まえるだけじゃ勝てねぇぞ。こいつの心臓を……」
「殺さない」
『……はぁ?』
ラクレスは、糸でがんじがらめ、百足が巻き付いて動きの取れないモクレンに向かって言う。
「こいつは『情報』だ。持っている情報を全部吐いてもらう!!」
『……いやいや。馬鹿か!? そりゃ情報は貴重だろうけどよ、こんな脳筋野郎が持ってる情報なんてたかが知れてる。今大事なのは、こいつを殺して、オレ様、お前が力をつけることだろうがよ!!』
「その考えも間違ってないけど、今は情報も同じくらい大事だ!!」
『こんの真面目野郎が……──ラクレス!!』
「え」
次の瞬間、ラクレスの背後から大量の『毛』が現れ、ラクレスの全身を一気に拘束した。
両腕、両足、身体に髪の毛が巻き付く。おかげで百足と糸が消え、モクレンの拘束が消えてしまう。
「な、なん……」
「うふふ……捕まえたぁ」
突如、ヘッドドレスをつけた女が現れた。
異常なまでに髪が伸び、ラクレスの全身を拘束している。
首が締まり呼吸が困難になる。すると、ラクレスの目の前にカメレオンのような男が現れた。
「さて、拘束完了……次は、誰が彼の呪装備をいただくか、ですね」
「貴様ら、儂の邪魔を……!!」
「おおっと。モクレンさん、あなた、お忘れですか? 我々は仲良しこよしの集団ではありません。あなたの戦いを見守る理由なんて最初からないのですよ。大事なのは、われら六魔将の配下の誰が、最後の呪装備を手に入れるか、そういうことです」
「ふふふ。一番有利なのはあたし。このまま魔界まで彼を連れて行けば、それで勝ち……」
「おっと、そうはさせませんよ?」
すると、ジュリアンの背中にナイフが突きつけられた。
『透明化』で消えていたナイフ。魔力による操作で浮遊し、いつの間にか弱点である心臓に突きつけていたようだ。
「非力なもので、卑怯な手こそ真骨頂なのですよ」
インビジブルはにやりと舌を出し入れする。
ジュリアンは舌打ちし動けず、モクレンは立ち上がり根を構える。
ぎちぎちと、ラクレスの全身に髪が食い込む……が。
『おい』
底冷えするような声だった。
ラクレスではない。ダンテの声が響く。
『黙って聞いてりゃ、オレ様を無視して楽しそうにしやがって……』
ゾワゾワと、ダンテの鎧が脈動する。
(ダンテ、おい!!)
ラクレスの意志では動かせない。完全に、ダンテがすべてを支配していた。
『オマエら、誰を相手にしてるのかわかってんだろうな……!!』
兜の目が深紅に輝いた。すると、髪の拘束が少し緩む。
『ラクレス、今だ!!』
(──そういうことか!!)
ラクレスは、背中から『黒ノ蜘蛛脚』を一気に広げて髪を切断し、両腕に『黒ノ百足』を巻き付け振るい、ジュリアンとインビジブルを弾き飛ばす。
そして、態勢が崩れたジュリアン、インビジブルに両掌を向け、『黒き閃光』を発射。二人が防御したが、ラクレスとの距離は離れた。
ラクレスは剣を拾って構え、蜘蛛脚ではなく『黒ノ蝙蝠羽』を生やす。
(ダンテ、助かった)
『おう。脅し、ビビらせるくらいはできるぜ。でも、オレ様がどうこうできるほど力はねぇ』
(ああ、あとは任せろ)
と、ラクレスは返事をしたが……困惑もあった。
敵は、六魔将直属の魔装者だ。しかも数は三人……これまで戦ってきた魔装者の中でもトップクラスの実力者だ。
それが、ダンテの威嚇で竦み、驚き、恐怖し、震え上がった。
(…………)
ダンテは、何者なのか?
ただの呪装備ではない。それは間違いではない。
ラクレスは、小さく首を振る。
すると、インビジブル、ジュリアン、モクレンがラクレスに向き合った。
「どうやら、ただの呪装備ではない……ですね」
「……共闘、する?」
「黙れ。貴様らのような卑怯者の手など借りんわ!!」
三対一は確定。
ラクレスは呼吸を整え、剣を向けた。
「───よし、いける」
『おいおい、どうすんだよ。とりあえず、個別撃破を……』
「いや……三対一でいい」
『は?』
ラクレスは、三人に向けていった。
「かかってこい。お前たち三人……俺が一人で相手をする」
「何ぃ?」
「ほう……面白いですね」
「へえ、舐めているわけ?」
三人の戦意が増大する。
だがラクレスは臆さずに言い放った。
「さあ……償いの時間だ」




