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呪われ黒騎士の英雄譚 ~脱げない鎧で救国の英雄になります~  作者: さとう
第三章

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凶悪級呪装備『砂嵐』デザートレオン

 ラクレス、レイアース、アクアの三人は、砂漠を進んでいた。

 乗っているのは、騎士団が用意した砂漠専用の『砂駄獣』という牛のような六本足の魔獣だ。強靭な脚力を持ち、砂に足を取られず一定の速度で進むことができる。

 レイアース、アクアはマントを被り、ゴーグル、そして口元をマスクで覆っていた。

 それも仕方がない。なぜなら、砂嵐の中を進んでいるから。

 ラクレスは、全身鎧なので砂嵐も平気。呼吸も視界もクリアだった。


『ケケケ、オレ様に感謝しな』

(そこは素直に感謝……)


 砂駄獣は、等間隔でロープに結わえてあるので、はぐれる心配はない。

 後ろを振り返るが、砂嵐で視界が悪く、後ろのレイアースは辛うじて見えるが、十メートルほど先にいるアクアはあまり見えない。


「二人とも、大丈夫か!!」

「私は平気だ。視界が悪いが……」

「さいっあく!! もう、何よこの砂嵐ー!!」


 レイアースは普通だが、アクアは怒っていた。

 ラクレスはダンテに聞く。


(おい、本当にこっちでいいのか?)

『ああ。この砂嵐は呪装備によるモンだ。呪装備である以上、オレ様の感知から逃げることはできねぇ……まあ、限度はあるが。こいつは正直、獣王国の呪装備よりは格下だな』

(そうなのか? でも、こんな砂嵐が……)

『大規模なだけだ。恐らく、砂嵐を起こすだけの能力……邪悪級寄りの凶悪級ってところか』

(それでも、油断はできない……それに、魔人も動いてるんだろ?)

『恐らく……いや、確実だな。妙な気配がしやがる』


 ラクレスは、ごくりと唾を飲み込んだ。

 急ぎ、呪装備を破壊して力を取り込み、ダンテを強化しなければならない。そうしないと、二人の魔人と戦えない。

 レイアース、アクア。

 レイアースは『瞬着』に目覚めたばかり。アクアはそれ以上の力はあるだろうが、魔人相手には心もとないというのがダンテの意見……ラクレスも同じだった。


「急いでくれよ……」

『へいへい。さて……もうそろそろだ。お嬢ちゃん二人にも警戒するように言いな』


 そして、砂嵐がまるで壁のようになっている場所に到着した。

 ラクレスはあまり感じていないが、レイアースとアクアは言う。


「っぐ……なんという風、砂だ」

「うう、息しにくい……うぇ、砂が口に」

 

 竜巻のような風の中だ。

 砂駄獣も動けないのか、その場にしゃがみ込んでしまう。そして顔を砂に埋めるようにし、丸まってしまう……砂駄獣の防御態勢だ。

 三人は砂駄獣から降りて集まる。


「この先だ。この先に、呪装備がある」

「……何も見えない」

「マジであるの? う~、これで空振りだったら、アンタマジで怒るから」

「とりあえず、砂嵐が強すぎる……俺が先頭を歩くから、絶対に離れないよう付いてきてくれ」


 すると、アクアがラクレスのマントを掴んだ。


「……え、な、何?」

「離れたらヤバイんでしょ? だったら掴んでるわ」

「あ、ああ……まあ、いいけど」

「む……ではダンテ、私も」


 と、レイアースもマントを掴んだ。

 黒騎士のマントを掴む、二人の少女という図が出来上がった。


『ケケケ!! なんだなんだ、面白ぇことになりそうだなぁ?』

(う、うるさい……ああもう、行くぞ。案内しろよ)

『へいへい。ケケケ』


 ダンテの笑いが鬱陶しかったので、ラクレスは少し早足で歩くのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 まるで壁。

 砂嵐の勢いが強すぎ、砂の密度が上がり壁のようになっていた。

 触れると、ギャリギャリと鎧が削られるような感覚。このまま突っ込めば、ラクレスは無事で済むが、生身の二人は傷だらけになるだろう。

 ラクレスは、暗黒物質でコーティングした剣を抜く。


「砂嵐を斬る。一時的に隙間ができるはずだから、一気に突っ込むぞ」

「了解した」

「ええ、チャチャっとお願いね」


 ラクレスは、砂の壁に向かって一閃。

 一瞬だけ、砂嵐が途切れ隙間ができた。その間を三人が通ると……目の前に、大きな岩石がいくつも転がっていた。

 

「あれ、砂嵐が消えてる。ラッキーじゃん」

「確かに……ここだけ別世界のようだ」


 アクア、レイアースがマスク、ゴーグルを外す。

 周りは大きな岩石がいくつも転がり、砂地も硬くなっていた。砂が硬い理由は、岩石地帯の中心にあるオアシスだろう。

 そして、オアシスの周りには木々が生え、ひときわ大きな岩石柱が立っていた。


「見ろ、あそこ!!」


 レイアースが指差したのは、岩石柱。

 柱のてっぺんに、巨大な砂色の獅子がいた。


『ウォォォ──……ン!!』


 獅子が吠える。

 獅子の右前足に、砂色の鉤爪が装備してあった。


『あれが呪装備。ああ、そういうことか』

(なに納得してるんだ。何かわかったなら言えよ!!)

『ああ、あれは……』


 レイアースが剣を、アクアが双剣を抜く。

 すると、砂色の獅子こと『デザートレオン』が、岩石柱から飛び降りラクレスたちの前へ。


『グォルルルルル……!!』

「やる気満々ってところね」

「ああ。だが……あの遺跡で戦ったヤツよりは弱い!!」


 レイアースの身体が光に包まれると、身体能力が爆発的に向上する。

 『瞬着』を得たことにより、神器の力の一部が解放され、レイアースの流す魔力がより洗練された状態で『光』となり還元される。


『ゴアァァァァァァ!!』

「参る!!」

「あ、ずるい!!」


 レイアースが飛び出すと、獅子も飛び出した。

 真正面から対峙。

 デザートレオンの鉤爪、そしてレイアースの『光神器ルーチェ・デルソーレ』の刃がぶつかり合い、激しい火花が散った。

 力では圧倒的に降り。なのでレイアースは爪を受け、そのまま力の流れを脇に逸らした。

 パリィ。繊細な技術での返しに、アクアは舌打ちする。


「あいつ、また強くなってる……ムカつく」

「む、ムカつくって……」

「ふんだ。まあいいわ」


 アクアはそっぽ向いた。

 そして、レイアースは返しの一撃を放つ。


「『光閃覇刃シャイニング・カリバー』!!」


 光を纏った剣による斬撃が、デザートレオンの右前足を切断、呪装備に包まれた前足が吹き飛び、ラクレスたちの前に転がってくる。

 そして、レイアースは静かに言う。


「眠れ、砂漠の獅子……さらばだ!!」


 ドン!! と、レイアースの一撃で首が両断。デザートレオンは崩れ落ちた。

 同時に、砂嵐が止む……照りつける太陽が一気にラクレスたちを焼いたが、オアシス、木々のおかげでそれほど暑くはない。

 レイアースは剣を鞘に戻す。


「……大した事がなかったな」

「確かに、弱っちいわね」

「……まあ、うん」


 その通りだった。

 あまりにも、圧倒的。レイアースが強いというだけではない。

 すると、ダンテが言う。


『こいつ、獣だな。半魔神だが、人間みたいな意思じゃない、動物の意思だ。だから策とか講じる脳みそはないし、単純に襲って来るくらいしかできなかったんだろ』

「動物の、半魔神か……」

『ああ。まあ、楽でよかったぜ──……ラクレス!!』

「え?」


 気付かなかった。

 上空から、巨大な『鎌』が高速回転して落ち、鉤爪に突き刺さった。

 鉤爪が砕けると、解放された半魔神の『魂』が浮かび上がり、その魂がいきなり現れた青年の手に収まる。


「クケケ、ごくろーさん」

「お前、ヴァルケン……!!」

「いやぁ、楽できたぜ。なあ、カトレア」

「そうね。横取りしちゃってごめんなさいね」


 そして、オアシスの影からカトレアが現れた。

 ラクレスは言う。


「お前ら、最初から……!!」

「ああ。横からかっさらってやろうと思ってた。クケケ、わりーな」


 すると、半魔神の魂が、ヴァルケンの『鎌』に吸い込まれた。

 ヴァルケンは鎌を手にし、ラクレスへ向ける。


「さぁて。鎧野郎、遊ぼうぜぇ?」

「……くっ」


 やるしかない。

 ラクレスは剣を抜き、構えを取った。

 そして、カトレア。


「お嬢さんたちは私ね。ふふ、少しは楽しめるといいけど」

「二対一で、随分と楽しそうだな」

「ちょっと、アタシにやらせなさいよ。アンタ、獅子やったじゃん」

「大馬鹿。相手は魔人だぞ」


 カトレアに向かって、レイアースとアクアは剣を向けた。

 こうして、魔人との戦いが幕を開けた。

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月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~
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