強くなるために
現在、ラクレスは専用訓練場……というか自宅の庭で、静かに瞑想していた。
すると、背中部分の鎧が盛り上がり、まるで蜘蛛の脚のような八つの触腕が生み出される。
『ケケケ……『八又蜘蛛脚』、とりあえず創造はできるようになったか』
「ぐ、っく……!!」
ラクレスは人間。背中に八本の蜘蛛脚が生えたことなどない。
触腕を精製し操作するという複雑なことをするには、イメージ力が足りない。
『とにかく、毎日創造しろ。そして少しでも動かせ。それが自然になるように、毎日、毎日だ』
「ああ、わかってる……!!」
ラクレスは、蜘蛛脚を生やしたまま、背中でガチャガチャと動かす。
そして、両脇の下から足を突き出し、訓練用に置いた丸太に突き刺して持ち上げ、両肩の上から伸ばした足でさらに突き刺し、勢いを付けて真上に投げる。
そして、残りの四本脚を中心に集め、落ちてきた丸太を同時に引き裂いた。
「っぶは、はぁ、はぁ!!」
バラバラと丸太が落ち、蜘蛛脚も解除される。
『はい次、糸!!』
「ああ、これは得意だ」
ラクレスは、両手から粘着質のある蜘蛛糸こと『黒の糸』を射出。別の丸太にひっつけ、思いきり引っ張る。
丸太は空中を移動、ラクレスに向けて飛んでくる。
そして、ラクレスは剣を抜き、丸太に向かって連続で攻撃。
バラバラになった丸太が地面に落ちないうちに、左手のひらから『黒い閃光』を発射、木片が砕け散り、燃え尽きた。
これら一連の流れを見て、ダンテは言う。
『がむしゃらに創造して形状変化するより、ある程度固定しちまって、それを確実に出せるようにした方がいい。オレ様みたいに自由自在ってわけじゃねぇしな……オレ様の見たところ、ラクレスは『蜘蛛』に特化した変化をさせた方がいい』
「蜘蛛、か……」
糸を出し、八本の脚を背中に生やす。
正直、人間離れしすぎている気がした……が、不思議だった。
「なんというか、イメージはしやすいんだよな。蜘蛛」
『ほう』
「特に、糸を出すのはもう慣れた」
ラクレスは右手からバシュッと黒い糸の塊を飛ばす。
塊が壁に触れる直前、一気に開き、まるで八角形の蜘蛛の巣のように展開された。
「新技、『黒の巣』だ。どう?」
『へえ……やるじゃねぇか」
「まだあるぞ。それに、蜘蛛だけじゃない、やっぱり俺は騎士だから、剣を応用した技も使う」
『ケケケ、固まってきたな。じゃあ、訓練を続けるぜ』
「ああ」
この日、早朝から数時間……ラクレスは力を使いこなすための訓練に没頭するのだった。
◇◇◇◇◇◇
お昼前、ラクレスは休憩をしていた。
庭の椅子に座り息を整える。
「……汗、掻かないのはいいけど」
『ケケケ、オレ様が舐め取ってるからなあ?』
「その言い方やめろ。鎧が吸収してる、でいいっての」
ラクレスは、兜をコツンと叩く。
そして、ため息を吐いた。
「はあ……」
『どうした?』
「いや。呪装備担当にされたはいいが、もう低級の呪装備は人間界にも魔界にもない。で、次に来るのは魔界からの刺客ときたもんだ。陛下も、団長も険しい顔してた……」
『……魔神の復活か。ンなことになったら、今の人間じゃ手に負えねえぞ。オマエを放り出すわけにもいかなくなったってわけだ。ケケケ、今ならどんな無茶でも言えば通るかもしれねぇぜ?』
「アホかお前は。とにかく、俺を狙ってくるならチャンスでもある」
『ああ。ご馳走が向こうから来てくれるんだ。ありがたいぜ』
「…………なあ、ダンテ」
『あ?』
「今の七曜騎士じゃ、魔人たちには勝てないのか?」
『無理だね。あの厳ついオヤジと、色っぽい姉ちゃんくらいかな』
イグニアス、そしてエクレシアのことだった。
『あの二人は別格だ。今のオマエじゃ歯が立たねえ。恐らく、神器も第四、第五の解放まで済んでる』
「……神器はどこまで開放できるんだ?」
『さあな。呪装備の解放と同じなら、七段階あるはずだけどな』
「な、七段階……」
『呪装備の七解放……魔装、決戦技、軍勢、第二魔装、第二決戦技、超越技、そして魔王武装。オマエの戦ったヴァルケンは決戦技まで習得していた。で、レイアースのお嬢ちゃんは軍勢を習得した……厳ついオヤジ、色っぽい姉ちゃんはさらにその上と見て間違いねえ』
「……冥府六将は、どこまで」
『知らん。だが、第二決戦技くらいは習得してるだろ』
「……今の俺は?」
『オマエ、というかオレ様は特別。常時魔装してるからとりあえず第一段階。で、決戦技はまだだ。つまり、雑魚よザコ……言ってて悲しくなる』
「早急に、技の開発しないとな」
『ああ。でも、戦闘スタイルは固まった。あとは、実践の中で磨きをかける』
「実践? 魔獣と戦うのか?」
『それもある。だが、それ以上にいるだろ……倒しがいのある連中が』
ダンテがそこまで言うと、玄関のベルが鳴った。
ドアを開けに行くとそこにいたのは。
「失礼する。ダンテ、その……訓練しないか?」
「オレも同じだ。ダンテ、強くなるために必要なことをしに来た」
レイアース、そしてウルフだった。
『ケケケ、お嬢ちゃん、んでケモノ野郎の潜在能力はなかなかのモンだ。こいつら利用して、オレらも強くなるぜ』




