再会
ラクレスが遺跡の外に出ると、死体を食べているドラゴンオーク二体と目が合った。
「……ぁ」
そして、見た。
その死体は……やる気がないが、頼りになり、ラクレスにいろいろ教えてくれた先輩。
ウーノ、レノ。二人はすでに死亡し、ドラゴンオークに半身を食われ、上半身だけの状態で弄ばれていた。それを見てラクレスの中に冷たい怒りが灯る。
『ほほっ、オマエ……ブチ切れると逆に冷静になるタイプか。ってかおいおいおいおい、魔力、魔力やべえって!!』
ラクレスの背中に『噴射口』が形成され、黒い炎が一気に噴き出す。
不思議なくらい、鎧が全身に馴染んでいた。
『そりゃそうだ。オマエ、闇属性の適正値が異常だし、解放された魔力量もとんでもねえ。しかも鎧の力に耐えられるだけの器だ。よっぽど真面目に訓練してたのかねぇ……いい身体してやがるぜ』
ダンテの声が聞こえるが、反応しなかった。
ラクレスは、落ちていた騎士の剣を拾うと、鎧の一部を纏わせる。
形状変化の応用。暗黒鎧ダンテは鎧というよりスライムのような軟体生物に近いと定義、腕からゲル状にした『暗黒物質』(ラクレス命名)を纏わせ、漆黒のロングソードを作り上げた。
『ハハハッ!! いいねいいね、オレ様を纏って一時間も経過してないのにこの応用力!! やっぱオマエ逸材だぜ!! 名付けて『暗黒剣ダインスレイブ』ってのはどうだ!?』
黙れ。と、ラクレスは思う。
今は、目の前にいるドラゴンオークを殺したい。
頭に血は登っているが、ラクレスは冷静だった。
『ゴァァァァ!!』
ドラゴンオークの一体が、ウーノの死体を投げ捨てる。
それを見てラクレスの額に青筋が浮かぶ。ドラゴンオークの振り下ろし攻撃を避け、木の葉のように舞うウーノの死体を掴み、抱きしめる。
「先輩……!!」
そして、レノの死体を捨てたドラゴンオークが背後に迫った瞬間、両足に噴射口が現れ、魔力を噴き出し跳躍した。
ラクレスの意志ではない動き。
『あっぶねぇな。さっきも言ったろ? オマエが死ぬとオレ様も消滅する。いいアシストだろ?』
「そりゃどうも」
ラクレスはウーノの死体を置き、暗黒剣ダインスレイブを手にドラゴンオークに向かう。
両肩から小さな穴がいくつか空いた『マイクロショット』を形成し、小型の『黒き閃光』を連射。ドラゴンオークの両目を潰すと、飛び上がってドラゴンオークを両断した。
『ほほー!! いいねいいね、やるじゃねぇか!!』
「残り一体」
ドラゴンオークを睨むと、ゆっくり後ずさりする。
ラクレスは逃げられると判断。剣を腰の鞘に納め、両手を向ける。
両腕、両肩、足に砲身が形成され、魔力の砲撃が一斉に放たれた。
『ゴァァァァ!?』
全身に魔力の砲撃を受けたドラゴンオークはボロボロになる。
貫通力ではなく、温度を上げた熱線による攻撃。爆発こそしないが、全身に重度の火傷を負ったドラゴンオークがのたうち回る。
ラクレスは剣を抜き、ドラゴンオークに接近。
「償え……!!」
ドン!! と、ドラゴンオークの頭に剣を突き刺し、戦いを終わらせるのだった。
◇◇◇◇◇◇
戦いが終わり、ラクレスは遺跡前にいた。
兵士たちの大半が食われ、形も残っていない。
遺品である鎧や剣を集めたり、形ある遺体は並べる。目が開いている者は閉じ、腕が残っている者は腕を組ませ、剣を傍に突き立てる。
そして、マリオ、ウーノ、レノの死体……激しく損壊していたので、遺跡で見つけたシートをかぶせ、傍に剣を突きたてる。
「班長、先輩……う、うぅぅ」
『おいおいおい、泣くんじゃねぇよ相棒。それより、これからどうするかだが……』
と、ダンテがこれからの提案をしようとした時。
馬の走る音、無数の足音が聞こえてきた。
『チッ』
ダンテが舌打ち。
そこにやってきたのは、騎士と兵士。
その部隊を引き連れていたのは、レイアースだった。
レイアースは馬から降りると、ラクレスに向けて厳しい顔を向ける。
「貴様……!! 何者だ!! ここで何をしている!!」
レイアース、とラクレスが言おうとした瞬間だった。
『待て。オマエのことをあの女に言うのは許さねえ』
喉がビシっと張り付いたように、声が出ない。
『俺は旅の傭兵。騒ぎを駆け付け助太刀した……だが間に合わなかった』
「なに……!? おい貴様、ここにいた兵士は、騎士は、全滅したのか!?」
『わからない。俺が駆け付けた時、すでに兵士はほぼ全滅していた。俺はドラゴンオークを屠り、遺体を埋葬しようとしただけだ』
違う。そう叫ぼうとしたが、ラクレスの声ではなく、ダンテの声が出た。
レイアースは歯を食いしばり、今にも剣を抜こうとしている。
「貴様、その兜を脱げ!! 素顔を見せろ!!」
『それはできない。この装備は『呪装備』……騎士なら知っているだろう。これは脱げない鎧だ』
「……貴様。怪しいヤツめ……何が目的だ」
すると、ラクレスの内側から声が聞こえて来た。
『いいか。この女……いや、鎧の中身がオマエだってことを知られると、オマエは死ぬ』
(な、なんだって!?)
『詳しい説明は省くが、オレ様と契約した以上、正体を知られたらオレ様とオマエは分離する。今、オマエはオレ様の魂によって生かされている状態だ。オレ様が離れると、オマエの命は終わる……オマエの記憶を見たぜ? この女、お前の大事な女だろ? 死を見せつけるより、生きてること隠しておいた方がいいと思うぜ?』
(お、お前……!!)
ラクレスは歯噛みする……すると、レイアースの背後からルキアが現れた。
「は、班長……せ、先輩っ!!」
ルキアが、マリオたちの死体に縋って大泣きする。
その様子を見たレイアース。マリオたちを見て顔を青ざめ、ラクレスに聞く。
「貴様!! し、死体は……他の死体は!?」
死体を確認し、動揺していた。
ラクレスにはわかった……自分が、ラクレスの死体がないことに絶望している。
『遺跡内に逃げた者がいたが、それ以降はわからない』
「ッ!!」
駆け出そうとするレイアース。だが、専属騎士だろうか、ラクレスも見たことのある少女騎士数名がレイアースを止めた。
「レイアース様。慌てないでください。まずは、周りの者たちに指示を」
「離せ!! ラクレスが、ラクレスが……」
「……では、私が代わりに指示を出します。ヒミカ、ソアレ。レイアース様と一緒に遺跡内の確認を」
「「了解」」
「残りの者は、周囲の確認と遺体の埋葬を行う。班に分かれて行動開始!!」
専属騎士ルーナのテキパキした指示。
ラクレスはその様子を見ていた。すると、ヒミカが騎士の敬礼をして近づいて来る。
思わず、ラクレスも敬礼を返してしまい、ヒミカは少し驚きつつも言った。
「傭兵殿。戦闘の助力感謝します。よろしければ、遺跡内の調査にご同行をお願いしたいのですが」
『わかりました。──っ……同行、します』
自分の意志で声が出た。だが、その声は自分の声ではなくダンテの声。
さらに、レイアースの名を呼ぼうとしたが、喉が張り付いたように硬直し声が出ない。
『ワリーな。お前の意志で喋れるようにはしてやるが、ラクレス・ヴェンデッタの情報を出そうとするなら拘束する。それ以外は自由にしていい。と……ケケケ、いいこと考えた』
ダンテが何か思いついたようだ。
その時、ヒミカが敬礼したまま言う。
「傭兵殿。差し支えなければ、お名前を教えていただけますか」
そう質問され、ラクレスが答えようとした時……声が勝手に出た。
『俺はダンテ。黒騎士ダンテと呼ばれている』
こうして、ラクレスは『黒騎士』として、素顔を晒すことなくレイアースたちの前に現れるのだった。