6◇謎の娘
屋敷へ到着すると、驚かない使用人は誰もいなかった。
パヴェルたちを迎える準備は整っていたはずだが、予定にない少女が、それも意識を失って運ばれてきたのだから。段取りなど何もあったものではない。
「客間でいい。運ぶぞ」
少女を抱えたままパヴェルが言うと、老執事のコルダが慌てた。
「だ、誰か他の者に運ばせます。何も殿下御自ら――」
「ついでだ。細かいことを言うな」
さっさと階段を上っていくパヴェルにシャールカも続いた。コルダは慌てながらも侍女たちに指示を出し始める。
パヴェルが客間に着いてすぐ、侍女が着替えや体を拭くための綿布などを持って現れる。シャールカがパヴェルから少女を引き取った。
「着替えさせます。このままでは寝かせられませんし」
「ああ、頼む」
シャールカに任せれば心配要らないだろう。パヴェルはここで下がった。
ただ、あの少女は本当に目覚めるのだろうかという気がしてしまった。
それほどに生気のない顔をしていたのだ。
パヴェルが整えられた自室で濡れた服を着替えると、医者を呼びに行ったマクシムが部屋に現れた。
「今、先生が診てくれています。シャールカもつき添っています」
パヴェルは椅子に座り、指の節を顎に当てて考える。
「あの少女はメイドのような恰好をしていたが、両手足を縛られていた。攫われそうになったんだろうか?」
「縛られていたんですか? それは……そういうことかもしれませんね」
「メイドだから、主人にとって都合の悪いものを見聞きしてしまったか、それともただの人攫いか……」
「人攫いとなると、人身販売が行われているということになりますが」
それがこの国で起こったことだとしたら、どんなことをしても叩き潰しておかねば。
パヴェルはひとつ嘆息した。
「とにかく、あの娘が目覚めないことには何もわからないな」
「ええ、気がついてから話を聞きましょう。心にひどい傷を受けているかもしれませんから、慎重に行わないと」
多少の胸騒ぎがすると言ってしまえば、それが本当になるようで躊躇われた。
今のところは平穏なベルディフ領であったのだ。それでも、不穏の種はどこからでも飛んでくる。
何かが起こった時こそ、統治者の真価が問われるのは仕方のないことだ。
そこにシャールカがやってきた。パヴェルは報告を待つ。
「体が冷えていましたが、命に別状はないようです。あと、舟が大破したわりに骨折や打撲、打身もありません」
一切の怪我がないとなると、彼女があの舟に乗っていたと考えるべきではないのだろうか。
「まだ目を覚ましていないのか?」
「はい。それと……」
シャールカは言葉を切り、それから改めて言った。
「メイドのようなお仕着せを着ていましたが、彼女はメイドではない気がします」
「どうしてそう思う?」
マクシムが首を傾げるとシャールカは軽くうなずく。
「手がまったく荒れていません。冷えきっていたので顔色はよくありませんが、髪や肌には艶がありますし、食うや食わずという生活ではなかったのではないかと」
さすがに同性だけあって見るところが違う。パヴェルも納得した。
「それなら余計に、彼女がいなくなって捜しているだろう。とにかく、早く話ができるようになるといいが」
果たして、あの娘の口からどんな事情が飛び出すのだろうか――。