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呪われ黒騎士の英雄譚 ~脱げない鎧で救国の英雄になります~  作者: さとう
第二章

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怪魚の群れ

 ラクレスは、川から飛び出し飛んで来る怪魚を、ひたすら斬った。

 飛び掛かり、大口を開け、ギザギザの歯と牙で食らいつき喰い千切る……元が魚なのでそれくらいしかできないおかげか、対処は楽だった。

 だが、あり得ないその数に、さすがのラクレスも舌打ちする。


「数が多い……!! くそ、町の被害が!!」


 逃げ惑う住人たち。

 橋の上には多くの獣人たちがいたが、すでに何人か怪魚に食われていた。

 すぐ近くに宿がある。レイアースをそこまで送れば、剣を持って参戦できる。

 そう思い、背後にいるレイアースに言う。


「レイアース!! お前を宿まで護衛する。剣を取って来てくれ!!」

「ああ、わかった。すまない……!!」


 ラクレスは、レイアースを守るように飛んで来るブラックファンギッシュを斬る。

 

『なんつー数だ。こりゃ、数千どころじゃねぇぞ……お、来たぜ』


 ダンテが言う。

 すると、ラクレスの前に『獣』が現れ、飛んできたブラックファンギッシュの群れが一気に薙ぎ払われた。


「う、ウルフギャング殿!!」

「遅れた。クソ、なんだこの状況は……!! まあいい、各部隊!! 住人の救助とブラックファンギッシュの迎撃に当たれ!! これ以上の被害を出すなよ!!」


 ウルフギャングの命令で、獣人の兵士たちが一斉に動き出した。

 

 ◇◇◇◇◇◇


 獣人の兵士たち。そしてウルフギャング。

 ラクレスは、驚いた。


「すごい……これが、獣人の兵士」


 獣であるが故の身体能力、そして圧倒的腕力から繰り出される攻撃。

 ただ飛んで来るだけの魚など意に介していない。剣で斬り、槍で突き、素手で叩き落とす獣人の兵士もいた。

 だが、圧倒的なのはウルフギャング。

 レイアースが、どこか安心したように言う。


「見ろ。ウルフ殿の手にある武器を」

「あれは……『爪』?」


 ウルフギャングの両手には、金色に輝く巨大な『爪』があった。

 爪の一本で三十センチ以上はあり、夕日で淡く、鈍く輝いている。


「あれがウルフ殿の『地』を司る女神の神器、『アシュトレト』だ。橋の上では使えんが……地上戦では恐るべき威力を発揮する」

「女神の、神器……」

『…………チッ』


 ダンテが舌打ちしたのをラクレスは聞いた。

 そんな時だった。


「レイアース様!!」

「ッ!!」


 何かが飛んできた。

 レイアースはそれを掴み、飛んできた方を見た。

 投げたのは剣……そして、なぜかバスタオル姿のクリスがいた。

 ラクレスはギョッとしつつも言う。


「クリス!!」

「遅れて申し訳ありません!!」

「───後ろだ!!」


 クリスの後ろには、ブラックファンギッシュが数匹。

 間に合うか……と、ラクレスは右手を向けた、が。


「問題ありません」


 クリスは一瞬で剣を抜き、振り返ることなくブラックファンギッシュを三枚おろしにした。

 恐るべき剣の『キレ』に、ラクレスもレイアースも驚く。

 クリス・テア・ソラシル。

 ソラシル王国王女。光の魔法適正があるが魔力が少なく、騎士にはなれない……だが、魔法ではなく剣技を磨き、騎士を超える剣技を身に付けた天才。剣の才能だけなら歴代王族の中で最も優れている。


(初めて見たが、なんてキレだ……すごい。というか)

「お、おいクリス、その恰好は」


 レイアースが指摘すると、クリスは顔を真っ赤に染める。


「す、すみません。シャワーを浴びてまして……き、着替えている時間もなくて」

「そ、そうか。とにかく……感謝する」


 レイアースは剣を抜いて掲げた。


「光よ!!」


 剣に光が集まり、刀身が純白に輝く。

 レイアース自体も白く輝いた。そして剣を薙ぐと、真っ白な魔力が飛び、ブラックファンギッシュたちが一気に薙ぎ払われた。


(す、すごい……これがレイアースの魔力!!)

『胸糞悪ぃ魔力だぜ。オレ様たちと正反対だぜ? 触れるとオマエもダメージ受けるぞ』

(触れなきゃいいだけだ。頼りになる!!)


 ラクレスはレイアースと背中を合わせ、クリスもラクレスの隣に立った。


「ダンテ、やれるな?」

「ああ、一掃する」

「ダンテ様、レイアース様、サポートはお任せを!!」


 ラクレスは剣を構え、呟いた。


「さあ……償え!!」


 ◇◇◇◇◇◇


 七分後。

 全てのブラックファンギッシュは討伐。川の流れも落ち着いた。

 ラクレス、レイアース、クリスは集まり話をする。


「なんだったんだ、こいつは……」


 レイアースは、三枚おろしになったブラックファンギッシュを見る。

 ラクレスは、城下町の遥か先にある鉱山を見て言った。


「この川の上流、鉱山に続いてるんだよな」

「はい、そう聞いてます」


 クリスはバスタオルを巻いただけの姿。ずっとこの状態で戦っていたので、羞恥心を忘れているのか、特に気にせず言う。


「ラクレス様。何か気になることが?」

「……川を遡っていたところを見ると、やはり呪装備に惹き付けられているんだろう。早くなんとかしないと」

「はい。とりあえず、ウルフギャング様の元へ」


 と、振り返った瞬間、クリスのタオルがはらりと落ちた。


「ッ!!」

「えっ……あ、っきゃあ!?」


 ラクレスは、至近距離で異性の肌を見てしまった。

 真っ白な肌、ほどよい大きさの胸、しなやかな手足……顔を全力で背けると、レイアースがバスタオルを取りしゃがみ込んだクリスに掛ける。


「お前はまず着替えをしてこい。全く……おいダンテ、見たか?」

「…………申し訳ない」

「ううう……わ、忘れてました……し、失礼します!!」


 クリスは慌てて宿へ。

 すると、ウルフギャングが大柄な獣人を連れてきた。


「レイアース、話がある……お前もだ」

「わかった」

「ああ、わかった。ん……そちらは?」


 ラクレスが聞くと、大柄な獅子の獣人は言う。


「初めまして。獣王国ヴィスト、獅子闘士団の団長、レオルドと申す……噂に聞く七曜騎士を見ることができて光栄だ」

「初めまして。七曜騎士『光』のレイアースだ」

「同じく、七曜騎士『闇』のダンテ。よろしく頼む」


 すると、レオルドはラクレスを見て舌打ちし、レイアースとだけ握手した。


「魔人を騎士としたと聞いたが、本当のようだな……ウルフギャング、お前が人間の国にいながら、このようなヤツを野放しにするとは、何をしているんだ」

「黙れ。陛下の意向だから仕方ない。それに……少しは使える」

「フン、何が使えるだ。いつ裏切るかわからない、魔神の下僕なぞ信用できるか!! ウルフギャング……貴様、この国の英雄でありながら、人間の犬になったのか?」

「……なんだと?」


 一気に険悪な雰囲気になった。

 

(お、俺のせい……なのか?)

『んなわけあるか。ったく、めんどくせえケモノだな』

 

 すると、レイアースが咳払い。


「こほん!! 今、重要なのはお前たちの喧嘩を見ることか? そうだとしたら、私たちはここで失礼することになるが」

「……チッ」

「フン……レイアース、お前、これから王に謁見してもらうぞ。一緒に来てくれ」


 こうして、ラクレスたちは獣王国の王に謁見することになるのだった。

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月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~
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