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呪われ黒騎士の英雄譚 ~脱げない鎧で救国の英雄になります~  作者: さとう
第四章

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摸擬戦

 ウルフ、そしてレイアースの二人がラクレスの家へ。

 ラクレスは二人を連れ、ウルフの専用訓練場へ。

 そこは、ラクレスの訓練場の三倍は広く、専用の宿舎に様々な武具、トレーニング機器が豊富にそろえてあり、ラクレスは普通に羨ましかった。


「す、すごい広さ、そして設備だ……!!」

「そうか? 広さや設備で言えば、団長やエクレシアのが上だ。オレはここより、野外に出ての魔獣狩りを主な訓練としている」

「私は訓練場をよく使うから、ここより多少は広いな」

『ケッ、自慢かよ。おいラクレス、さっさと出世してデカい家もらいやがれ』

(別に必要ないだろ……)


 すると、ウルフが首をコキっと鳴らす。


「団長から聞いた。魔人がお前を狙い、人間界に侵攻を企てているとな……面白い。オレの爪で引き裂いてやろう」

「私もだ。更なる力を得て、魔人共を切裂く剣となろう」

「……頼もしい」


 ウルフ、レイアースは力強かった。

 同時に、ウルフは神器である地神器『アシュトレト』の爪を装備、ラクレスに向ける。


「さて、やるなら本気でなければ意味がない。ダンテ、そしてレイアース……一対一とは言わん、それぞれを敵とし、二対一で戦うぞ」


 するとレイアース、光神器『ルーチェ・デルソーレ』の剣を抜いて構える。


「面白い。対魔人の想定として、これ以上ない人選だ。ウルフ、ダンテ、殺すつもりで来い!!」


 二人とも、やる気満々だった。

 すると、ダンテが言う。


『ちょーどいい。さっき覚えたワザ、使ってみろよ』

「ああ、そうだな」


 ラクレスは剣を抜き、背中から四本の『蜘蛛脚』を創造する。

 いきなり現れた脚に二人はギョッとするが、すぐに不敵な笑みへと変わった。


「では──始めるぞ!!」


 それぞれの『二対一』による訓練が始まった。


 ◇◇◇◇◇◇


 二時間ほど、模擬訓練を行い、三人は訓練場の真ん中に座って反省会を開いていた。


「ダメだ」


 レイアースが落ち込む。

 瞬着、決戦技、そして軍勢まで習得したレイアース。

 だが、三つ目に開花した能力である『軍勢』が、まるで使いこなせない。


「軍勢。今の私では最大で二十体ほどの『騎士』を召喚できる……が、操作があまりにも難しい」

「そんなに難しいのか?」


 ウルフが聞くと、レイアースは力なく頷く。


「一体一体、私の命令を待っているような状態と言えばいいのか、『全軍突撃』と命令すれば全て突っ込むが、装備している剣を振ったりすることもない、ただ突っ込むだけ。意識を向ければ私の意思で動かせるが、私自身、剣を振れなくなり棒立ちになってしまう……」

「なるほど……難儀だな」

「ああ。数を絞れば操作性も増すが……私自身、操作に集中しないことに変わりない。だったら、最初から出さず、私だけで戦った方がいい」

「ふむ」


 ウルフが考え込む。


「実は、オレも少し見えた……『軍勢』の力が。恐らく、経験を積めば積むほど、神器はそれを理解し、力を解放するんだろう……お前たちとの模擬訓練が経験となり、オレの力となる」


 これまでウルフは、同じ七曜騎士だろうと関りが薄く、個人での戦いが多かった。

 戦闘経験こそ多いが、その密度は薄い……拮抗する実力者同士の戦いは、あまりない。

 ゆえに、こうして七曜騎士二人を同時に相手することは、ウルフの人生でも初めて。その経験を神器が吸収し、すでに開花寸前だったウルフの新しい力となりかけている。

 ウルフは立ち上がる。


「ラクレス、一度でいい。オレに全力で攻撃をしてくれ。オレはそれを受ける」

「いや、しかし……」

「構わない。今のオレなら……何かを掴めそうだ」


 ウルフが構えを取る。

 ラクレスは頷き立ち上がり、背中から四本の蜘蛛脚を創造……そして。


「……違う」


 ラクレスも、新しい可能性を見出していた。

 蜘蛛じゃない。

 太い四本の脚ではない。細く短く細かい無数の脚。


「ウルフ、俺も新しい可能性を試したい……」

「望むところだ」


 ラクレスの背中から、二本の太い節のある触手が伸びる。

 そして、節々にムカデの脚のような、細かい刃が生えていた。先端部分は鋏のようになっており、見ていたレイアースも息を呑む。


「む、ムカデ……?」

『ケケケ、ラクレス、オマエ……蜘蛛とかムカデとか、ソッチ系の虫が好きなのか? こうも上手く具現化できるとはな』

(別に、虫は嫌いじゃないし)


 ウルフは四つん這いになり、腰を上げる。

 まるで威嚇するオオカミ。両手を付けた地面に亀裂が入る。


「行くぞ……『黒ノ百足刃ブラックセンティピード』!!」


 背中の百足が、ウルフに向かって飛んでいく。

 ウルフは跳躍し回避、訓練場の壁を駆け抜ける。そこに、ラクレスの百足が追うように伸びる。

 壁を破壊し、ウルフを追う。

 ウルフは跳躍。ラクレスに飛び掛かる。

 ラクレスの腕に、二本目の百足が絡みつき、巨大な《拳》となる。

 ふと──ラクレスの脳裏に浮かんだ。


「───これだ!!」


 決戦技、『暗黒百足(スコロペンドラ・)螺旋刃(スクリュードライブ)』。

 自覚した瞬間、ラクレスの腕に巻き付いた百足が巨大化、肥大化し、右腕を中心に回転をする。

 高速回転する百足の刃が、ウルフに向けられた。


「───来い!!」


 ウルフも見えた。

 同時に、地面から土が盛り上がり形となる。

 それは土、岩、泥で作られた無数の『オオカミ』だ。

 ウルフの『軍勢』が召喚され、ラクレスに殺到する。

 そして、それを見ていたレイアースも剣を抜いた。

 やりすぎだ、死ぬ。

 言葉を発する前に、すでに動いていた。


「───頼む!!」

 

 大勢を召喚するのではない。

 今の自分では無理。なら……確実に操作できる数、二体を召喚。

 残り十八体分の力を、その二体に注ぎ込み……ラクレス、ウルフの前に遠隔で召喚。


「「「!!」」」


 ラクレスの攻撃で鎧騎士が砕け、オオカミたちが殺到した鎧騎士たちが砕け散った。

 ウルフが着地、ラクレスも力を抜き、ウルフと顔を見合わせた。


「「───できた」」


 決戦技、そして軍勢。

 ウルフ、ラクレスは近づき、拳をガッと合わせた。


「見えたぞダンテ!! オレの、軍勢の力が!!」

「俺もだ!! 決戦技……そうか、この感覚か!!」


 すると、二人の間にレイアースが割り込み。


「ふん!!」

「「おぶぅ!?」」


 二人の頭をブン殴った。

 頭を押さえる二人は蹲る。


「大馬鹿!! お前たち、死ぬつもりか!! 決戦技、そして軍勢……全く手加減のない一撃が同時にぶつかれば、この訓練場は消滅するぞ!!」

「「……す、すまん」」

「全く、だが……私も少し見えた。軍勢……こういう使用法もあるのか」


 それぞれが、何かを掴んだ。

 三人は笑い合い、今掴んだことを話す。

 そんな三人を、二人が見ていた。


「姐さん、どう?」

「……ふふ。粗削りだけどいいじゃない」


 エリオ、そしてエクレシアの二人が見ていた。

 訓練場の入口で、三人の成長を。


「……エリオ、あなたもうかうかしていられないわよ?」

「ま、そうかもね。でも……オレのことは、姐さんが稽古つけてくれるんでしょ?」

「ええ。魔人……どうやら、そろそろ戦いになるわ。ふふ、久しぶりに燃えてきた」

「うっわ……姐さんが燃えるとか、魔人が不憫でならないよ」


 こうして、ラクレスは『決戦技』を、ウルフは『軍勢』を手に入れた。

 魔人との戦いは近い。

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お読みいただき有難うございます!
月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~
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