極凶悪級呪装備『紺玄金斗』カトレア①
レイアースはロングソードの『光神器ルーチェ・デルソーレ』を、アクアは双剣である『水神器ナルキッス&ニンフィア』を構え、カトレアと対峙していた。
白い髪、赤い瞳、そして黒い刺青のような跡。
赤い瞳は、どこまでも無感情に二人を見ていた。
「水、光の神器……」
カトレアが言うと、アクアの目元がピクリと動いた。
「アンタ、魔人なのよね。目的は?」
「呪装備の回収。まあ、ガワはいりません。強化のために魂が必要だった……狙っていた獣王国の呪装備が破壊されたので、代わりを」
カトレアの視線は、ラクレスへ向いた。
「でも……それより優先すべきことが」
「優先? なに、もしかして……これとか?」
アクアは自分の双剣を見せつける。
女神の神器。七つしかない、半魔神にとっては忌むべき物だ。
するとカトレアは。
「それは問題ありません。あなたも、あなたも……私の敵じゃありませんから」
「はぁ?」
「……聞き捨てならないな」
アクアが睨み、レイアースも構えを変え特攻できるようにする。
だが、カトレアは変わらない。
「女神の神器、そして使い手であるあなたたち二人はここで破壊します。でも……優先すべきは、あの黒い鎧のお方」
「はっ、お仲間だから連れ帰るとか? それとも、本当に仲間とか? アタシらをハメる罠だったとか?」
「アクア、貴様、まだそんなこと」
レイアースが怒鳴るが、アクアは静かに言う。
「現実見なさい。敵は魔人、そしてダンテも魔人。疑わない方が不自然よ」
「……くっ」
「ご安心ください。彼は仲間じゃありません。むしろ……彼は敵であるからこそ、私たちが最も欲する情報を手にしている」
「「……??」」
意味がわからず、アクアもレイアースも首を傾げた。
カトレアは言う。
「『器』……私たち魔人、そして冥府六将、そして六魔神が求める物を、あの黒い鎧は知っています」
「……はあ? 器?」
「……どういう意味だ?」
「恐らく、あの魔人ではない。『暗黒鎧ダンテ』が知る何かでしょうね。あなたたち、あの鎧の意思から何か聞いていませんか?」
「「…………」」
これは、情報収集だ。
アクアもレイアースも気付いた。カトレアは、二人と会話することで、何か『情報』を得ようとしている。
魔人。冥府六将。六魔神……カトレアは、かなり重要なことを話している。
アクア、レイアースは互いに視線を合わせた。
(会話する。情報得るわよ)
(ああ。サポートする)
視線でそれだけ会話し、二人は剣を下げた。
◇◇◇◇◇◇
「器って何?」
いきなりの質問に、レイアースがギョッとした。
ストレートすぎる。警戒させるのでは、と思った。
「女神の器。女神カジャクトの器のことです。あら……人間は知らないのですか?」
「知らないわよ、そんなの。ねえ」
「あ、ああ……」
意外にも会話になっていた。
レイアースがドキドキしながら相槌を打つ。
「女神の神器を使っているのに、女神の器のことを知らないなんて。ああ……まだそこまで神器を解放することができないのですね」
「はあ? 何よそれ」
「女神の神器は解放階位がありますよね。ある一定の解放をすると、女神カジャクトのことについてわかるはずなんですが」
「「…………」」
レイアース、アクアは顔を見合わせた。
当然、そんなことは知らない。
「やはりそうですか。というか、だからこそ、あなた方は私に勝てません。女神の知識もないあなた方が、私と戦えるはずありませんから」
「ああ? そんなのやってみなきゃわかんないでしょーが!!」
「お、おいアクア、情報、情報」
「ぐぬぬ……」
レイアースは冷静だった……が、少し混乱する。
女神の器。どこかで聞いたような気がしてならなかったのだ。
「……一つ、聞かせてくれ。その女神の器というのは、何に使うんだ?」
「女神の器は、世界のどこかに漂っている『女神カジャクト』の魂を降ろす器です。つまり、器を手に入れれば、女神カジャクトをこの世界に降臨させることができる。問題は、器が生物なのか、道具なのか、この世に存在する物なのか、六魔神でもわからないということ」
「……そして、その器の在処を」
「あの黒騎士ダンテは知っている、ということです」
「……マジで?」
思わず、アクアとレイアース、そしてカトレアはラクレスを見た。
だが次の瞬間、巨大な『カマキリ』のような何かが現れ、ラクレスと戦い始めた。
「おや、『魔装』を使うとは。油断したようですね……さて、私もそろそろ」
「待て。最後に一つ聞かせてくれ。お前たち魔人は、女神カジャクトを『器』に降ろし、どうするつもりだ」
レイアースは、これが最も重要な情報だと思った。
カトレアは、淡々と言う。
「決まっています。確実に殺すんですよ。女神カジャクトは六魔神、半魔神、そして我ら魔人にとって最大の怨敵……その存在を抹消するために、我々は力を集めている。いずれ人間界に侵攻し、全てを破壊するために」
「「……な」」
「話は終わりです。では、始めましょうか」
すると、カトレアの手に《壺》が現れた。
「行きますよ、『紺玄金斗』アズロナ」
『ええ。ふふ、久しぶりにたっぷりお話して、楽しそうね』
「ええ、楽しかったです。もう、思い残すことはありませんので」
会話は終わった。
アクア、レイアースは再び剣を構える。
「なんか、壮大な話だったわね」
「ああ。だが……決まったな。こいつらは明確な敵だ」
「そーね。格下扱いもムカつくし」
「よし……では、やるぞ!!」
二対一、女神の神器と呪装備の戦いが始まった。




