四人の魔装者
『棍棒』のモクレン。
更地となった村の中央で、一本の『棍』を手にしたまま静かに目を閉じていた。
修行僧のような恰好をしており、肉体は筋骨隆々。
見るからに、戦闘に秀でた魔装者だ。
「モクレンさん、ちょっといいですかね」
「…………」
モクレンはゆっくり目を開け、声のした方を見る。
そこにいたのは、猫背でやけに目が大きい、カメレオンのような男だった。
着ているコートが周囲の景色に同化しており、移動するたびに色が変わる。そして、やけに長い舌を見せてシュルリと巻いた。
「どうやら、『夢煙』のケイノウがやられたようですねぇ……先走った愚か者ですので、どうでもいいですが。となると、こちらに間違いなく、裏通り者ダンテがやってくる……」
「儂が、最初に戦う。そう話を付けたはずだ」
ギロッとモクレンは睨む。
男は両手を上げて頷いた。
「ええ、ええ。もちろん構いません……ですが、お忘れないよう。あなたが敗北したら、我々は好きにやらせていただきます、よ……と」
「……好きにしろ」
モクレンは再び目を閉じる。
すると、男の隣に若い女が現れた。
「インビジブル。好きにやらせてもらうって、モクレンが負けると思ってるでしょ」
「ええ。先手を譲ったのは、少しでもダンテにダメージを与えてくれたら、そういうことですよ。シュリアン、アナタもでしょう?」
シュリアンと呼ばれたのは、ヘッドドレスを付けた髪の長い女だった。
喋るたびに、髪がゆらゆらと揺れる。そして、周囲を見渡した。
「ジュミドロは?」
「そこの沼に潜んでいますよ。どうやら、落ち着くようで」
「じゃあ……なんだっけ。『天仙猫』様の魔装者」
「さあ? 猫だったのは覚えていますけどねぇ」
「……ま、いっか。とにかく、約束通り、モクレンに先手を打たせてあげましょうか。そういえば、女神の神器所持者はどうする?」
「ふむぅ……邪魔されても面倒なので、我々で始末しても……と、言いたいですが」
「はん、余計な体力を使いたくないって?」
「ええ。あなたも、同じでしょう? では……ジュミドロさんにお願いしましょうか」
カメレオンのような男……『透明』のインビジブルが視線を向けた先には、大きな沼があった。
もともとは、村で一番大きな泉だ。だが、『汚泥』のジュミドロが水に入った途端、水がただの汚泥となってしまった。
『美髪』のシュリアンは、クスクス笑う。
「ああたのしみ。この中の誰が、裏通り者ダンテの魂を、どの六魔神に捧げるのかしらねぇ」
『棍棒』のモクレン。
『透明』のインビジブル。
『汚泥』のジュミドロ。
『美髪』のシュリアン。
そして、討伐された『夢煙』のケイノウ。ここにはいない『愛猫』ケットシー。
ダンテを狙う魔装者たちが、動き出した。
◇◇◇◇◇◇
一方、ラクレスたちは。
滅ぼされた村から数キロ離れた地点に止まり、馬から降りた。
「ここからは歩きで。ボクの『軍勢』が村を包囲してる……視覚共有から得られた情報だろ、三人いる。棍を持った大男、爬虫類みたいな顔をした男、長い髪の女……ありゃ」
目を閉じていたエリオは、残念そうに言う。
「バレたね。完璧な鳥に擬態させていたけど、潰された……村を包囲している鳥たちも次々消されている。これ以上は力の無駄だし、解除するよ」
エリオが指を鳴らすと、全ての『軍勢』が消えた。
「さて、今のうちに確認だ。ダンテ……キミに『棍棒』のモクレンを任せていいかな」
「ああ、任せてくれ」
「じゃあ、残りはボクとレイアースちゃんでやろっか。二対二か……」
『待て。六魔将の配下である三魔装者は仲良しこよしじゃねぇぞ。二対二で協力し合って戦うなんざあり得ないね』
ダンテが言う。
ラクレスが、そのことを伝える。
「六魔将の配下である三魔装者は、仲良しこよしってわけじゃない。協力して戦うことはないだろう」
「なら、一対一だ」
レイアースが言うと、エリオが肩を竦めた。
「やっぱそうなる? 前にも言ったけど、ボクってけっこう非力だし、一対一よりはレイアースちゃんのサポートがいいんだけどね」
「ふん、エリオ……オマエも、隠している力があるんだろう。それを使えば、勝てるのではないか?」
「……レイアースちゃん。言うねえ」
「七曜騎士として当然だ」
レイアースは胸を張る。
ラクレス、エリオは顔を見合わせ頷いた。
「よし。では、一対一で三人を倒すぞ」
『おいラクレス。その三人以外にも、残り二人いるってこと忘れんなよ。六魔将の配下が一人ずつ来てるとしたら、あと二人隠れてる」
(わかってる。でも、今は目の前の三人だ)
ラクレスたちは、村に向かって歩き出した。




