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呪われ黒騎士の英雄譚 ~脱げない鎧で救国の英雄になります~  作者: さとう
第四章

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誘い

 オレのところに来ないか。

 一瞬、ラクレスは何を言われているのか理解できず、硬直してしまう。

 だが、エクスパシオンは想定内なのか、笑みを浮かべて頷く。


「うん。いきなりで悪いけどさ……オレ、きみのことけっこう好きなんだよね」

「……は?」

 

 意味不明だった。

 エクスパシオンがニカっと笑うと、ダンテの声がした。


『ケッ……おいオマエ、リンボはどうしてる』

「え? ああ、きみの呪装備の意思か。ははは、ホド、お仲間だよ」

『……興味ない』


 エクスパシオンの頭にあるお面から声がした。

 

「ああ、紹介する。こいつはオレの呪装備、『栄光』のホド。一応、冥府六将の持つ最強の超凶悪級呪装備だ。ほら、挨拶」

『……フン。おいそこの鎧、貴様、何者だ?』

『……あぁ?』

『我が知らぬ半魔神。貴様、本当に半魔神なのか?』

『……雑魚が。イキりやがって。オマエ、オレ様の気まぐれで生かされてること、忘れてんのか?』


 ダンテの声が低くなり、鎧の腕部分がビキビキと脈動する。

 ラクレスは、慌てて腕を押さえた。


「おい、落ち着け!!」

『黙れよ。ラクレス、話はもう終わりだ。このガキ……殺してやる』

「だから、待て!!」


 ラクレスは、自分の腕を叩いた。

 ダンテの制御を外し、自分の意思で腕を抑えつけたのだ。

 その様子を、エクスパシオンは見て言う。


「へえ、呪装備の意思と反発しあうなんてね。知ってるかい? 呪装備ってのは、魔族にとっては力であり、絆なんだ。オレたちみたいに力を合わせないと、真の力は引き出せないよ?」

『……その通り。どうやら貴様、超凶悪級呪装備の中でも位が低い呪装備のようだな』

『……ガキが』

「だから落ち着けって!! って……あれ? お前、俺とダンテの声、聞こえて」

「ああ、聞こえてるよ。え~っと、ラクレスだっけ?」

「!!」


 これまで、ダンテの声が聞こえている魔人はいなかった。

 驚いていると、エクスパシオンは言う。


「感知力ってやつかな。きみのダンテだっけ? きみの魔力の波長に合わせて声を出し、他の人間には聞こえないよう配慮してたみたいだけど、高位の呪装備なら感知できる。もっと気を付けた方がいいよ?」

『……野郎』

「……」


 エクスパシオンは「あはは」と笑った。


「とりあえず、さっきの質問に答えるよ。リンボ様なら、もうすぐ完全復活するよ。ああ……リンボ様だけじゃない。人間界、魔界にある必要のない呪装備を喰らい続けて、六魔神は間もなく復活する」

「……なっ」

『…………』


 仰天した。

 そもそも、六魔神など、おとぎ話でしか知らない。

 愕然としていると、エクスパシオンは続ける。


「六魔神様はみんな、人間を……そして、女神カジャクトを恨んでいる。復活すればまず、女神の愛した人間たち、そして人間界を滅ぼすだろうね」

「…………」

「ラクレス。きみ、魔人なんだろ? 理由は不明だけど……オレたち、同士じゃないか。争う理由はないし、こっちに来なよ」

「…………」

「女神カジャクトの使徒で、まともに戦えるのなんて、せいぜい二人くらいだろ? 神器もたいした脅威じゃないし……どうあがいても、人間界は終わりさ」

「…………」

「ね、ラクレス。こっちに来なよ。ヴァルケンくんを倒したことは水に流すからさ。むしろ、オレの魔装者として迎えるよ。あ、きみって魔界の生活知ってるよね? 魔人たちの国もだいぶ栄えてさ、人間界よりも快適に過ごせると思うよ? それに、オレの部下になれば好待遇で迎えるよ?」

「…………」

「そうそう、最近魔人が人間界によく現れるだろ? それは、魔界の呪装備が全てなくなったから、あとは人間界にある低級呪装備を回収するだけだからなんだ。でも、それも終わる。あとは……そう、ラクレスの呪装備、その鎧だけを回収すれば、人間界での用事は終わる」

「…………」

「あとは、その呪装備を回収。魔神様に献上する……そうすれば、魔神様は復活する」

「…………」

「今のうちに、オレのところに来た方がいいよ? 六魔神様はみんな間もなく復活するって言ったよね? 具体的に言うと、あと一つ……強力な呪装備を捧げれば、復活する。つまり……冥府六将、そして配下の三大魔装者が、きみを狙って来るってこと。あはは、争奪戦ってことさ」

「…………」

「さ、選んで。オレの配下になって安全を得るか。このまま人間界に留まって、冥府六将と三大魔装者の刺客と戦い続けるか」

「…………」

「聞いてるー?」


 ここまで聞き、ラクレスは立ち上がった。

 ダンテも途中から聞いていた。


「ダンテ、聞いたか?」

『ああ。お喋りなヤローってのは最高だな。ペラペラとやかましい」

「呪装備はもう、人間界にない。あるのは俺の暗黒鎧ダンテだけ。そして……六魔神は復活間近で、俺の呪装備を捧げれば復活する。だから、冥府六将たちは俺の呪装備を狙って争奪戦を仕掛けてくる、ってことか」

『いいねいいね。最高のエサだ……人間界にいれば、美味いメシが山ほどやってくるってことだろ?』

「言い方。でも……それでいい」


 エクスパシオンは、ポカンとしていた……そして、笑う。


「あっはっは!! まさか……戦うつもりかい? 冥府六将、それと配下の三大魔装者だよ? 一人で戦えると思ってるのかい?」

「ふん。一人じゃないさ……俺には仲間がいる」


 次の瞬間、エクスパシオンは座っていた岩から飛びのいた。

 そして、ラクレスの隣にレイアースが現れ、エクスパシオンの座っていた岩が真っ二つになる。


「ダンテ、大丈夫か?」

「ああ」

「おやおや。神器の所有者じゃないか。なぜここに?」

「いやその……まあ、いや、お前には関係ない!!」


 なぜか頬を染めて叫ぶレイアース。

 ラクレスは、森の入口に放っていた『黒の蜘蛛(ブラックドローン)』から、レイアースが近づいていることを知っていた。なので、ひたすら話を聞いて待っていたのである。

 エクスパシオンは残念そうに言う。


「残念だなあ。じゃあ、きみは敵になるってわけだ」

「ああ、冥府六将……相手にとって不足はない」

「待った。何度も言ったけど、今日はやらないよ。ふふ……せっかくだ、少し趣向を凝らそうかな」

「何?」

「近く、連絡する。ふふ……楽しい戦いにしよう」


 そう言い、エクスパシオンは消えた。

 しばし、二人は周囲を警戒……力を抜いた。

 レイアースは言う。


「ダンテ、奴は一体……」

「冥府六将。魔人の最高戦力の一人だ。いろいろ話して情報を得た……団長、それと陛下に報告しないと」


 そう言い、レイアースと並んで歩き出すと、ダンテが言う。


『おいラクレス、忘れんなよ』

(え?)

『あの野郎……オマエの本名を知っちまったぞ。忘れんな、レイアースにオマエのことがバレるようなら、オレ様は今後、オマエの身体を使わせないからな』

(…………)


 厄介ごとは、まだまだ多くある……ラクレスはため息を吐きたくなるのだった。

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月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~
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