魔人たち
「「魔人が来た!?」」
ラクレスは、レイアース、クリスに、先ほど来た二人の魔人……ヴァルケン、カトレアのことを説明した。当然だが、二人は驚く。
特にレイアース。
「……お前を疑うわけではないが、本当なのか? 私やお前、他の七曜騎士に気取られることなく、お前の私室に二人の魔人がいきなり現れるなど……」
「恐らく、呪装備の能力を使って来たんだ」
ラクレスは、先ほどの情報をレイアース、そしてクリスへ報告する。
クリスは騎士でなく、王族のクリスとして話を聞いていた。
「『冥府六将』……それが、魔人たちのトップの名かしら」
「間違いなく。その配下であるヴァルケン、カトレアと名乗る二人の魔人が、此度現れた呪装備の回収に魔界から来たらしい。だが、俺たちの手によって呪装備が破壊され、代わりに俺の呪装備を探知してここまで来た……ということらしい」
「なるほどね。信じるわ」
もう、歓迎会云々ではない。
クリスは考え込み、レイアースに言う。
「この話、お父様……いえ、七曜騎士全員に共有した方がいいわね。『上』が動く。つまり……人間界に魔人が現れるということね」
「「…………」」
ラクレス、レイアースは頷いた。
すると、ダンテが言う。
『現時点で、今のお前じゃあのヴァルケンとかいう野郎を倒すのは厳しいな。相打ちに持ち込めればいいか……死ぬのは嫌だろ?』
(当たり前だろ……)
『だったら、呪装備を探して喰らいな。一番いいのは、他の七曜騎士にあのヴァルケン、カトレアとかいうガキどもを始末してもらって、その呪装備を喰らうことか』
(でも……あの二人は絶対、俺を狙って来るぞ)
『かもな。だったら、餌を撒け』
ラクレスは、ダンテから聞いた話をクリスに言う。
「俺は狙われる可能性がある。それに、俺だけじゃない……この国に、容易く入り込める呪装備の持ち主がいるってことだ。俺は、早々に倒した方がいいと思う」
「……どうやって?」
「奴らは、俺の元に現れた。俺をエサにして、おびき寄せる」
「なっ……ダンテ、それは危険だぞ!! 相手は二人、力量もわからんのだろう!?」
レイアースは怒鳴るが、ラクレスは頷く。
「だが、お前がいる」
「え……」
「一緒に戦えば、きっと倒せる」
「……っ、ええい、お前というやつは」
なぜか、レイアースはそっぽ向いた。
クリスは考え込み……頷く。
「そうね。ソラシル王国に簡単に入れる呪装備の持ち主……魔人、呪装者だったかしら。その呪装者を早めに倒した方がいい……ちょっとお父様の元へ行ってくる。二人は謁見の用意をしておいて」
「え、こ、これからか?」
「ええ。早いに越したことはないわ」
すっかり王族の顔となったクリスは立ち上がり、部屋を出て行った。
残されたレイアースはラクレスを見て微笑む。ラクレスは聞いた。
「真実を話したつもりだけど、二人とも信じてくれるんだな」
「当たり前だ。お前を疑う理由はない……それに、お前は信用できる」
「レイアース……ありがとう」
「あ、ああ……うん、気にするな」
『ほっほー、こいつオマエに惚れてんじゃね? なあなあ、ヤルならちゃんと黙っててやるよ、ケケケ』
(お前、叩き潰すぞ……)
それから一時間としないうちに、ダンテとレイアースは呼び出されるのだった。
◇◇◇◇◇◇
謁見の間に行くと、レイアースだけじゃない、もう一人いた。
(あれ……彼女は確か、七曜騎士『水』のアクア・シュプリーム……?)
レイアースと並び、アクアの隣で跪く。
国王の隣にはドレス姿のクリスがいる。今は王族の顔をしていた。
国王ハイゼンベルクが言う。
「面を上げよ」
三人は顔を上げる。
ハイゼンベルクは、先ほどとは違う顔で言う。
「魔人が侵入したと報告を受けた。ダンテ……狙いは、お前の呪装備だと」
「……はっ」
「お前が手引きをした、そう解釈していいのか?」
「父上!!」
すると……謁見の間にいた兵士たちが武器を持ち構え、アクアも立ち上がった。
(アクア・シュプリーム……彼女は謁見じゃなくて、いざという時に俺を抑える役割か。レイアースだけじゃ足りないか、役不足と思われているのか……)
レイアースを見ると、ぶるぶる震え、立ち上がった。
「陛下!! ダンテは敵ではありません!! この七曜騎士『光』のレイアースが保証します!!」
「……ふむ」
「レイアース。アンタ、その黒騎士野郎の肩を持つなんてね……獣王国ヴィストで何かあった?」
「信頼できる。そう判断できるだけの戦いがあった!! 騎士ならそれで十分だ」
「ふぅん……」
レイアース、アクアが険悪な雰囲気になる。
ラクレスは内心、冷や汗が止まらなかった。だが、ここで暴れては……そのつもりは欠片もないが……すべてが無に帰す。
ラクレスは言う。
「陛下。俺はこの国の騎士として忠誠を誓いました。騎士の誇りに賭け、俺は魔人の手引きをしていません!!」
「お父様。私も、ダンテを信じます。彼は私を守り、獣王国ヴィストに眠っていた呪装備をその手で破壊しました……信頼できる騎士です!!」
「…………」
ハイゼンベルクが手を振ると、兵士たちが一斉に引いた。
アクアも剣を納め、フンと鼻を鳴らして再び跪ずく。
「ではダンテよ。これからどうする?」
「……え」
「敵の魔人は呪装備を狙い、呪装備の能力を使ってお前の部屋に侵入した……つまり敵は、お前を狙っている。そして、気配を知らせることなく、好きな場所に出入りできる能力を持つ、ということか」
「……その通りだと思われます」
「なら、どうする?」
試されている……ラクレスは一瞬で理解した。
だからこそ、用意していた答えを言う。
「俺が、その魔人を討伐します。俺をエサに……魔人二人を引きずり出し、この手で討伐します」
「……ほう」
「陛下。呪装備の情報はありませんか。今のままでは二人を相手にするのは厳しい……呪装備を破壊し、その力を取り込み強化をします」
「ふむ……いいだろう。では七曜騎士ダンテ。そなたには『魔人討伐』任務を命ずる」
「はっ!!」
「そして、レイアース、アクアよ。ダンテに同行し、魔人討伐の力となるがいい」
「はっ!!」
「え、あ……はい!!」
アクアだけは、驚いていた。
どうやら、そこまでは想定していないのか、いきなり言われて驚いているようだ。
アクアはジロっとラクレスを見るが、ラクレスは気付かないフリをするのだった。
◇◇◇◇◇◇
謁見の間を出てすぐ、アクアはラクレスに詰め寄った。
「ちょっと!! 魔人討伐ですって? アンタが手引きしてるんじゃないの!?」
「違う。俺はそんなことしてない」
「そうだ。アクア、少しは考えてモノを言え」
するとアクア、レイアースをジロッと睨んだ。
「ふん、アンタ、コイツのこと毛嫌いしてたんじゃないの? 獣王国ヴィストでなんかあったみたいだけど……なに、抱かれた?」
「……下品な女だ。お前と同じ七曜騎士というのが恥ずかしくなる」
「あぁ? ふん、『神化』すらまともにできなかった、知らなかったくせにイキってんじゃないわよ」
「フン。悪いがもう女神の神器の秘密を知った。あとは、成長するだけだ。お前などすぐに追い越してやる」
睨み合う二人……ラクレスは間に入れないでいた。
(こ、怖いな……二人が険悪って噂あったけど、本当みたいだ)
『ケケケ。おい見ろラクレス、こっちの水色お嬢ちゃん、鎧で上手く隠してるけど、胸小さいぜ』
(だから何だよ。とにかく、今は話をしないと)
ラクレスは咳払いすると、二人が同時にラクレスを見た。
やや怯みつつも、ラクレスは言う。
「お、俺たちの任務は『魔人討伐』だ。相手は呪装備の探索のため、そして俺の呪装備を狙っている可能性がある……この辺りで、呪装備が発見されたという話を聞いたことはないか?」
「あるよ~」
と、いきなりラクレスと肩を組んだのは、七曜騎士『風』のエリオ・ウィンターズだった。
ラクレスは心臓が飛び出るかと思った。
エリオが背後にいたことも、接近していたことも気付かなかった。
「あはは。そう心配しなくても、心臓に剣を刺すような真似しないって」
「…………」
見透かしたような言葉に、ラクレスは警戒する。
エリオはラクレスから離れた。そして、アクアが胡散臭そうに言う。
「エリオ、アンタまた仕事サボってウロウロしてんの?」
「優秀な騎士がいるから、オレの仕事が少ないだけさ。さて、呪装備の情報なら、ついさっき入ってきた新鮮なのがあるよ」
「本当か!!」
レイアースが反応すると、エリオがにっこり笑う。
「ああ。ここから南にある『クシャナ砂漠』に、呪装備が見つかったそうだ。等級は不明。まだ見つかったばかりだから、急げば破壊できるんじゃないか?」
「…………」
「おやダンテくん、信用できない?」
「……いや」
「同じ七曜騎士じゃないか。七曜騎士の情報は確実だよ~?」
不思議だった。
エリオ・ウィンターズの言葉を、どうも素直に受け取ってはいけない気がした。
だが、レイアースが言う。
「ダンテ。ゼロから情報を集めるより、今ある情報を頼りに進むべきだ。それが間違った情報でも、進んだ分は無駄じゃない」
「クッサいセリフ。ダサいし」
「黙れ。それとアクア、忘れているようだから教えてやる。この任務は王命、しかも陛下は『ダンテに同行し力となれ』と言った。決定権を持つのはダンテ。従わない場合、お前は王命に背いたことで罰の対象となるぞ」
「はぁぁ? 何それ、屁理屈じゃん!!」
「フン、真実を言ったまでだ」
再び険悪な雰囲気になる二人。ラクレスは頭を抱え言う。
「とにかく!! レイアースの言う通り、今ある情報はこれだけだ。呪装備の破壊はどのみち七曜騎士の仕事……一緒に、魔人も討伐する。エリオ、情報感謝……あれ」
エリオ・ウィンターズは、すでにいなかった。
こうして、ラクレスの魔人、そして呪装備破壊の新しい任務が始まった。




