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願わくは幸せな結末を  作者: 五十鈴 りく


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40◇居場所

 エミーリエは、空をグルグルといつまでもさまよっているような感覚だった。


 竜たちの棲み処はとても遠いらしい。この状態でいると、時間の感覚がまるでわからなかった。自分たちが光そのものになっているから、昼も夜もない。そして、空腹感もなければ眠くもならなかった。


「僕たちは今、精神で肉体を覆っているみたいなものだから。肉体は通常のように機能していないんだ」

「そうなの?」


 わかるようなわからないような説明をされた。

 ただ、ずっとこの状態が続いていると、エミーリエは自分が人として過ごしたことも忘れてしまいそうだった。

 何もかもが吹き飛んで、消えていく。


 ――なんて、本気で忘れられるはずもない。


「さあ、そろそろかな」


 ヴァスィルがそんなことを言った。

 そろそろ着くのだと思った。けれど、違った。


 エミーリエが見たのは、王城のテラスにいるパヴェルだった。虚ろな目をして空を見上げている。

 天へ向かっているはずが、まだ少しも離れていなかったのだ。そのことと、パヴェルがあまりにも生気のない顔をしているのとに驚いた。


「どうして……っ」


 思わずつぶやくと、ヴァスィルは平然と言った。


「どうしてって、エミーリエがいなくなったんだから王子様が落ち込むのは当然だよ。王子様、ずっとエミーリエを呼んでたんだ。聞こえなかった?」


 それはエミーリエが耳を塞いでいたからだろうか。

 自分をしっかりと持ったパヴェルなら、エミーリエがいなくても大丈夫だと思った。けれど、本当はそうではなかったのだろうか。


「王子様は事情を知らないから。誰かに連れ去られたって、エミーリエを護りきれなかったって、ずっと自分を責め続けているよ。多分ね、もう二度と笑わない」


 その傷ついた心を抱えたまま、パヴェルは王となる重圧に耐えていけるのだろうか。

 愛情というのは、失った時にこんなにも人を痛めつけるものなのか。


「ねえ、エミーリエ。自分に相応しい居場所なんてさ、ないんだよ。そういうのは自分で築いていくものだから、最初から用意された居心地のいい場所なんてない。天に行ったって、エミーリエの居場所なんてないんだ」


 ヴァスィルの声は優しかったけれど、エミーリエは叱られている子供のような心境になった。


「秘密を持つのはつらい? エミーリエは厳しすぎるよ。まっさらな赤ちゃんでもない限り、秘密のない人間なんているの? 大なり小なり、誰だって秘密を抱えて生きている。エミーリエがひとつくらい秘密を持っていたって、それがなんだって言うのさ?」

「でも、わたしは他の人とは違うからっ。カーライルの王家にそんな血を入れちゃいけないの」


 秘密が知られたら、エミーリエは壊れてしまう。

 誰からも嫌われ、排斥される。それはあの実家での日々よりもつらい歳月になるだろう。


 禍を呼ぶ娘は、やはり部屋から出るべきではなかったのか。

 この時ふと、パヴェルの言葉を思い出した。


 ――自分のことは自分で決める。不幸になるとしたらそれは俺のせいだ。


 エミーリエは、そんなパヴェルが選んでくれたというのに、またもや勝手に思い込みで動いてしまっただけなのだろうか。

 パヴェルに結末を選んでもらうべきだったのか。


「わたしは……」


 もっと、強くならなければ。

 どこへ行っても同じだ。


 エミーリエは、良くも悪くも昔から〈特別〉だった。

 生きている誰もがもがいているのに、自分だけが特別に難しいことを強いられているような気になっている。


 この時、ヴァスィルはすでにエミーリエを連れていくつもりはなかったのかもしれない。


「秘密と釣り合うくらいの幸福を、エミーリエがあの国に与えればいい。難しく考えることはないよ。エミーリエの存在が王子様を救うんだから。一人で秘密を抱えるのがつらいなら、王子様と二人で抱えたらいい。大丈夫、なんとかなるよ。気楽に行こう」


 そうかもしれない。

 エミーリエは考えすぎて身動き取れなくなってしまった。

 必要とされないことに慣れすぎていて、必要とされる意味がまだよく理解できていなかった。


「ありがとう、ヴァスィル――」


明日完結します。

お付き合い頂けると嬉しいです(^^)

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