魔装者との戦い①
ウィンターズ公爵領地にある小さな村に、ラクレスは到着した。
村の入口で馬を降り、村に入る。
ラクレスは、周囲を警戒する。
(……いる)
『だな。馬鹿みてぇな戦意を感じるぜ。隠す気のねぇ馬鹿だ』
(馬鹿馬鹿言うなよ。少なくとも、この隠す気のないやつは、真正面から挑もうとしている)
ゆっくりと、村の中央へ進んでいくと……いた。
棍棒を地面に突き刺し、両足を開き、腕を組んで立つ男がいた。
身長が二メートル近く、修行僧のような恰好をした男は、目を閉じて微動だにしない。
ラクレスが近づくと、男はゆっくり目を開けた。
「来たか、ダンテ」
「……自己紹介は、必要ないようだな」
男は、棍棒を手にする。
「我が名はモクレン。六魔将『金剛鎧武』ガイオウが三大魔装者の一人。魔装者ダンテ……いざ、尋常に勝負!!」
「……」
まっすぐな男だった。
漲る戦意も、向けられる闘気も、向けられた棍棒も、悪意がない。
ラクレスは目を閉じ、静かに目を開け……腰の剣を抜いた。
「我が名はダンテ。七曜騎士『闇』のダンテだ。モクレン……お前の悪意なき戦意に敬意を」
「……フン」
ラクレスは、魔力を漲らせ漆黒の闘気を纏う。
そして、互いに武器を構え──激突した。
◇◇◇◇◇◇
ラクレスの戦いが始まった頃、レイアースとエリオは村の外を回っていた。
「……始まったようだ」
「ああ。感じるね……力と力のぶつかり合い。はぁ、村はもう更地になるの覚悟しなきゃだねぇ」
「気を抜くな。どうも嫌な感じがする」
敵は少なくともまだいる。今は、二人で周囲を索敵している。
エリオは、レイアースに聞く。
「ねえ、レイアースちゃん」
「なんだ」
「キミさ……ダンテのこと、好き?」
「は!?」
驚き、思わず振り返る。
エリオはニコニコしながら言う。
「いやあ、ダンテのこと意識してるの丸わかりだしね。顔も見えない相手に恋しちゃうなんて、可愛いなぁ~ってさ」
「ば、馬鹿なことを!! 敵地で何を言ってるんだお前は。というか……」
恋ではない。
ダンテは、ラクレスと似ている。いや……同じなのだ。
レイアースの中では、六割以上、ダンテがラクレスだと思っている。
だが、ダンテは認めない。本当に違うのか、偽らなくてはいけない理由があるのか。
エリオは言う。
「と、いうか? っていうのは?」
「う、うるさい。そもそも、お前はだな──」
次の瞬間──近くを流れる川から、『汚泥』が飛び出してきた。
「!!」
「レイアースちゃん。どいて」
ゾッとするほど冷たい声で、エリオは腰のナイフを抜いて逆手で構え、一瞬で、無音で振った。
すると、汚泥が吹き飛ばされる。
「敵だねぇ。ははは、一対一って感じだったけど……敵さん、ボクら二人とやるつもりみたいだね」
いつの間にか、汚泥がレイアースたちを囲んでいた。
レイアースも剣を抜いて構える。
「泥、か」
「……ただの泥じゃない。川の水を泥化して、自在に操ってるようだ。どんな呪装備なのか、ワクワクするね」
「ワクワクか。まったく、汚れそうだ」
すでに、半径五十メートルほどが泥だらけだ。しかもスライムのように蠢き、さらに触手のような形となり、エリオとレイアースを狙っている。
二人は背中合わせになる。
「経験上、こういう敵は隠れてこの『泥』を操作してるね。本体を叩けば勝ちだ」
「わかっている……ん?」
すると、レイアースたちの前に泥が盛り上がり、ぎょろりと『目』が現れた。
泥の巨大スライム。そう表現するのがしっくりくる。
泥の口に当たる部分が割れ、べたつくような声がした。
『お、おで……六魔将『天津甕星』ペシュメルガさまの、三大魔装者、『汚泥』のジュミドロ』
「じ、自己紹介?」
『おまえら、おれ、ドロドロにする。ジュリアンも、インビジブルも、じゃまさせねえ」
「ジュリアン、インビジブルね……二人、どこかにいるのかな?」
エリオは、このジュミドロの知能がそう高くないと感じた。
「ジュミドロくん。きみの仲間、何人いるんだい?」
『な、なかまじゃねえ。おれ、ジュリアン、インビジブル、モクレンしかいねえ。猫のやつはしらねえ』
「ふむふむ、キミ、素直でいいねぇ。レイアースちゃん、聞いた?」
「ああ。猫、というのはわからんが……猫を含めると三人か」
『だ、だからなんだ。おれ、おまえら、ドロドロにする。ドロドロだ、いくぞ、ヘミドロ』
ヘミドロ。それが、呪装備に封じられた半魔人の名前だろう。
口、目が消え、泥が一気に周囲を舞う。さらに地面が泥化し、二人に襲い掛かった。
「会話は終わりだ。エリオ、やるぞ」
「ああ。ふふふ、二人で戦うの初めてだねぇ」
ラクレスたちのいない場所で、戦いが始まった。
◇◇◇◇◇◇
ラクレス、レイアース、エリオたちの戦いが始まった中、インビジブルとジュリアンは頭を抱えていた。
「あっさり、バレたわね。ジュミドロのクソ野郎……」
「まあまあ、仕方ありませんね。とりあえず、ここからは好きにやらせてもらいますよ。フフ……」
インビジブルが消えた。
ジュリアンは舌打ちし、レイアースたちの方へ行くか、ラクレスたちの方へ行くか、考えるのだった。
◇◇◇◇◇◇
村から離れた木の上に、一匹のデカいネコがいた。
「うにゃぁぁ~……どうしましょ」
『天仙猫』ニャンニャンの三大魔装者、ケットシーだった。
木の上で、猫らしからぬ腕組みをして考える。
「三大魔装者じゃない、『夢煙』さんが暴走して現れた時はチャンスと思いましたけど……ダンテが圧倒的すぎてよくわかんなかった。とはいえ、戦うつもりもないのに、これ以上近づくとバレちゃう……んにゃあ、どうしたものか」
ケットシーは大きく欠伸をし、そのまま喉をゴロゴロ鳴らし……数分後には大きな鼻提灯を膨らませ、猫らしく昼寝をするのだった。




