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呪われ黒騎士の英雄譚 ~脱げない鎧で救国の英雄になります~  作者: さとう
第四章

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魔装者との戦い①

 ウィンターズ公爵領地にある小さな村に、ラクレスは到着した。

 村の入口で馬を降り、村に入る。

 ラクレスは、周囲を警戒する。


(……いる)

『だな。馬鹿みてぇな戦意を感じるぜ。隠す気のねぇ馬鹿だ』

(馬鹿馬鹿言うなよ。少なくとも、この隠す気のないやつは、真正面から挑もうとしている)


 ゆっくりと、村の中央へ進んでいくと……いた。

 棍棒を地面に突き刺し、両足を開き、腕を組んで立つ男がいた。

 身長が二メートル近く、修行僧のような恰好をした男は、目を閉じて微動だにしない。

 ラクレスが近づくと、男はゆっくり目を開けた。


「来たか、ダンテ」

「……自己紹介は、必要ないようだな」


 男は、棍棒を手にする。


「我が名はモクレン。六魔将『金剛鎧武』ガイオウが三大魔装者の一人。魔装者ダンテ……いざ、尋常に勝負!!」

「……」


 まっすぐな男だった。

 漲る戦意も、向けられる闘気も、向けられた棍棒も、悪意がない。

 ラクレスは目を閉じ、静かに目を開け……腰の剣を抜いた。


「我が名はダンテ。七曜騎士『闇』のダンテだ。モクレン……お前の悪意なき戦意に敬意を」

「……フン」


 ラクレスは、魔力を漲らせ漆黒の闘気を纏う。

 そして、互いに武器を構え──激突した。


 ◇◇◇◇◇◇


 ラクレスの戦いが始まった頃、レイアースとエリオは村の外を回っていた。


「……始まったようだ」

「ああ。感じるね……力と力のぶつかり合い。はぁ、村はもう更地になるの覚悟しなきゃだねぇ」

「気を抜くな。どうも嫌な感じがする」


 敵は少なくともまだいる。今は、二人で周囲を索敵している。

 エリオは、レイアースに聞く。


「ねえ、レイアースちゃん」

「なんだ」

「キミさ……ダンテのこと、好き?」

「は!?」


 驚き、思わず振り返る。

 エリオはニコニコしながら言う。


「いやあ、ダンテのこと意識してるの丸わかりだしね。顔も見えない相手に恋しちゃうなんて、可愛いなぁ~ってさ」

「ば、馬鹿なことを!! 敵地で何を言ってるんだお前は。というか……」


 恋ではない。

 ダンテは、ラクレスと似ている。いや……同じなのだ。

 レイアースの中では、六割以上、ダンテがラクレスだと思っている。

 だが、ダンテは認めない。本当に違うのか、偽らなくてはいけない理由があるのか。

 エリオは言う。


「と、いうか? っていうのは?」

「う、うるさい。そもそも、お前はだな──」


 次の瞬間──近くを流れる川から、『汚泥』が飛び出してきた。


「!!」

「レイアースちゃん。どいて」


 ゾッとするほど冷たい声で、エリオは腰のナイフを抜いて逆手で構え、一瞬で、無音で振った。

 すると、汚泥が吹き飛ばされる。


「敵だねぇ。ははは、一対一って感じだったけど……敵さん、ボクら二人とやるつもりみたいだね」


 いつの間にか、汚泥がレイアースたちを囲んでいた。

 レイアースも剣を抜いて構える。


「泥、か」

「……ただの泥じゃない。川の水を泥化して、自在に操ってるようだ。どんな呪装備なのか、ワクワクするね」

「ワクワクか。まったく、汚れそうだ」


 すでに、半径五十メートルほどが泥だらけだ。しかもスライムのように蠢き、さらに触手のような形となり、エリオとレイアースを狙っている。

 二人は背中合わせになる。


「経験上、こういう敵は隠れてこの『泥』を操作してるね。本体を叩けば勝ちだ」

「わかっている……ん?」


 すると、レイアースたちの前に泥が盛り上がり、ぎょろりと『目』が現れた。

 泥の巨大スライム。そう表現するのがしっくりくる。

 泥の口に当たる部分が割れ、べたつくような声がした。


『お、おで……六魔将『天津甕星』ペシュメルガさまの、三大魔装者、『汚泥』のジュミドロ』

「じ、自己紹介?」

『おまえら、おれ、ドロドロにする。ジュリアンも、インビジブルも、じゃまさせねえ」

「ジュリアン、インビジブルね……二人、どこかにいるのかな?」


 エリオは、このジュミドロの知能がそう高くないと感じた。


「ジュミドロくん。きみの仲間、何人いるんだい?」

『な、なかまじゃねえ。おれ、ジュリアン、インビジブル、モクレンしかいねえ。猫のやつはしらねえ』

「ふむふむ、キミ、素直でいいねぇ。レイアースちゃん、聞いた?」

「ああ。猫、というのはわからんが……猫を含めると三人か」

『だ、だからなんだ。おれ、おまえら、ドロドロにする。ドロドロだ、いくぞ、ヘミドロ』


 ヘミドロ。それが、呪装備に封じられた半魔人の名前だろう。

 口、目が消え、泥が一気に周囲を舞う。さらに地面が泥化し、二人に襲い掛かった。


「会話は終わりだ。エリオ、やるぞ」

「ああ。ふふふ、二人で戦うの初めてだねぇ」


 ラクレスたちのいない場所で、戦いが始まった。


 ◇◇◇◇◇◇


 ラクレス、レイアース、エリオたちの戦いが始まった中、インビジブルとジュリアンは頭を抱えていた。


「あっさり、バレたわね。ジュミドロのクソ野郎……」

「まあまあ、仕方ありませんね。とりあえず、ここからは好きにやらせてもらいますよ。フフ……」


 インビジブルが消えた。

 ジュリアンは舌打ちし、レイアースたちの方へ行くか、ラクレスたちの方へ行くか、考えるのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 村から離れた木の上に、一匹のデカいネコがいた。


「うにゃぁぁ~……どうしましょ」


 『天仙猫』ニャンニャンの三大魔装者、ケットシーだった。

  木の上で、猫らしからぬ腕組みをして考える。


「三大魔装者じゃない、『夢煙』さんが暴走して現れた時はチャンスと思いましたけど……ダンテが圧倒的すぎてよくわかんなかった。とはいえ、戦うつもりもないのに、これ以上近づくとバレちゃう……んにゃあ、どうしたものか」


 ケットシーは大きく欠伸をし、そのまま喉をゴロゴロ鳴らし……数分後には大きな鼻提灯を膨らませ、猫らしく昼寝をするのだった。

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月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~
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