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呪われ黒騎士の英雄譚 ~脱げない鎧で救国の英雄になります~  作者: さとう
第四章

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いくつもの新技

 周囲に漂うピンクのモヤ。

 煙型の呪装備。能力は『質量の変化』で、今はラクレスを中心に半径三十メートルほどに漂っている。

 ラクレスは剣を握り周囲を確認するが、人の気配は全く感じられない。


「どこにいるんだ……?」

『このモヤが気配を消してやがる。恐らく、モヤのどこかに隠れてる……気配を感じない場所を探せ』

「気配を感じない場所。それもいいけど……このモヤ、吹き飛ばせないかな?」

『あ?』


 すると、ラクレスの鎧、背中部分が変化していく。

 骨組みのような形から、漆黒の魔力を帯びた『黒い翼』へ。


「『黒ノ蝙蝠翼(ムルシエラゴ)』」

『おいおいおい、なんだこりゃ? オレ様ぁこんなん知らねえぞ?』

「お前の能力もかなり理解できたからな。さぁ……やろうか!!」

 

 背中の翼をバサッと広げると、漆黒の魔力を帯びた風となり、周囲のモヤを吹き飛ばした。

 魔力を放出することで、ただの風では吹き飛ばせないモヤを強制的に排除。ダンテは驚きつつも、モヤが消えたことで周囲がクリアとなり、感じることができた。


『──いた!! ラクレス、正面二十メートルにある木、右へ三つ目の木の上だ!!』

「了解!!」


 ラクレスの右腕が、先端の尖った『鞭』のような形状へ変わる。だが、鞭と呼ぶにはあまりにも生物的なデザインで、むしろ……。


「『黒ノ蛇噛(スネークバイト)』!!」


 蛇の口。

 右手から伸びた蛇の口が、木の上にいた猫背の男を拘束した。


「ぐがぁぁ!? ウッソだろぉぉぉぉ!?」

「───償え!!」


 魔族の名前も、呪装備の名も、どういう魔族なのかもわからない。

 ラクレスは右手を引き寄せ、男が手に持っていた『袋』と、男の心臓を狙い、背中から具現化した『ムカデ』のような触手で貫いた。

 男の身体が青く燃え、砂のように粒子化して消滅。

 同時に、呪装備の魂をダンテは掴むと、そのまま吸収された。


『くぅぅ~、うめえ!! ケケケ、ラクレスぅ……オマエ、マジで逸材だな。オレ様のアドバイスなしでも戦えるんじゃねぇか?』

「そりゃどうも。でも、お前がいた方が楽だから、そっちのがいいよ」

『ケケケ、そうかいそうかい』


 こうして、煙の呪装備と魔装者は、名前すら聞かれずに消滅した。


 ◇◇◇◇◇◇


 ラクレスは、レイアースの頬を軽く張る。


「……む」

「レイアース、レイアース!!」

「……ラクレス?」

「ッ!!」


 心臓が高鳴った。

 レイアースは目をこすり、ラクレス(ダンテの鎧姿)を見てぼんやりと目を細め、再び目を閉じて今度はしっかり開けた。


「……ダンテか。どうしたんだ?」

「敵襲があった。ここは危険かもしれない、深夜だけど移動しよう」

「え……」


 身体を起こすと、エリオが馬の準備をしているところだった。

 三人は馬に跨り、ゆっくりと移動を開始する。


「ダンテ。何があったのだ?」


 馬を歩かせながらレイアースが言う。

 ダンテは、ピンクのモヤと、それを使って襲って来た男の説明をした。

 すでに倒したこと、名前などは聞いていないことを説明して言う。


「……くそ。倒す前に情報を引き出せばよかった」

「まあ、緊急時だったししょうがないね。むしろ、足手纏いだったね……悪かったよ」


 エリオが謝ると、ラクレスは慌てる。


「い、いや……そんな、気にしなくていい」

「ちゃーんと、借りは返すよ」

「あ、ああ」

「む……私もだぞ。借りは戦いで返す!!」


 その後、三人は慎重に移動し、ちょうどいい洞窟を発見。

 馬を休ませると、エリオが腰に差していた『短剣』を抜いた。


「ここはボクが見張るよ」


 ナックルガード付きの、エメラルドグリーンの短剣だ。人差し指を差す穴があり、エリオは指を入れてクルクルとナイフを回転させる。


「第三解放『女神軍勢(レギオン)』──来たれ、『風山雀(エアヤマガラ)


 すると、短剣から小さな緑色の宝石が飛び出し、それが小さな『鳥』となって飛んで行った。

 洞窟の周辺、洞窟の中と、数百の鳥が飛んでいく。

 ラクレス、レイアースが驚いていた。


「これが、エリオの『軍勢(レギオン)』か……と、鳥? しかも、この数」

「ボクの『風神器エア・ストライク』は非力でね。軍勢も、数は多いけど戦闘力はゼロに等しい。でも、探知能力、索敵能力だけならどんな神器にも負けないよ。それに、非力でも非力なりに使い道は無限にある」


 エリオは短剣を腰に納めて言う。


「半径二キロ圏内なら、虫の羽音すらわかるよ。動物や人間はもちろん、見えざる敵なんかも察知できる。たとえ異形だろうと、何だろうと、生きていれば呼吸は必ずするし、それを察知できる」

「すごいな……」

『ケッ、胸糞悪い』


 なぜかダンテは舌打ち、イライラしていた。

 ラクレスは察する。


(まあ、ダンテも呪装備だしな。女神の神器とは相性悪いんだろ……)

(そのとーり。とにかく、周囲の警戒怠るんじゃねーぞ)

(はいはい、わかってる)


 エリオは、洞窟の奥を覗き込みながら言う。


「そんなに深くない洞窟だね。一応、入口付近に陣取るか……ダンテくん、レイアースちゃん、ボクが見張るから、仮眠していいよ」

「待て。私はもう寝た。エリオも『軍勢』を召喚しているし、私が見張りをする」

「いや、俺はまだ疲れていない。それに、何日か寝なくても動きに支障はないぞ」

「はいはい。こういうやりとりは不毛だから、さっさと二人は寝る。ボクは『軍勢』を使役している間は寝れないし、何かあれば起こすからさ」

「「…………」」


 レイアース、ラクレスは横になる。

 しばし目を閉じていると、ダンテが言う。


(気ぃ抜くなよラクレス。さっき煙を吹っ飛ばした時……少なくとも、三人の気配があった。恐らく、六魔将の配下である魔装者が来てる)

(…………)

(おい、ラクレス)

(わかってるよ。ダンテ)


 ラクレスは、不思議な感覚に包まれていた。

 なぜか、どれだけ数が来ようと、負ける気がしなかった。

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月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~
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