いくつもの新技
周囲に漂うピンクのモヤ。
煙型の呪装備。能力は『質量の変化』で、今はラクレスを中心に半径三十メートルほどに漂っている。
ラクレスは剣を握り周囲を確認するが、人の気配は全く感じられない。
「どこにいるんだ……?」
『このモヤが気配を消してやがる。恐らく、モヤのどこかに隠れてる……気配を感じない場所を探せ』
「気配を感じない場所。それもいいけど……このモヤ、吹き飛ばせないかな?」
『あ?』
すると、ラクレスの鎧、背中部分が変化していく。
骨組みのような形から、漆黒の魔力を帯びた『黒い翼』へ。
「『黒ノ蝙蝠翼』」
『おいおいおい、なんだこりゃ? オレ様ぁこんなん知らねえぞ?』
「お前の能力もかなり理解できたからな。さぁ……やろうか!!」
背中の翼をバサッと広げると、漆黒の魔力を帯びた風となり、周囲のモヤを吹き飛ばした。
魔力を放出することで、ただの風では吹き飛ばせないモヤを強制的に排除。ダンテは驚きつつも、モヤが消えたことで周囲がクリアとなり、感じることができた。
『──いた!! ラクレス、正面二十メートルにある木、右へ三つ目の木の上だ!!』
「了解!!」
ラクレスの右腕が、先端の尖った『鞭』のような形状へ変わる。だが、鞭と呼ぶにはあまりにも生物的なデザインで、むしろ……。
「『黒ノ蛇噛』!!」
蛇の口。
右手から伸びた蛇の口が、木の上にいた猫背の男を拘束した。
「ぐがぁぁ!? ウッソだろぉぉぉぉ!?」
「───償え!!」
魔族の名前も、呪装備の名も、どういう魔族なのかもわからない。
ラクレスは右手を引き寄せ、男が手に持っていた『袋』と、男の心臓を狙い、背中から具現化した『ムカデ』のような触手で貫いた。
男の身体が青く燃え、砂のように粒子化して消滅。
同時に、呪装備の魂をダンテは掴むと、そのまま吸収された。
『くぅぅ~、うめえ!! ケケケ、ラクレスぅ……オマエ、マジで逸材だな。オレ様のアドバイスなしでも戦えるんじゃねぇか?』
「そりゃどうも。でも、お前がいた方が楽だから、そっちのがいいよ」
『ケケケ、そうかいそうかい』
こうして、煙の呪装備と魔装者は、名前すら聞かれずに消滅した。
◇◇◇◇◇◇
ラクレスは、レイアースの頬を軽く張る。
「……む」
「レイアース、レイアース!!」
「……ラクレス?」
「ッ!!」
心臓が高鳴った。
レイアースは目をこすり、ラクレス(ダンテの鎧姿)を見てぼんやりと目を細め、再び目を閉じて今度はしっかり開けた。
「……ダンテか。どうしたんだ?」
「敵襲があった。ここは危険かもしれない、深夜だけど移動しよう」
「え……」
身体を起こすと、エリオが馬の準備をしているところだった。
三人は馬に跨り、ゆっくりと移動を開始する。
「ダンテ。何があったのだ?」
馬を歩かせながらレイアースが言う。
ダンテは、ピンクのモヤと、それを使って襲って来た男の説明をした。
すでに倒したこと、名前などは聞いていないことを説明して言う。
「……くそ。倒す前に情報を引き出せばよかった」
「まあ、緊急時だったししょうがないね。むしろ、足手纏いだったね……悪かったよ」
エリオが謝ると、ラクレスは慌てる。
「い、いや……そんな、気にしなくていい」
「ちゃーんと、借りは返すよ」
「あ、ああ」
「む……私もだぞ。借りは戦いで返す!!」
その後、三人は慎重に移動し、ちょうどいい洞窟を発見。
馬を休ませると、エリオが腰に差していた『短剣』を抜いた。
「ここはボクが見張るよ」
ナックルガード付きの、エメラルドグリーンの短剣だ。人差し指を差す穴があり、エリオは指を入れてクルクルとナイフを回転させる。
「第三解放『女神軍勢』──来たれ、『風山雀」
すると、短剣から小さな緑色の宝石が飛び出し、それが小さな『鳥』となって飛んで行った。
洞窟の周辺、洞窟の中と、数百の鳥が飛んでいく。
ラクレス、レイアースが驚いていた。
「これが、エリオの『軍勢』か……と、鳥? しかも、この数」
「ボクの『風神器エア・ストライク』は非力でね。軍勢も、数は多いけど戦闘力はゼロに等しい。でも、探知能力、索敵能力だけならどんな神器にも負けないよ。それに、非力でも非力なりに使い道は無限にある」
エリオは短剣を腰に納めて言う。
「半径二キロ圏内なら、虫の羽音すらわかるよ。動物や人間はもちろん、見えざる敵なんかも察知できる。たとえ異形だろうと、何だろうと、生きていれば呼吸は必ずするし、それを察知できる」
「すごいな……」
『ケッ、胸糞悪い』
なぜかダンテは舌打ち、イライラしていた。
ラクレスは察する。
(まあ、ダンテも呪装備だしな。女神の神器とは相性悪いんだろ……)
(そのとーり。とにかく、周囲の警戒怠るんじゃねーぞ)
(はいはい、わかってる)
エリオは、洞窟の奥を覗き込みながら言う。
「そんなに深くない洞窟だね。一応、入口付近に陣取るか……ダンテくん、レイアースちゃん、ボクが見張るから、仮眠していいよ」
「待て。私はもう寝た。エリオも『軍勢』を召喚しているし、私が見張りをする」
「いや、俺はまだ疲れていない。それに、何日か寝なくても動きに支障はないぞ」
「はいはい。こういうやりとりは不毛だから、さっさと二人は寝る。ボクは『軍勢』を使役している間は寝れないし、何かあれば起こすからさ」
「「…………」」
レイアース、ラクレスは横になる。
しばし目を閉じていると、ダンテが言う。
(気ぃ抜くなよラクレス。さっき煙を吹っ飛ばした時……少なくとも、三人の気配があった。恐らく、六魔将の配下である魔装者が来てる)
(…………)
(おい、ラクレス)
(わかってるよ。ダンテ)
ラクレスは、不思議な感覚に包まれていた。
なぜか、どれだけ数が来ようと、負ける気がしなかった。




