破壊任務
邪悪級呪装備、『邪ノ指先』。
装備すると、指先に闇の力を集め、爪にすることができる。
だが、爪になるのは人差し指だけ。呪装備の形状も、人差し指に嵌める指サックのような形状だった。
現在、ラクレスはその指サックを手にし、弄ぶ。
「邪悪級だと、こんなもんか……」
右手に魔力を集め、指サックを軽く放ってパシッと掴み、強く握る。
すると、指サックがパキンと割れ、成熟していない半魔神の魂が現れた。
『ケケケ、いただきます……ペッ、薄味だぜ』
「文句言うなよ。で、どうだ?」
『カスだな。マンティスの百分の一以下の力しかねぇ。オマエに補填する命も、一日分くらいだな』
「でも、ないよりマシだろ。さて……これで十個目か」
『おい、人差し指伸ばせ』
ダンテに言われ、ラクレスは右の人差し指をピンと伸ばすと、魔力で爪が形成された。
長さは三十センチほど。ただ魔力で爪を作っただけで、鋭いことは鋭いが、武器にはならないだろう。
『取り込んだ呪装備の力、再現してみたぜ。使えるか?』
「逆に聞くけど……使えると思うか?」
ダンテは、取り込んだ邪悪級の呪装備を、再現することができた。
あくまで、『形状変化』で対応できる呪装備だけ。特殊な能力が付与された物は再現できないし、あくまで物理的な変化の能力だけ。
ラクレスは指を戻し、大きく伸びをした。
「はあ……久しぶりにソロで来たなあ」
現在、ラクレスはトラビア王国から馬で数日離れた場所にある、森の遺跡にいた。
昔からあった遺跡だ。調査もされ、特に何もない遺跡として登録されていたが……最近になり、魔獣が多く集まるようになった。
そこで調べたところ、呪装備があるとわかったのだ。
「俺以外の七曜騎士がみんな、任務でいなくてよかったよ」
『ケケケ、オマエも人気になったなあ?』
「…………」
最近のラクレスの悩み。
それは……呪装備が発見され、破壊任務を受けると、他の七曜騎士たちが『連れて行け』と押しかけて来るようになったことだ。
「レイアース、アクア、ウルフが押しかけて、エクレシアさんがやんわりと、エリオはみんないなくなった後で……みんな、そんなに呪装備に興味あるのかな」
『んなわけあるか。魔人に会えるかもしれねえからだろ』
「……だよなあ」
魔人と戦えば、強くなれる。
死闘ができる。五分の戦いができる。
七曜騎士は強さを求めている。人間ではもう相手にならない強さなので、魔人との戦いにみな興味を持っていたのだ。
そして、ラクレスは狙われている。なので、ラクレスと行動を共にすれば、魔人と戦える……そう、思っているように感じた。
「純粋に俺を心配してくれるのは、レイアースかな……」
『愛されてるねぇ……でも、わかってんな?』
「わかってる。俺の正体は内緒、だろ」
『そういうこった』
「……で、お前は俺に言うこと、ないのか?」
『まだないね』
このやり取りも、数日に一度はするようになった。
ダンテがまだ、ラクレスに打ち明けていないこと。
女神の器。そして、魔人たち。
一番気になるのは……ダンテは一体、何なのか。
だが、ダンテはまだ語らない。
「……帰るか」
『おう。こっから数日かかるんだろ?』
「ああ。それにしても……最近、低級の呪装備がよく発見されるようになった」
遺跡を出て、ラクレスは馬の元へ。
ヴァルケン、カトレアとの戦いから一か月が経過。その間、邪悪級の呪装備が三つ、邪級の呪装備が七つ発見され、それらを捕食、破壊してきた。
馬は遺跡から離れた場所につないである。そこまでの道を歩きつつダンテに言う。
「なあ、呪装備って、人間界にどれくらいあるんだ?」
『知らねぇ。女神に封印された半魔神は、それこそ千を軽く超えていたぜ。超凶悪級みてぇな強いやつは、七十くれぇあった気がするが』
「七十……そんなに」
『まあ、ピンキリだ。雑魚もいればやべぇのもいる。それこそ、魔神に匹敵するような呪装備もな』
「……お前は?」
『オレ様は特別。今はそれだけな』
「はいはい」
『……オレ様が思うに、人間界の呪装備が眼ぇ覚まし始めてんのは、魔界、魔人、半魔神が関係してるとは思う』
「……どういうことだ?」
『超凶悪級くれぇの呪装備は、邪悪級の呪装備を活性化させて目覚めさせるくらいのことはできる。多分……オレ様たちを狙ってる魔人が関係してるかもな』
「…………」
『ラクレス。魔人は雑魚じゃねぇ。油断すんなよ』
「……ああ」
そう言い、ラクレスは馬の元へ戻るのだった。
◇◇◇◇◇◇
「やあ」
馬の元へ戻ると、誰かがいた。
白い髪、赤い瞳。着ている服は胸元が開いたスーツのような服で、頭にはお面のようなものが引っかけてある。
馬が男性に懐いているのか、撫でられると嬉しそうに甘えていた。
「……え」
『ラクレス!! こいつ、魔人だ!!』
「ッ!!」
ラクレスは剣を抜くが、男性はまだ馬を撫でていた。
「はは、いい子いい子。いい馬だなあ」
「お前、俺を狙った刺客だな……!!」
「待てって。今は、お前と戦うつもりはないよ。話くらいさせてくれないか?」
男性は両手を軽く上げ、少し困ったようにほほ笑んだ。
敵意がない。ラクレスは思わず剣を下げかけるが、ダンテの意思が鎧を動かし、がっちりと構えを取る。
『馬鹿野郎!! 言ったばかりじゃねぇか!!』
「す、すまん!! でもこいつ、敵意がない……」
『関係あるか!! わかんねーのか!? こいつの呪装備……ヴァルケンとは桁ぁ違うぞ。ケケケ!! 最上級のメシがやってきたぜ!!』
ダンテは興奮していた。
ラクレスにはわからない。目の前にいる男は、あまりにも無防備で、敵意がなかった。
馬を撫で終えると、近くの岩に座る。
「改めて、オレはエクスパシオン。冥府六将の一人、『罪滅』のエクスパシオンだ」
「め、冥府六将……!?」
『大物だな。リンボの犬が……!!』
「ダンテだったっけ? 少しだけ、話をしようぜ。本当に、今日はそれだけだ」
「…………(ダンテ)」
『オマエ、いい加減にしろよ。話ぃ聞いて何の意味がある!? コイツぁ敵だろうが。食うんだよ!!』
「わかった。俺も、聞きたいことがあるんだ」
『おい……テメェ』
(聞くだけだ。頼む)
『…………チッ』
ラクレスは、エクスパシオンの前にある岩にどっかり座った。
エクスパシオンは微笑み、ラクレスに言う。
「単刀直入に言う。オレのところに来ないか?」
その言葉に、ラクレスは息を吞むのだった。




