00:エヴォリューター
ー進化とはー
生物による種の存続、あるいは環境適応に対する肉体の変化を、人は"進化"と呼ぶ。
肉食動物が獲物を狩るために鋭い爪や牙を獲得したように。獲物は姿を隠せる保護色を身に着けたように。人類もまた、猿人から現代に至るまで進化を繰り返し、文明を築けるほどの進化を成し遂げた。
そして今から約500年前、人類は新たな進化を迎えた。
それは種の存続でもなく、環境適応でもない。今までの人類を超越した進化であるこの進化を"超進化"と呼び、この超進化した人類を、超進類と呼んだ。
教壇に立つ女性教師がチョークを置き教室へ振り返る。
「とまぁ、ここまでは常識だな。すでに中学で勉強した奴もいることだろう。これが君たち、いや、この学校の生徒全員に起きた身体の進化だ。通常の人間の3倍速く動けたり、体を着火させてもなんら問題なかったりは全て超進化によるものだ。」
女性教師は手に着いたチョークの粉をパンパンと払い、「ふぅ」と一息ついた。
「先生!」
猫の獣人のような、体が毛皮で覆われた男子生徒が挙手し、そのまま言葉を続けた。
「種の存続でもなく、環境適応でもなかったら、なんで人類は超進化したんですか!」
「さぁ知らん。そこらへんは未だ解明されてないらしいぞ。突然変異が有説らしいけどな。」
生徒達がざわつく。「解明されてないんかい…」というツッコミに女性教師は眉をピクリと反応させるも聞き流す。
「ともかく、私たち超進類は現在の人類の約7割を占めているわけだが…、逆に超進化していない人類をなんて呼ぶか、わかる奴いるか?」
コンコン。
女性教師が生徒たちに問いたその瞬間、教室のドアがノックされた。
「ああ、そういえば、今日は転校生が来る日だったな。入っていいぞ」
「え!」「うそ!」と生徒たちが騒めく中、教室のドアが開かれた。
青みがかった黒髪の少年が教室に足を踏み入れる。
体格、背丈も平均並み、これと言って特徴のないその少年は、入って来たそのままのスピードで教壇まで上がった。
「転校生、自己紹介を」
「初めまして。俺の名前は未神 利亜、"無進類"、いわゆる無能力者です。」