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呪われ黒騎士の英雄譚 ~脱げない鎧で救国の英雄になります~  作者: さとう
第三章

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極凶悪級呪装備『次元蟷螂』ヴァルケン②

「くっ……!!」


 ラクレスは、両手を『盾』にしてひたすら動き回っていた。

 両手は盾、両肩には砲身、両足にはいくつもの噴射口が形成されている。

 目の前には、巨大で歪な『カマキリ』が、ラクレスに向かって鎌を振り上げた。


『カカカカカッ!! どうしたどうしたァァァァァッ!!』


 背中から伸びた四本の触手、その先端に生えている鎌が、鞭のように振るわれる。

 四本の鎌が常に振り回されている状態なので、迂闊に近づけない。

 ラクレスは、振り回される鎌を両腕で防御しつつ、両肩のキャノン砲を連射していた。が……四本の鎌がラクレスの攻撃を全て弾いてしまう。


「くそっ、あの鎌……」

『防御、攻撃を同時に行ってやがる。器用というよりは、ただ振り回しているだけだがな』

「おい、弱点はないのか!?」

『前も言ったろ。呪装備と半魔神の魂を結びつける核……心臓だ』

「でも、近づけない……うわっ!?」


 鋭利な鎌が、ラクレスの盾を両断した。うまく受けないと、ダンテの硬質化した盾でも両断される。

 ラクレスは、両肩のキャノン砲に魔力を貯める。


「『黒の砲撃(ブラック・ブラスター)』!!」


 黒い魔力破が発射される。一撃の威力を重視した砲撃だが、ヴァルケンは四本の鎌を高速回転させて砲撃を受けた。


『カカカカカッ、いい威力だぜ。でも、オレにぁ効かねぇよ!!』


 蜘蛛のような八本足を高速で動かし接近してくる。

 ラクレスはバックステップ。足元に鎌が刺さり、急接近してきたヴァルケンが、両手に持つ巨大鎌でラクレスを両断しようとしてきた。

 ラクレスは剣を抜き、ありったけの暗黒物質、魔力を注いで硬貨させる。だが、それでも剣が軋み、暗黒物質に亀裂が入った。


「ぐっ……」

『クケケ、凶悪級の呪装備でよく耐えやがる。なあ、その呪装備を渡せば、命くらいは助けてやってもいいぜ? オレぁ慈悲深いからなぁ?』

「はっ……それはできないな。何故なら、この鎧は脱げないからな!!」


 ラクレスは両手で握っていた剣を、左手だけ放す。そして、手のひらから黒い魔力の糸を大量に作り出し、ヴァルケンの全身に絡め付ける。


「『黒の糸(ブラックスレッド)』……!! お前の動きを封じて」

『無駄ぁ!!』


 ブチブチブチ、と糸が切れていく。

 だがラクレスは諦めない。


「う、ォォォォォ!!」


 左手だけじゃない。背中、足、胸からも大量に糸を生み出し、切られるたびに糸を巻き付けていく。

 四本の鎌の動きを封じ、両手、両足にも絡めていく。


「おぉぁぁぁぁぁぁ!!」

『この、ヤロ……なんつう魔力、アホかテメェェェェェ!!』


 純粋な魔人ですら驚愕する、ラクレスの魔力量。

 暗黒物質はダンテの鎧を形成する物質。『形状変化』は、それらを加工して作り出す。

 ゲルのように柔軟であり、鋼よりも硬く、羽のように柔らかくなる。

 熱にも冷気にも強く、まさに万能。

 分離させることも可能だが、失った分はラクレスの魔力を喰らい、ダンテが作り出す。


『おいラクレス、オマエの魔力、半分以上食っちまった!! 鎧の維持限界になったら『形状変化』できねぇぞ!!』

「もう、少し……!!」

『が、ぐぁ……』


 まるで、蚕のような、繭のような状態になっていた。

 漆黒の繭。ラクレスの『黒の糸(ブラックスレッド)』が、切られてはまき直し、切られてはまき直しを繰り返し、ヴァルケンの『プレディカドール・マンティス』を覆いつくしていた。

 そして、目の前に巨大な黒い『繭』が完成。ヴァルケンの姿が完全に覆い尽くされた。


「ぶはぁ!! はぁ、はぁ、はぁ……どうだ」


 繭は、ピクリとも動かない。

 ラクレスはフラフラになりながら剣を抜く。


「ダンテ、心臓の位置、わかるか? ここから突き刺して、とどめをさす」

『いやはや、すげぇ魔力量だな。あのヴァルケンとかいう小僧の数倍はあるぞ』

「いいから、早く」

『ああ。正確に突き刺──……』


 ズドン!! と、ラクレスの背中に鎌が突き刺さった。


「……え」

『なっ』


 それは、ヴァルケンの鎌。

 切り裂かれた空間から、触手が伸びていた。

 同時に、ラクレスを囲うように空間が切り刻まれ、いくつもの鎌が飛び出す……そして、鎌が右腕、左腕、両足に突き刺さった。


「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

『クケケ、惜しかったな』


 繭の周囲に空間の裂け目が現れると、飛び出した鎌が繭を切り裂いた。

 そして、無傷のヴァルケン、『プレディカドール・マンティス』が姿を現す。

 四肢に鎌が貫通したラクレスは、ゆっくりと浮かび、ヴァルケンの目の前へ移動させられた。


「ぐ、ぁ……」

『鎌を振らないと『次元斬』は使えねぇと思ったか? 残念……この形態なら、いつでもどこでも断裂を生み出せる。油断したなぁ?』

「こ、の……」


 ラクレスの右肩に砲身が形成されるが、一瞬で切り刻まれバラバラに。そして、ヴァルケンの持つ鎌がラクレスの右肩に突き刺さった。


「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

『クケケ、痛いか? ああ、もう命乞いしてもダメだ。テメェは苦しんで死ぬ……どれ、ツラ見せな』


 バキン!! と、兜に亀裂が入り、右目だけが露出した。


『あぁん? 硬ぇな……んん? おいおいおい、お前……魔人じゃねぇのか? 魔人は例外なく白髪、紅眼だろうが。どうなってんだ?』

「ぅ……」

『……この鎧、なんか気色悪ぃな。ホントに呪装備なのか?』


 ぼたぼたと、ラクレスの足元に血だまりが広がっていく。

 意識が朦朧とし始めた。


『お? おい、あっちも面白いことになってるぜ。見ろよ』


 身体の向きが強引に変えられる。

 そこにあったのは、漆黒の『箱』だった。

 真っ黒な、家一軒分ほどの『箱』が鎮座している。


『あれはカトレアの呪装備のチカラだ。あれは厄介だぜぇ? あの二人、いわゆる『壺の世界』の中だ。こっちから干渉できねぇし、カトレアの腹の中にいるようなモンだ。こっちがどうなろうと、お前のことを知ることができねぇってこった』

「……俺のことを、知れない?」


 ラクレスがそう呟くと、ヴァルケンの鎌がラクレスの眼前に突きつけられる。


『ああ。お前の声も、存在も、何もかも干渉できない空間だ。残念だったなぁ? お前の断末魔も、助けを呼ぶ声も聞こえねぇってこった。ギャハハハハ!!』


 ◇◇◇◇◇◇


『ケケケ、確かにそりゃ好都合』


 ◇◇◇◇◇◇


 次の瞬間、ラクレスが鎌が刺さったままの右腕を動かし、眼前の鎌を掴んだ。


『あ?』

「ったく、ボロボロにやられやがって。気ぃ失っちまったし、このままじゃ死んじまう。オレ様が出るわけにはいかなかったし、最悪の場合は……と思ってたが、ちょうどいい」

『……んだ、テメェ』

「はっ」


 バギャン!! と、握っていた鎌が砕け散った。

 同時に、ラクレスの瞳が深紅に染まり、兜の口部分がバキバキと変形……無数の牙が生える。

 

「ザコがイキりやがって。ケケケ……ラクレス、オレ様がこのチカラの本当の使い方、教えてやるぜ」

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お読みいただき有難うございます!
月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~
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