凶悪級呪装備『砂嵐』デザートレオン
ラクレス、レイアース、アクアの三人は、砂漠を進んでいた。
乗っているのは、騎士団が用意した砂漠専用の『砂駄獣』という牛のような六本足の魔獣だ。強靭な脚力を持ち、砂に足を取られず一定の速度で進むことができる。
レイアース、アクアはマントを被り、ゴーグル、そして口元をマスクで覆っていた。
それも仕方がない。なぜなら、砂嵐の中を進んでいるから。
ラクレスは、全身鎧なので砂嵐も平気。呼吸も視界もクリアだった。
『ケケケ、オレ様に感謝しな』
(そこは素直に感謝……)
砂駄獣は、等間隔でロープに結わえてあるので、はぐれる心配はない。
後ろを振り返るが、砂嵐で視界が悪く、後ろのレイアースは辛うじて見えるが、十メートルほど先にいるアクアはあまり見えない。
「二人とも、大丈夫か!!」
「私は平気だ。視界が悪いが……」
「さいっあく!! もう、何よこの砂嵐ー!!」
レイアースは普通だが、アクアは怒っていた。
ラクレスはダンテに聞く。
(おい、本当にこっちでいいのか?)
『ああ。この砂嵐は呪装備によるモンだ。呪装備である以上、オレ様の感知から逃げることはできねぇ……まあ、限度はあるが。こいつは正直、獣王国の呪装備よりは格下だな』
(そうなのか? でも、こんな砂嵐が……)
『大規模なだけだ。恐らく、砂嵐を起こすだけの能力……邪悪級寄りの凶悪級ってところか』
(それでも、油断はできない……それに、魔人も動いてるんだろ?)
『恐らく……いや、確実だな。妙な気配がしやがる』
ラクレスは、ごくりと唾を飲み込んだ。
急ぎ、呪装備を破壊して力を取り込み、ダンテを強化しなければならない。そうしないと、二人の魔人と戦えない。
レイアース、アクア。
レイアースは『瞬着』に目覚めたばかり。アクアはそれ以上の力はあるだろうが、魔人相手には心もとないというのがダンテの意見……ラクレスも同じだった。
「急いでくれよ……」
『へいへい。さて……もうそろそろだ。お嬢ちゃん二人にも警戒するように言いな』
そして、砂嵐がまるで壁のようになっている場所に到着した。
ラクレスはあまり感じていないが、レイアースとアクアは言う。
「っぐ……なんという風、砂だ」
「うう、息しにくい……うぇ、砂が口に」
竜巻のような風の中だ。
砂駄獣も動けないのか、その場にしゃがみ込んでしまう。そして顔を砂に埋めるようにし、丸まってしまう……砂駄獣の防御態勢だ。
三人は砂駄獣から降りて集まる。
「この先だ。この先に、呪装備がある」
「……何も見えない」
「マジであるの? う~、これで空振りだったら、アンタマジで怒るから」
「とりあえず、砂嵐が強すぎる……俺が先頭を歩くから、絶対に離れないよう付いてきてくれ」
すると、アクアがラクレスのマントを掴んだ。
「……え、な、何?」
「離れたらヤバイんでしょ? だったら掴んでるわ」
「あ、ああ……まあ、いいけど」
「む……ではダンテ、私も」
と、レイアースもマントを掴んだ。
黒騎士のマントを掴む、二人の少女という図が出来上がった。
『ケケケ!! なんだなんだ、面白ぇことになりそうだなぁ?』
(う、うるさい……ああもう、行くぞ。案内しろよ)
『へいへい。ケケケ』
ダンテの笑いが鬱陶しかったので、ラクレスは少し早足で歩くのだった。
◇◇◇◇◇◇
まるで壁。
砂嵐の勢いが強すぎ、砂の密度が上がり壁のようになっていた。
触れると、ギャリギャリと鎧が削られるような感覚。このまま突っ込めば、ラクレスは無事で済むが、生身の二人は傷だらけになるだろう。
ラクレスは、暗黒物質でコーティングした剣を抜く。
「砂嵐を斬る。一時的に隙間ができるはずだから、一気に突っ込むぞ」
「了解した」
「ええ、チャチャっとお願いね」
ラクレスは、砂の壁に向かって一閃。
一瞬だけ、砂嵐が途切れ隙間ができた。その間を三人が通ると……目の前に、大きな岩石がいくつも転がっていた。
「あれ、砂嵐が消えてる。ラッキーじゃん」
「確かに……ここだけ別世界のようだ」
アクア、レイアースがマスク、ゴーグルを外す。
周りは大きな岩石がいくつも転がり、砂地も硬くなっていた。砂が硬い理由は、岩石地帯の中心にあるオアシスだろう。
そして、オアシスの周りには木々が生え、ひときわ大きな岩石柱が立っていた。
「見ろ、あそこ!!」
レイアースが指差したのは、岩石柱。
柱のてっぺんに、巨大な砂色の獅子がいた。
『ウォォォ──……ン!!』
獅子が吠える。
獅子の右前足に、砂色の鉤爪が装備してあった。
『あれが呪装備。ああ、そういうことか』
(なに納得してるんだ。何かわかったなら言えよ!!)
『ああ、あれは……』
レイアースが剣を、アクアが双剣を抜く。
すると、砂色の獅子こと『デザートレオン』が、岩石柱から飛び降りラクレスたちの前へ。
『グォルルルルル……!!』
「やる気満々ってところね」
「ああ。だが……あの遺跡で戦ったヤツよりは弱い!!」
レイアースの身体が光に包まれると、身体能力が爆発的に向上する。
『瞬着』を得たことにより、神器の力の一部が解放され、レイアースの流す魔力がより洗練された状態で『光』となり還元される。
『ゴアァァァァァァ!!』
「参る!!」
「あ、ずるい!!」
レイアースが飛び出すと、獅子も飛び出した。
真正面から対峙。
デザートレオンの鉤爪、そしてレイアースの『光神器ルーチェ・デルソーレ』の刃がぶつかり合い、激しい火花が散った。
力では圧倒的に降り。なのでレイアースは爪を受け、そのまま力の流れを脇に逸らした。
パリィ。繊細な技術での返しに、アクアは舌打ちする。
「あいつ、また強くなってる……ムカつく」
「む、ムカつくって……」
「ふんだ。まあいいわ」
アクアはそっぽ向いた。
そして、レイアースは返しの一撃を放つ。
「『光閃覇刃』!!」
光を纏った剣による斬撃が、デザートレオンの右前足を切断、呪装備に包まれた前足が吹き飛び、ラクレスたちの前に転がってくる。
そして、レイアースは静かに言う。
「眠れ、砂漠の獅子……さらばだ!!」
ドン!! と、レイアースの一撃で首が両断。デザートレオンは崩れ落ちた。
同時に、砂嵐が止む……照りつける太陽が一気にラクレスたちを焼いたが、オアシス、木々のおかげでそれほど暑くはない。
レイアースは剣を鞘に戻す。
「……大した事がなかったな」
「確かに、弱っちいわね」
「……まあ、うん」
その通りだった。
あまりにも、圧倒的。レイアースが強いというだけではない。
すると、ダンテが言う。
『こいつ、獣だな。半魔神だが、人間みたいな意思じゃない、動物の意思だ。だから策とか講じる脳みそはないし、単純に襲って来るくらいしかできなかったんだろ』
「動物の、半魔神か……」
『ああ。まあ、楽でよかったぜ──……ラクレス!!』
「え?」
気付かなかった。
上空から、巨大な『鎌』が高速回転して落ち、鉤爪に突き刺さった。
鉤爪が砕けると、解放された半魔神の『魂』が浮かび上がり、その魂がいきなり現れた青年の手に収まる。
「クケケ、ごくろーさん」
「お前、ヴァルケン……!!」
「いやぁ、楽できたぜ。なあ、カトレア」
「そうね。横取りしちゃってごめんなさいね」
そして、オアシスの影からカトレアが現れた。
ラクレスは言う。
「お前ら、最初から……!!」
「ああ。横からかっさらってやろうと思ってた。クケケ、わりーな」
すると、半魔神の魂が、ヴァルケンの『鎌』に吸い込まれた。
ヴァルケンは鎌を手にし、ラクレスへ向ける。
「さぁて。鎧野郎、遊ぼうぜぇ?」
「……くっ」
やるしかない。
ラクレスは剣を抜き、構えを取った。
そして、カトレア。
「お嬢さんたちは私ね。ふふ、少しは楽しめるといいけど」
「二対一で、随分と楽しそうだな」
「ちょっと、アタシにやらせなさいよ。アンタ、獅子やったじゃん」
「大馬鹿。相手は魔人だぞ」
カトレアに向かって、レイアースとアクアは剣を向けた。
こうして、魔人との戦いが幕を開けた。




