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呪われ黒騎士の英雄譚 ~脱げない鎧で救国の英雄になります~  作者: さとう
第二章

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巨牛の群れ

「なっ」

「え?」

「……何ぃ!?」


 レイアース、クリス、ウルフギャングに追いついた……が、ラクレスの背後には巨牛の群れが迫っていた。その群れを見て驚く三人に対し、ラクレスは叫ぶ。


「速度を落とすな!! 潰されるぞ!!」

「ええい貴様何を引き連れ……まさか、貴様が!!」

「俺じゃない!! 呪装備に引き寄せられているんだ!!」

「くっ……ダンテ、ウルフ殿、クリス!! 走れ!!」

「あわわわっ!!」


 四頭の馬が横一列に並び、迫る巨牛の群れから逃げる。

 ラクレスは巨牛を見て叫んだ。


「ラッシュドーン、群れで狩りをする巨牛の魔獣だ!!」

「ラクレス様!! ど、どうします!? 横に逃げて……」

「ダメだ。この距離じゃ方向転換は間に合わない!!」

「ウルフ殿、神器は!!」

「……ダメだ!! こう移動したままでは、馬から降りて……くっ、それでも間に合わん!!」

「あわわわっ!! こ、このままじゃヴィスト王国に突っ込んじゃうかも!!」


 クリスの言う通りだった。

 このまま直進すれば、ヴィスト王国の正門に激突するかもしれない。

 ラクレスは考えた。すると、声がした。


『ケケケ、ラクレス……この状況、打開して見ろ』

(え……?)

『オレ様の能力、お前の魔力、そして想像力……それらを組み合わせれば、打開できる。いいか、これからお前はオレ様の力を使って戦う運命にある。さあ、共に遊ぼうぜ!!』

(ダンテ……よし)


 ラクレスは目を閉じ、静かに息を吐く。

 自分にできること。闇の力。暗黒鎧ダンテの『形状変化』でできること。

 今、ラクレスは七曜騎士『闇』のダンテとして、その力を解放する。


「レイアース!!」

「えっ……な、なんだ」

「ウルフギャング殿!!」

「チッ、なんだ!!」

「クリス!!」

「は、はいっ!!」


 ラクレスは手綱を強く握り、叫んだ。


「今だけでいい。オレを信じて、まっすぐ走ってくれ!!」

「「「……!!」」」


 魔人として疑われているのも、裏切るのではないかともわかっている。

 それでも今は、信じて欲しいと……ラクレスは心の底から叫んだ。

 同時に、レイアースは思った。


(──……ラクレス)


 なぜ、顔の見えない黒騎士が、ラクレスに見えてしまったのか。

 レイアースは目尻に涙が浮かんだが、首をブンブン振る。

 そして、頷いた。


「信じる!! やれ!!」

「チッ……好きにしろ!!」

「お願いします!!」

「ありがとう!!」


 ラクレスは、闇の魔力を解放した。


「『暗黒魔装(ブラックバンク)』!!」


 ラクレスの握る手綱から、鎧の一部である『暗黒物質』が分泌される。

 失った鎧部を、ラクレスの魔力で補填することにより、肌が剥き出しになることはない。

 そして、暗黒物質が手綱を、そしてラクレスの馬を包み込む。


「なっ……」

「……!!」

「ええ!?」


 現れたのは、全身を漆黒の鎧で包まれた、まさに『鎧の馬』だった。

 

『ハッハッハーッ!! なぁぁるほどなぁ!! 剣と同じ、暗黒物質で馬を覆っちまった!! 馬を強化することで──!!』

「駆け抜けろ、『暗黒馬ホープヴァルプニル』!!」


 馬の背に噴射口が形成され、一気に加速した。

 漆黒の鎧馬ホーヴヴァルプニルは、跳躍して魔力を噴射。ほぼ水平に飛んだ。

 そして、一気に正門付近まで飛び、ラクレスは方向転換。

 ラッシュドーンの群れに向かって突っ込んでいく。


『おいおいどうすんだ!?』

「足を止める!!」


 足を馬の鎧で固定し、ラクレスは手綱を離す。

 そして、向かって来るレイアースたちとすれ違い、両手をラッシュドーンの群れに向けた。

 数は三十。ラクレスは迷うことなく暗黒物質を放つ。


「『黒き糸(ブラックスレッド)』!!」


 バシュバシュ!! と、粘着性のある暗黒物質が発射され、ラッシュドーンの顔にベチャっと付着。まるで蜘蛛の巣のように広がり、視界を封じた。


『グモォォォォォ!!』


 先行していた数体のブラッシュドーンが視界を封じられた驚きで転倒、後続のラッシュドーンたちも巻き込まれ、群れが一斉に衝突、転倒を繰り返した。


『ほっほー、なぁるほど、転ばせたのか』

「ああ、見ての通り……視界を封じれば、驚いて態勢を崩すと思ったんだ」

『やるな。暗黒物質を粘着剤みたいにして放つとは。蜘蛛の糸みてーだな……おい、向かってくるぞ』


 すると、一体だけ転倒を逃れたラッシュドーンが、ラクレスに向かって突っ込んできた。

 ラクレスは右手から伸縮する『黒の糸』を伸ばし、近くの木の枝に接着。そのまま枝をへし折って手元に引き寄せ、暗黒物質を纏わせて『槍』にした。


「さあ、償え!! 『黒の槍(ブラックスピア)』!!」


 そのまま糸を付けたまま、槍状にした枝を投擲、ラッシュドーンの額に突き刺さると、そのまま絶命し倒れる。

 周囲を確認……転倒したラッシュドーンはもがくように暴れ、転んだ衝撃で足が折れたのか大多数が動けない。

 そうしている間に、ウルフギャングが兵士を連れて戻って来た。


「……止めたのか」

「ああ、間に合ってよかった」


 暗黒物質を解除し、ラクレスは馬を撫でる。

 するとウルフギャングが舌打ち……兵士に命じた。


「ラッシュドーンを全て始末しろ。素材は全て任せる!!」

「「はっ!!」」


 兵士たちがラッシュドーンに止めを刺すのを見ていると、ウルフギャングが言った。


「ここは任せていい。行くぞ」

「ああ、わかった」

「…………チッ、感謝する」

「え?」

「うるさい!! ついてこい!!」


 ウルフギャングが何故か怒り、ラクレスは首を傾げつつ後を追うのだった。

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お読みいただき有難うございます!
月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~
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― 新着の感想 ―
「ラクレス様!! ど、どうします!? 横に逃げて……」って誰か既に主人公「黒騎士」の正体わかってる奴がいる??
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