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呪われ黒騎士の英雄譚 ~脱げない鎧で救国の英雄になります~  作者: さとう
第二章

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呪いの力

 鉱山に踏み込んで早々、血生臭いニオイがした。

 ウルフギャング、レオルドが鼻を押さえ、顔を歪める。


「なんだこの死臭は……おいレオルド。鉱山は封鎖し、多くの魔獣がいるはずではないのか?」

「魔獣のニオイ……だがおかしい。あれほど夥しい数の魔獣が、全く感じられん。間違いなく鉱山は封鎖したが……どういうことだ?」


 魔獣が全くいない。そして、死臭しかしない。

 理由が不明。だが、ダンテには理解できた。


『チッ……やべぇぞラクレス。どーやら呪装備は完全に覚醒してやがる』

(ど、どういうことだ?)

『前に説明したよな? 呪装備に魔獣が惹き付けられんのは、呪装備が足りないモンを魔獣の血肉で補うために、魔獣を自ら引き寄せてるからだって』

(ああ。あの魚たちや巨牛もだろ?)

『そうだ。だが、ここに魔獣がいないってことは、もうおびき寄せる必要がねえ。つまり……『凶悪級』の呪装備は、完全に半魔神の意思が覚醒してやがる。あとはもう、やることは一つ』

(な、なんだよそれは……)

『決まってる。呪装備は武具……装備者だ。装備を纏わせれば、あとは自分の意のままに操れる』

(待てよ。半魔神の意思って、装備者は半魔神の力を使えるんだろ? ここにいる人が装備しても意味がないんじゃ)

『アホ。上級魔族なら半魔神の力を押さえつけて力だけを引き出したり、意思と共存して力を使いこなすこともできる……だがな、人間や獣人じゃ呪装備、半魔神の力に適応できねぇ。半魔神からすれば、身体を得たら魔界に行って、適切な器に乗り換えることが優先される。まあ、自分を封印した女神の神器の持ち主や、女神の眷属である人間、獣人を恨んでいたら話は別だがな』

(つ、つまり……)

『クリスのお嬢ちゃん、デカい猫ちゃん、この二人はあぶねぇぞ。帰らせた方がいい』


 ダンテがそう言うなり、ラクレスは案内のレオルドより前に出て立ち止まった。


「待て。魔獣が全て消えたということは、呪装備が完全に力を取り戻したに違いない!! ここから先にレオルド殿、クリス殿が行くのは危険だ」

「何ぃ? フン、魔人の言うことなど信用できるか!! どけ!!」


 レオルドは、ラクレスを突き飛ばし前に進む。

 クリスは迷っているようで、レイアースを見ていた。

 レイアースは頷き、ラクレスに聞く。


「ダンテ、レオルド殿、クリスが危険と言うのは?」

「呪装備の器にされる可能性がある。俺、ウルフ殿、レイアースは問題ないが、生身の二人は危険だ」

「わ、私……どうすれば」

「……チッ。おいレオルド!! 待て、ここから先はオレたちだけでいい!!」


 ウルフギャングがそう言うと、レオルドは立ち止まり、顔を歪めて振り返った。


「ウルフギャング……貴様まで、その魔人の言うことを聞くつもりか?」

「そうだ。確かに、こいつは魔人だ。だからこそ魔人の意見は聞くべきだ」

「黙れ!! ここは獣人の国、獣王国ヴィストだ!! 魔人など本来は滅すべき存在!! 人間だってそうだ……陛下はなぜ人間という弱者の下に……!!」

「レオルド。貴様……それが本音か」


 ウルフギャングがレオルドの前に立つ。レオルドも引かず、互いに睨み合った。

 すると、レイアースが抜剣し、剣を輝かせた。


「いい加減にしろ!! ここはもう敵地、敵味方を間違えるな!!」

「「…………」」

「確かに、ここは獣人の国。だが我ら人間は、獣人のために戦い、守ろうとする気持ちがある!! それはここにいる魔人、ダンテも同じだ!! 国を守ろうとする思いに、種族は関係ない!!」

「…………ガキが、生意気な」

「レオルド、貴様……!!」

「黙れ!! 我は引くつもりはない!! そもそも、人間の力を借りることが間違っていた……この国は獣人が守る!!」


 そう言い、レオルドは鉱山の奥へ。

 後を追うと、鉱山の最奥にある新規ルートへ到着。その先にあったのは遺跡だった。

 岩に埋もれた遺跡。先に踏み込むと、横幅の広い一本道になっており、壁には複雑な装飾が施され、誰が灯したのかわからない松明が燃えていた。

 

「ここが、ダンジョンか……チッ、感じる」

「あ、ああ……なんだ、この寒気は」

「う……だ、ダンテ様、ここで間違いないんですか?」

「……ああ。間違いない。呪装備はこの先にある」


 ウルフギャングの毛が逆立ち、レイアースが身体を震わせ、クリスが青ざめ、ラクレスにも理解できた。

 この先に、何かがある。


『……ケケケ。面白くなってきたぜ』

(どこがだよ。お前、気付ているのか? この力……お前よりも)

『とにかく行け。さあ、戦いが迫ってるぜ』


 ラクレスは言う。


「行こう。どうやら一本道……この先に、呪装備がある」

「ああ」


 レイアースが剣を抜き、ウルフギャングの両手には爪が装備され、クリスも剣を抜いた。

 ラクレスも、漆黒の剣を抜き、四人は駆けだした。


 ◇◇◇◇◇◇


 通路を進むにつれ、寒気が強くなってきた。

 ウルフギャングが言う。


「呪装備。何度か破壊したことはあるが……ここまで禍々しい感じは初めてだ」

「私もだ。初めて破壊した時、この程度かと思ったが……これは、次元が違う」

「……うっ」


 クリスが口を押える……あまりの邪気に、気分が悪くなっているようだった。

 ラクレスは言う。


「クリス、無茶をするな」

「だ、大丈夫です……騎士として、役目を果たします」


 四人は遺跡の最奥へ。

 そこは、広い半円形の空間で、中央に祭壇が設置されていた。

 そして……祭壇にあったのは、黄土色に輝く『籠手(ガントレット)』。

 その籠手の前に、レオルドが跪いていた。


「レオルド!!」

「……ウルフギャング」


 レオルドの目が、どこかトロンとしていた。


『まずい。魅入られたぞ!! いや……つけ込まれた!!』


 ダンテが叫ぶ、だがその声はラクレスにしか聞こえない。

 レオルドは、ゆっくりと籠手に手を伸ばし、まるで壊れ物を掴むように、優しい手つきで籠手を手に取った。


「ああ、そうだ……オレは、ずっと嫌だった」

『ああ、ソウだ』

「なぜ、獣人が人間と共に歩む? 我ら獣人は誇り高き種族……共存するのではない、跪くべきは人間なのだ!! そうだ、陛下は間違っている!!」

『ソノ通りだ……レオルド』


 何かが聞こえてきた。

 ラクレスは頭を押さえる。聞こえているのは自分だけ。


『あの呪装備に封印されている半魔神だ。意識が完全に覚醒して、あのデカ猫ちゃんに囁いて乗っ取ろうとしてやがる』

「ど、どうすれば」

『手遅れだ』


 ダンテは迷わず言った。ラクレスはただ見ていることしかできない。

 レオルドは、呪装備の籠手を掲げた。


「オレが!! このレオルドが導こう!! 真なる獣人の国を、オレが作る!! ははは、ハハハハハハハハ!!」

「レオルド!! 貴様、何を言っているんだ!! 戻って来い!!」

「黙れウルフギャング!! 人間に尻尾を振る犬畜生めが!! ハハハハハハハハ!! オレは、オレは……獣王国ヴィストの、真なる王となる!!」


 レオルドは、籠手を自分の右手に嵌めた。

 サイズが違うはずなのに、レオルドが右手に触れさせると泥のようになり、一体化する。


『ラクレス、こいつらに言え』


 ダンテが言うと、ラクレスは迷わず叫んだ。


「手遅れだ!! 奴は完全に呪装備に魅入られた……敵だ!!」


 レオルドは笑い、右手を掲げた。


「『呪装瞬着(アドベント)』!!」


 右手から、黄土色の泥が噴き出し、レオルドの身体を包み込む。

 それは鎧となり、レオルドの全身を包み込んだ。

 獅子のタテガミ、歪な巨大両腕、そして八本の足。

 まるで、カニのバケモノ。


「……な、なんだ、これは」

「あれが『凶悪級』以上の呪装備だ。全身を覆う鎧……!!」


 ラクレスは剣を構え、全員に言う。


「もう倒すしかない!! ウルフ殿、レイアース!! やるぞ!!」


 戦いが始まった。

 敵は、凶悪級呪装備。

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月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~
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