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呪われ黒騎士の英雄譚 ~脱げない鎧で救国の英雄になります~  作者: さとう
第三章

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極凶悪級呪装備『次元蟷螂』ヴァルケン①

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 ラクレスは剣を構え、一度だけレイアースとアクアを見た。


『おい、余所見してる場合か』

(わかってる。でも、レイアースとアクアが……!!)

『向こうは二対一、こっちは格上が一だ。どう考えてもこっちが不利。おい、集中しろ。あのガキは遊びだと思ってる今しかチャンスはねぇ』

(……確かに)


 ラクレスの背中にブースターが形成されると、魔力が一気に噴き出した。


「お? へえ、鎧のカタチ変えることができる能力か」


 一瞬で見破られた。だが、ラクレスは無視。

 背中だけじゃない、足、腕にも噴射口を形成し、魔力の噴き出しを調整しながら細かく飛んだ。

 そして、高速移動……まるで分身したような速度でヴァルケンに接近。


「『黒の(ブラック)──……」


 首を狙った斬撃を死角から放つ……だが、ラクレスは見た。

 ヴァルケンの目が、ラクレスを見ていた。

 嘲笑うような目、口元を見て、ラクレスの背筋が凍る……すると、胸に形成された噴射口から魔力が噴き出し、思い切り後退。

 たった今、ラクレスのいた場所に《切れ目》ができていた。


「お、避けやがった。ハハハ!! なあマンティス、避けたぜこいつ!!」

『恐らく、あの呪装備の意思がやったんだろうな』


 ラクレスは、冷や汗が止まらなかった。

 死んでいた。

 間違いなく、ダンテのアシストがなければ、両断されていた。


『…………チッ』

「だ、ダンテ……」

『……おいラクレス。正攻法じゃ無理だ。もっとゲスい手ぇ使うぞ』

「…………」


 ラクレスは頷く。

 ヴァルケンは、真正面から挑んで勝てる相手ではなかった。


 ◇◇◇◇◇◇


 ヴァルケンは、鎌を担いで欠伸をした。


「マンティス、どうだ?」

『並み以上、一流以下の剣技だな。太刀筋見ればだいたいわかる』

「そうか。能力はまあ……『形状変化』ってところか。あの鎧を好きなカタチに変えられる」

『ああ。邪悪級寄りの凶悪級ってところで間違いないな。少しはオレの力になりそうだ』

「じゃあ、遊びつつ狩るぜ」


 鎌をクルクル回し、ヴァルケンは腰を落とす。

 目の前にいる黒騎士は剣を構えたまま、静かに腰を落としていた。


「おい、もっと速くいくけど、ちゃんと動けよ?」


 身体強化。

 ヴァルケンの身体に、黒いモヤのような『闇』の魔力が纏わりつく。

 そして、『次元蟷螂』マンティスの能力である『次元斬』の力で空間を斬ると、空間にギザギザの斬撃痕が残った。


「クケケ、冥府六将ですら防御できねぇオレの鎌で、ギザギザに削り斬ってやるよ!!」

「…………」


 黒騎士は、動かない。

 黒いマントがブワッと翻ると同時に、ヴァルケンは突っ込んだ。

 鎌をクルクル回しながら、黒騎士がギリギリ対応できる速度で。

 遊ぶつもりだった。久しぶりに楽しい獲物だと思った。

 油断はない。自分は格上……そう、思っているし、間違いではない。


「『ショックエッジ』!!」


 鎌の乱舞。

 空間の至るところに、ギザギザの斬撃痕が付く。

 斬撃が黒騎士を囲うように刻まれ、逃げ場がない。


「クケケッ!! さあどうする、黒騎士よォォォォォ!!」

「…………」


 逃げ場がない。

 そして───無数の斬撃が、黒騎士を襲い、鎧がバラバラに砕け散った。


「ッハハァ!! ンだよ、大したこと──……ぁ?」


 バラバラになった鎧を見て、ヴァルケンは疑問に思った。

 なぜ、血が出ない。なぜ、呪装備から半魔神の魂が出ない。

 そして、なぜ黒い鎧が、ドロドロに溶けているのか──……。


『───ヴァルケン!!』

「あ? ──……っっ」


 ブジュッ……と、ヴァルケンの腹に何か刺さった。

 ゆっくり視線を下に向けると、地面から『黒い杭』が生え、自分の腹に貫通していた。

 そして、地面……砂の地面から、黒騎士の兜が見えた。


「油断したな」


 黒騎士の声。


「お前の目の前にいた黒騎士……あれは、俺が作った『黒化身(ブラックアバター)』……鎧の一部で作ったニセモノだ。ニセモノを作り、その隙に俺は地面を掘って潜伏。お前が接近してくるのを待っていたのさ……予想通り、お前は油断した。俺を格下と決めつけ、なんの策もなく突っ込んで来たからな!!」

「ぐ、ぁ……テメェ!!」

「ここで終わらせる!!」


 ラクレスは、暗黒物質の杭に更なる魔力を流し、ヴァルケンの身体を完全に貫いた。

 ヴァルケンは大量に吐血、そのまま崩れ落ちる。

 ラクレスは砂地から這い上がり、首をブンブン振った。


「危なかった……こいつが油断していなかったら、負けていた」


 そのまま、レイアースとアクアの方を見た時だった。


『馬鹿野郎!! 終わってねぇ、油断すんな!!』

「え──……」


 鎧に噴射口が形成され、その場から一気に離れた。

 ダンテの意思による移動。ラクレスはたたらを踏んで態勢を整える。

 すると……倒れていたヴァルケンがゆっくり立ち上がった。

 先ほどまでラクレスが立っていた場所には、ギザギザの斬撃痕が残っており、ヴァルケンの周りを浮遊する『次元蟷螂』マンティスによる攻撃だと理解した。


「……あ~、いてぇな」

『油断しすぎだ、バカ』

「うっせ。あ~あ、でも眼ぇ覚めたぜ。それに……キレたぜ、クソ野郎」


 ヴァルケンの目が真っ赤に輝き、青筋が浮かんでいた。

 ゾッとする殺意に、ラクレスは飲まれかける。


『畜生、油断が消えた。やべぇな……恐らくコイツ』

「な、何をするつもりだ……?」


 ヴァルケンは鎌を手に、ラクレスに向かって言う。


「教えてやる。呪装備ってのは四つの等級がある。邪級、邪悪級、凶悪級、極凶悪級。中でも特に危険な極凶悪級の呪装備は、呪装者と一時的に一体化することで、封じられた半魔神の魂を解放できるんだ」

「解放……まさか」

「その通り」


 ヴァルケンは鎌を掲げ、ラクレスに言う。


「テメェはブチ殺す。行くぜマンティス……『魔装(アドベント)』」

「!!」


 漆黒の魔力がヴァルケンから吹き出し、『次元蟷螂』マンティスに集約されていく。

 そして、闇のモヤがヴァルケンを包み込むと、魔力が形となっていく。

 

「な……」

『最悪のパターンだ……』


 闇の魔力が消え、目の前にいたのは……異形だった。

 濃い緑色の全身鎧。顔つきは蟷螂のような鎧で、背中には四本、触手のような『鎌』が生えている。

 そして両手には大鎌を持ち、足は八本、昆虫のような足が生えていた。

 全長は三メートル以上ある、異形の鎧化形態。


「クケケ、黒騎士ダンテ……この『次元蟷螂』マンティスの魔装形態、『プレディカドール・マンティス』の力ぁ、見せてやるよ」


 圧倒的な存在を前に、ラクレスは汗が止まらない。

 久しぶりに、命の危機を感じていた。


「……やってやる。俺だって、こんなところで死ねないんだ!!」


 ラクレスも、魔力を全開にしてヴァルケンと対峙した。


 ◇◇◇◇◇◇


 一方、ダンテは。


『…………』


 ラクレスにはわからなかった。

 ダンテは、レイアースとアクアの方を見て、軽く舌打ちする。


『まだ、近いな……もうちょい、もうちょい』


 ヴァルケンよりも優先する『何か』を、見ているのだった。

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お読みいただき有難うございます!
月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~
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