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呪われ黒騎士の英雄譚 ~脱げない鎧で救国の英雄になります~  作者: さとう
第四章

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天仙猫ニャンニャンの飼い猫

 六魔将『天仙猫』ニャンニャンは、自身の領地である『天仙猫』の居城にいた。

 自室である巨大ベッドには、大小さまざまな『猫』が寝そべっており、そのうち数匹は餌である生肉をガツガツ食べてはベッドを汚している。

 だが、ニャンニャンは気にせず、首元で揺れるネックレス……極凶悪級呪装備『艶美』のティファレトに言う。


「ね、どうする?」

『なにが?』

「エクスパシオンの言うゲームに参加するのは嫌だけど、アイツの言うことも間違ってない」

『そうね。あと一つ、強い呪装備を捧げれば……『絶氷の魔神』コキュートス様が完全復活する。とはいえ……配下を捧げるのはダメね』

「ええ。それが六魔将のルール、破れば他の五人に粛清される」


 六魔将は仲良しこよしというわけではない。が……ルールは存在する。

 それは、配下であり同胞の魔装者は、魔神の生贄にしないということ。魔装者は魔人であり同胞……いかに魔神の目覚めが優先だとしても、同胞の命を捧げて復活というのは忌避されていた。

 だからこそ、呪装備を捧げる。

 呪装備は、女神によって封印された半魔神の姿。いわば、女神に敗北した存在であり、それは罪の姿である……だからこそ、償いとして生贄にする。

 

「人間界の呪装備はもうないし、魔界にある凶悪な呪装備は全部、分担して魔装者にした……」

『残り一つ、強い力と言えば』

「裏切者、ダンテのみ……これからそいつは、死ぬまであたしらに狙われるってわけ。で……配下を一人送り込む」


 六魔将はそれぞれ、三人の魔装者を側近に置くルールがある。

 それ以外に部下は置かず、それぞれ好きな時に命令ができる魔装者として待機させている。

 現在、魔界には千人ほどの魔装者がいる。強さはピンキリだ。


「あ~、誰にする? あたしの配下……ケットシー、バステト、んでカシャ。強さって言うか可愛さ重視だし、直の戦闘力は微妙なのよね……エクスパシオンは不参加だっけ。残り四人……」


 『夜刀嚙』キヴァト。

 『天津甕星』ペシュメルガ。

 『夢桜』クシナダ。

 『金剛鎧武』ガイオウ。

 『罪滅』エクスパシオンは不参加……他の五人がどんな魔装者を送るのか、ニャンニャンには予想できない。

 すると、ティファレトが言う。


『別に、戦わなくてもいいんじゃない?』

「え?」

『そもそも……ダンテだっけ? その呪装備、エクスパシオンの魔装者を倒したのよね? もしかしたら……三大魔装者じゃかなわない可能性が高いわ』

「でも、負けたら『魂喰』で力を付けるわ。それこそ、相手になんてならないくらい」

『そうね……だったら、まずは情報を集めるの』

「情報?」

『ええ。例えば……他の四人が送り込んだ魔装者と戦うダンテを観察し、情報を得る……戦い方がわかれば、どんなに強くても弱点はきっとある』

「つまり、観察させるの?」

『ええ。もし、魔装者を喰らって強くなったら……アナタが出ればいいわ。そのころにはきっと、三大魔装者もいなくなり、あなたたち六魔将が直接でなくちゃいけない。そのなったら?」

「……観察し、弱点を見つけたあたしが有利」

『そういうこと』

「……ティファレト、あんた天才!!」


 ニャンニャンは、ネックレスを抱きしめ頬ずりする。

 そして、指をパチンと鳴らした。


「ケットシー、出て来なさい!!」

「はいはい~、呼ばれて飛び出てケットシー!!」


 現れたのは、二足歩行の猫だった。

 普通のネコよりも大きい。斑模様でややぽっちゃりした猫が、ベッド下から出て来た。


「話は聞いてたわね。あんたの任務は観察よ……いい? 他の六魔将が送り込んだ魔装者と、ダンテの戦いを記録するの。いいわね」

「お任せを。このケットシー、かわいさを武器にダンテとか言う裏切者に近づきますにゃん!!」


 ケットシーはコロンと転がった。やや大きいネコにしか見えない。


「ふふふん。見てなさいエクスパシオン……あんた、ゲームを楽しみたいみたいだけど、勝つのはあたしなんだからね」


 ◇◇◇◇◇◇


 一方、人間界にて。


 ◇◇◇◇◇◇


「えーと……クリス、これでいいのか?」

「どれどれ……はい、大丈夫です」


 ダンテは、自分の執務室で、クリスを補佐に執務を……いや、クリスの執務の補佐を行っていた。

 内容は、クリスが運営する領地の税や、住人からの嘆願書、そして文官から送られてくる収支報告書など、数字や文字ばかりの書類。

 ラクレスは、計算書を見ながら文字を書き、それをクリスに見せている。


「ふう……」

「慣れませんか? でも、他の七曜騎士の方々はみんな、与えられた領地の運営などもしていますよ。まあ、代官を派遣して現地での統治まではしませんけどね」

「……俺には、こういうの向いてないないなあ」

「でも、計算は早いですし、字も綺麗ですね。きっとすぐ慣れますよ」


 ラクレスは、クリスが王族として管理している領地の中でも、一番小さな領地を代理運営することになった。もし、功績を上げ続けて領地を与えることになったら……という仮想訓練でもある。

 ラクレスとしては、騎士として戦えるということしか考えていなかったので大変だ。


『ケケケ。まあ、ここ最近は訓練漬けだったし、少しは休むいい機会だ……ってか、オレ様が休みてえ』

(お前がかよ……でもまあ、気分転換……にはならないな。数字、文字ばかりで身体を動かすよりキツいぞ)


 資料作成をしていると、執務室のドアがノックされた。


「失礼しまーす。お、ダンテくん、頑張ってるね~」

「……エリオか」


 エリオ・ウィンターズ。

 風の七曜騎士であり、掴みどころのない青年だ。

 ラクレスの隣に来て書類を覗き込み、指で差す。


「ここ、計算違ってるよ」

「え? あ……本当だ。感謝するよ」

「どういたしまして」


 書類を修正し、クリスから与えられた仕事を全て終わらせた。

 クリスはニコニコしながら言う。


「お疲れ様でした。ふふ、準騎士としてお仕事手伝い……ではなく、王女として騎士のあなたにお手伝いさせたみたいになっちゃいましたね」

「ははは……」

「さて。エリオが用事あるみたいなので、私は王女としてのお仕事をしてきますね」


 クリスは出て行った。


『相変わらず、王女と騎士の切り替えが早いな。したたかな女だぜ』

「さて、ダンテくん。さっそくだけど、お仕事の話」


 エリオは、いつの間にか紅茶を入れて飲んでいた。

 ラクレスもソファに移動し、エリオと対面する。


「ボクの管理する領地で、魔人による被害が出たんだ」

「何……?」

「なんていうか……『ダンテを呼べ』って騒いでる。村を一つ壊滅させて、ずっとそこに居座ってるみたいなんだよね……策を弄するタイプじゃないって感じかな」

「狙いはやっぱり俺か。よし……行くしかないな」

「うん。ってわけで、ボクが案内するよ。悪いけど、ボクの領内でのもめごとなんでね、レイアースちゃんたちはお休みで」

「……ああ、わかった」

「じゃ、一時間後に東門前に集合で」

 

 エリオは出て行った。

 ダンテは言う。


『恐らく、ヴァルケンと同じか、それ以上の魔装者だな。エクスパシオンの野郎が、六魔将を焚きつけて刺客を送り込んできた……ってところか』

「問題ない。むしろ、望むところだ……!!」

『おう。ケケケ……ひっさしぶりに美味い餌を食えるぜ。ケケケ』


 こうして、次なる戦いが始まった。

 そして……ダンテも、ラクレスも気付いてないことがあった。


『……にゃん』


 ラクレスの執務室から少し離れた位置にある物陰に、一匹のやや太った猫がいることに。

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月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~
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