極凶悪級呪装備『次元蟷螂』ヴァルケン①
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ラクレスは剣を構え、一度だけレイアースとアクアを見た。
『おい、余所見してる場合か』
(わかってる。でも、レイアースとアクアが……!!)
『向こうは二対一、こっちは格上が一だ。どう考えてもこっちが不利。おい、集中しろ。あのガキは遊びだと思ってる今しかチャンスはねぇ』
(……確かに)
ラクレスの背中にブースターが形成されると、魔力が一気に噴き出した。
「お? へえ、鎧のカタチ変えることができる能力か」
一瞬で見破られた。だが、ラクレスは無視。
背中だけじゃない、足、腕にも噴射口を形成し、魔力の噴き出しを調整しながら細かく飛んだ。
そして、高速移動……まるで分身したような速度でヴァルケンに接近。
「『黒の──……」
首を狙った斬撃を死角から放つ……だが、ラクレスは見た。
ヴァルケンの目が、ラクレスを見ていた。
嘲笑うような目、口元を見て、ラクレスの背筋が凍る……すると、胸に形成された噴射口から魔力が噴き出し、思い切り後退。
たった今、ラクレスのいた場所に《切れ目》ができていた。
「お、避けやがった。ハハハ!! なあマンティス、避けたぜこいつ!!」
『恐らく、あの呪装備の意思がやったんだろうな』
ラクレスは、冷や汗が止まらなかった。
死んでいた。
間違いなく、ダンテのアシストがなければ、両断されていた。
『…………チッ』
「だ、ダンテ……」
『……おいラクレス。正攻法じゃ無理だ。もっとゲスい手ぇ使うぞ』
「…………」
ラクレスは頷く。
ヴァルケンは、真正面から挑んで勝てる相手ではなかった。
◇◇◇◇◇◇
ヴァルケンは、鎌を担いで欠伸をした。
「マンティス、どうだ?」
『並み以上、一流以下の剣技だな。太刀筋見ればだいたいわかる』
「そうか。能力はまあ……『形状変化』ってところか。あの鎧を好きなカタチに変えられる」
『ああ。邪悪級寄りの凶悪級ってところで間違いないな。少しはオレの力になりそうだ』
「じゃあ、遊びつつ狩るぜ」
鎌をクルクル回し、ヴァルケンは腰を落とす。
目の前にいる黒騎士は剣を構えたまま、静かに腰を落としていた。
「おい、もっと速くいくけど、ちゃんと動けよ?」
身体強化。
ヴァルケンの身体に、黒いモヤのような『闇』の魔力が纏わりつく。
そして、『次元蟷螂』マンティスの能力である『次元斬』の力で空間を斬ると、空間にギザギザの斬撃痕が残った。
「クケケ、冥府六将ですら防御できねぇオレの鎌で、ギザギザに削り斬ってやるよ!!」
「…………」
黒騎士は、動かない。
黒いマントがブワッと翻ると同時に、ヴァルケンは突っ込んだ。
鎌をクルクル回しながら、黒騎士がギリギリ対応できる速度で。
遊ぶつもりだった。久しぶりに楽しい獲物だと思った。
油断はない。自分は格上……そう、思っているし、間違いではない。
「『ショックエッジ』!!」
鎌の乱舞。
空間の至るところに、ギザギザの斬撃痕が付く。
斬撃が黒騎士を囲うように刻まれ、逃げ場がない。
「クケケッ!! さあどうする、黒騎士よォォォォォ!!」
「…………」
逃げ場がない。
そして───無数の斬撃が、黒騎士を襲い、鎧がバラバラに砕け散った。
「ッハハァ!! ンだよ、大したこと──……ぁ?」
バラバラになった鎧を見て、ヴァルケンは疑問に思った。
なぜ、血が出ない。なぜ、呪装備から半魔神の魂が出ない。
そして、なぜ黒い鎧が、ドロドロに溶けているのか──……。
『───ヴァルケン!!』
「あ? ──……っっ」
ブジュッ……と、ヴァルケンの腹に何か刺さった。
ゆっくり視線を下に向けると、地面から『黒い杭』が生え、自分の腹に貫通していた。
そして、地面……砂の地面から、黒騎士の兜が見えた。
「油断したな」
黒騎士の声。
「お前の目の前にいた黒騎士……あれは、俺が作った『黒化身』……鎧の一部で作ったニセモノだ。ニセモノを作り、その隙に俺は地面を掘って潜伏。お前が接近してくるのを待っていたのさ……予想通り、お前は油断した。俺を格下と決めつけ、なんの策もなく突っ込んで来たからな!!」
「ぐ、ぁ……テメェ!!」
「ここで終わらせる!!」
ラクレスは、暗黒物質の杭に更なる魔力を流し、ヴァルケンの身体を完全に貫いた。
ヴァルケンは大量に吐血、そのまま崩れ落ちる。
ラクレスは砂地から這い上がり、首をブンブン振った。
「危なかった……こいつが油断していなかったら、負けていた」
そのまま、レイアースとアクアの方を見た時だった。
『馬鹿野郎!! 終わってねぇ、油断すんな!!』
「え──……」
鎧に噴射口が形成され、その場から一気に離れた。
ダンテの意思による移動。ラクレスはたたらを踏んで態勢を整える。
すると……倒れていたヴァルケンがゆっくり立ち上がった。
先ほどまでラクレスが立っていた場所には、ギザギザの斬撃痕が残っており、ヴァルケンの周りを浮遊する『次元蟷螂』マンティスによる攻撃だと理解した。
「……あ~、いてぇな」
『油断しすぎだ、バカ』
「うっせ。あ~あ、でも眼ぇ覚めたぜ。それに……キレたぜ、クソ野郎」
ヴァルケンの目が真っ赤に輝き、青筋が浮かんでいた。
ゾッとする殺意に、ラクレスは飲まれかける。
『畜生、油断が消えた。やべぇな……恐らくコイツ』
「な、何をするつもりだ……?」
ヴァルケンは鎌を手に、ラクレスに向かって言う。
「教えてやる。呪装備ってのは四つの等級がある。邪級、邪悪級、凶悪級、極凶悪級。中でも特に危険な極凶悪級の呪装備は、呪装者と一時的に一体化することで、封じられた半魔神の魂を解放できるんだ」
「解放……まさか」
「その通り」
ヴァルケンは鎌を掲げ、ラクレスに言う。
「テメェはブチ殺す。行くぜマンティス……『魔装』」
「!!」
漆黒の魔力がヴァルケンから吹き出し、『次元蟷螂』マンティスに集約されていく。
そして、闇のモヤがヴァルケンを包み込むと、魔力が形となっていく。
「な……」
『最悪のパターンだ……』
闇の魔力が消え、目の前にいたのは……異形だった。
濃い緑色の全身鎧。顔つきは蟷螂のような鎧で、背中には四本、触手のような『鎌』が生えている。
そして両手には大鎌を持ち、足は八本、昆虫のような足が生えていた。
全長は三メートル以上ある、異形の鎧化形態。
「クケケ、黒騎士ダンテ……この『次元蟷螂』マンティスの魔装形態、『プレディカドール・マンティス』の力ぁ、見せてやるよ」
圧倒的な存在を前に、ラクレスは汗が止まらない。
久しぶりに、命の危機を感じていた。
「……やってやる。俺だって、こんなところで死ねないんだ!!」
ラクレスも、魔力を全開にしてヴァルケンと対峙した。
◇◇◇◇◇◇
一方、ダンテは。
『…………』
ラクレスにはわからなかった。
ダンテは、レイアースとアクアの方を見て、軽く舌打ちする。
『まだ、近いな……もうちょい、もうちょい』
ヴァルケンよりも優先する『何か』を、見ているのだった。




