僕のことをボカロオタクだと馬鹿にしてくるギャルと曲を作ることになった
昼休み。生徒たちが一緒に昼飯を食べたり喋ったりしている時間に、僕は一人ワイヤレスイヤホンでボカロを聴いていた。今聴いているインストが長いこの曲は、今年のボカコレで一位を獲った曲だ。
友達はいるにはいるのだが、一緒に昼飯を食おうとも何か話題があるわけでもないから、この時間僕は毎日ボカロを聴いている。
ボカロの、人間には表現できない歌声とボカロPの努力を感じる独特なメロディーラインがたまらなくすきなんだよなぁ。多分この国で一番ボカロを聴いているのは僕なんじゃないだろうか。そう思うくらいにはボカロのことが好きだ。
誰かとボカロの話をしたいけど、あいにく僕の周りにボカロを聴いている友達がいないのだ。だから、常に語る相手に飢えている。まぁ、こんなものはボカロ好きの宿命みたいなもんだろう。
そんなことを考えていると、不意に片方のイヤホンを誰かに取られた。
びっくりしてその手が伸びてきた方向を振り返ると、いつも隣の席で友達とうるさくくっちゃべっている石川凛音さんが僕のイヤホンを耳に装着していた。
「あ、機械っぽい女の子の声が聞こえる〜!やっぱりボカロだ。ね、言ったでしょ。こいつまたオタクっぽいの聴いてたわ」
キャハハ!と甲高い笑い声が右耳をつんざく。イヤホンを着けていたのをいいことに、僕のことを馬鹿にして笑っていたようだ。
石川さんはクラスの中でもトップのカーストを誇るグループの中心人物だ。最近、僕がボカロを聴いている時に決まって邪魔してくる。おおかた、仲間と話すことが無くなったから近くにいる適当なやつをいじって暇を潰してるってところだろう。
「最近はボカロも流行ってはいるからさ……」
僕は届くかどうかもわからないような小さい声で石川さんに話す。もっと強く言い返したいのに脳がセーブをかけてしまって大きな声が出なくなってしまう。
僕がオドオドとしていると、石川さんの友達の柳さんが携帯の画面を覗いてきた。
「てかさ、この曲再生数少なすぎない?」
「ほんとだ。結構マイナーな人のやつもチェックしてるんだ……」
石川さんが僕の携帯の画面を見ながら考え込むような仕草をしている。いつもの彼女らしくない姿に違和感を覚えた。そう感じたのは僕だけではなかったようで、石川さんの友達も不思議そうに石川さんを見ていた。
「ねぇ」
急に石川さんが目の前まできて、"蝙蝠P"というそのボカロを作ったボカロPが書いてあるところを指差してこう言った。
「この漢字なんて読むの?」
「えっと……"こうもり"だけど」
「……こうもりP。ふーん、変な名前」
石川さんはそれだけ聞くとイヤホンを返してくれた。僕はイヤホンを取られた立場にも関わらず、小さくありがとうと言ってしまった。しかし、石川さんはそれに少しも反応せず、友達と何事もなかったかのように雑談に戻った。
俺の平穏を乱すだけ乱して興味が無くなったらすぐに居ないもの扱いかよ……最後に謎の謝罪をしてしまったことも相まってだんだんイライラしてきた。
(いや、僕はこんなしょうもない奴らに構ってられないからな!)
ボカロを愛する者として馬鹿にされて逆に火がついた。石川さんみたいな、オタクっぽいっていう偏見だけでボカロを下げる奴に負けないくらいに、僕はボカロ文化を盛り上げてやるよ!!
モチベーションが腹の底から湧き出て止まる気配が無い……いいぞ、いける!このままならなにかとんでもないものが生まれそうだ!!
「ねぇ凛音見てよ……あいつなんかニヤついてんだけど……」
「ほんとだ……こわ」
――
学校から家に帰ってきて、僕は自分のチャンネルに来ているコメントを確認していた。
「ふふ、このネタコメセンスあるな……」
学校では隠しているが、僕はYouTube登録者数100万人を超えているボカロPの「BEKKOU」なのだ。世間一般的にもうボカロは音楽のジャンルの一つとして認められていると思うけど、僕の周りではそんなにいい印象では無いようで、今までボカロPであることを言い出せなかった。それに、素性を隠して活動してる方がバンクシーライクな感じでかっこよくないか?
ボカロ界隈で一番の影響力を持っているのは俺だと言っていいと思う。僕が曲を投稿するとあっという間に再生数が伸び、TikTokで話題になったり、歌ってみたがたくさん投稿されたりする。
ここまで有名だと傷つくことも多いのだが、そんな時は自分の曲の歌ってみたを聴いて気分を上げている。自分の世界観を的確に表現してる歌い手を見つけた日なんかはテンションが上がってしょうがなくなる。
中でも特別好きな歌い手の人がいる。“rim”さんだ。大人っぽい声質をしている女性の歌い手で、深みのある低音ときれいで奥行きのある高音の感じが僕の好みど真ん中だ。rimさんの魅力は、力強く圧倒的な歌唱力はさる事ながら、一番は表現力だ。僕の考えていることをそのまま映し出したかのようで感動することもあれば、僕の想定を超える表し方で新しい視点をもらうこともある。いつしか僕は曲を作る時でさえ、"rimさんならどう歌うんだろう……"と考えてしまうくらいrimさんにハマっていた。
そんなrimさんは僕の大ファンだと言ってくれている。TwitterでもBEKKOUに関するつぶやきをたくさんしてくれていて嬉しいと思いつつも、持ち前のコミュ障がいかんなく発揮されて感謝のリプを送るだけの勇気が出ないという日々を過ごしていた。
rimさんのチャンネルを確認すると、新しい動画が上がっていた。僕の直近の曲を歌っていて、タイトルを見た瞬間にテンションが上がってヘッドホンをつけた。
再生して歌声が聞こえてきた瞬間に、あまりにも僕が表現したかった感情の通りでびっくりした。曲の理解度が今までの歌ってみたとはレベルが違う、感性が全て一致していないと説明つかない程のものだった。
曲が一瞬で終わった感覚があった。それほどまでrimさんの歌声に集中していたみたいだ。
「すごい……」
胸がいっぱいになって、自然とそう呟いていた。
rimさんの歌を聴いたこの日に、僕はrimさんに感謝を伝えたい気持ちが溢れて、勢いでTwitterのDMで思いの丈を綴った。いつも応援してくれて感謝していること、動画を欠かさず見ていたこと、そして僕もrimさんのファンで辛い時に元気をもらっていたことを長文で一気に送った。少し冷静になって見直したら、急にこんなメッセージが送られてきたら怖いかなと心配したけど、すぐにrimさんから同じように感情が爆発したような長文のメッセージが返ってきて安心した。
ずっと前から話してみたいと思っていたから、rimさんとのDMでの話の種は尽きなかった。とても面白い話ができて、僕は携帯の画面の前でソワソワしっぱなしだ。
そんな話をしている時に、僕は興奮したままこんな文章を送ってしまった。
「一緒に曲作りませんか!」
送ってすぐに、考え無しに言ってしまったと後悔した。確かに、rimさんの動画を見始めた頃からそんなことができたらいいなと思うことはあったが、知り合ったその日に誘うなんて相当気持ち悪いはずだ。
メッセージを消そうかとも思ったが、もう既読が付いていて後戻り出来なかった。返事を考えているのかそれとも気持ち悪さに引いているのか、rimさんからの次のメッセージはなかなか送られなかった。それを待つ間、僕は人生で一番ぐらいに緊張して心臓がバクバク言っていた。
すると、
「いいですよ!むしろそんなことさせて頂いていいんですか!?」
という文章が送られてきて、僕は胸を撫で下ろした。ひとまずrimさんに引かれてた訳ではないことがわかった。でも、脳が次にrimさんと曲を作る約束をしたという事実に気づいて、僕は軽くパニックになった。
現実感がなくて、ベッドの近くを歩いたりメッセージを何回も見返したりした。そして理解が追いついた頃に渾身のガッツポーズを決めて小さく叫んだ。
――
週末、僕は鏡の前で髪の毛を梳かしていた。何度整えてもいまいち納得できない。気づくと、クシを持ってから5分以上経っていた。僕は胃がキリキリしているのを感じながら先日のことを思い出していた。
rimさんと曲を作ることが決まった後、rimさんから「一度会ってみませんか!」と誘われたのだ。急に言われてびっくりしたけど、断る理由もないし、話してて楽しいからいいかと承諾した。それから集合場所を決めるためにどの辺りに住んでいるかを聞いたら、なんと僕とかなり近い所に住んでいることが判明したのだ。こんな偶然あるもんなんだなと感心しつつ、駅前のカフェを指定した。
rimさんの大人っぽいであろう姿を想像して胸が高鳴るのと同時に、あまりにダサい格好でなんか行けないなというプレッシャーを感じていた。
僕はネットで知り合った人とオフで会うなんて初めてだから、はやく準備しなきゃとめちゃくちゃ焦った。今回、僕はrimさんにみっともない格好を見せないために最大限の努力をしている。
前日に、おしゃれな友達に「急だけど頼みたいことがある!」と無理を言って服を選んでもらった。友達に「お前彼女でもできたんか?」とか聞かれたけど、いろいろと言えないことだらけだったから適当にぼかしておいた。
こうして今、昨日手に入れた服を着ているのだけど……
なんか背伸びしすぎな気がして不安が増してくる。これまで服に対して無頓着すぎて、おしゃれな格好をしている自分に慣れていないのだ。カーディガンとか着るの初めてだけど大丈夫なのかこれ……とか無駄な心配をしていると、家を出なければいけない時間になっていた。僕は、緊張MAXのまま集合の場所に向かったのだった。
――
カフェに向かって歩みを進める。目的地が近くなるにつれ、緊張は増していくばかりだった。無意識に歩幅が小さくなっていて、側から見たらよたよたと歩く変質者だっただろう。
集合時間よりかなり早く着くように家を出たのだが、なんとなく後から席に合流するがハードル低い気がしてきた。俺はカフェから近いベンチに座って、どうしても緊張がおさまらない胸の辺りをさすりながらTwitterを開いて落ち着こうとした。
(rimさんは僕のファンなんだから堂々と接したら大丈夫なはずだ……よし、行ける)
昨日から心の中で何回も唱えているフレーズをもう一度復唱して自分を鼓舞するも、まだ足は動かなかった。そんな時に、ポケットに入れている携帯が震えた。僕はノータイムでその通知を確認する。
「着きました!奥の方に座っている金髪に白いパーカーを着ているのが私です」
「わかりました。自分ももう少しで着きます」
rimさんがカフェに着いたようだ。僕はついに、後から合流したいという最後の言い訳を失ってしまった。……もういい加減向かうしかないか。僕はすぐそこにあるカフェへと歩いた。
僕は店のドアを開けてすぐに店内を見渡した。落ち着いたアンティーク調の空間にrimさんらしき人はまだ見当たらなかった。もっと奥の方に座っているのだろう。
何が入っているかも忘れたボトルを店員さんからもらってから、少し進むと、いた。僕はrimさんの姿を見たまま、驚いて言葉を失ってしまった。
「……は?」
そこには、石川さんが座っていた。
僕の姿を見るや否や、体が固まって動かなくなっていた。
「……もしかして」
石川さんは金髪だし、今は白いパーカーだって着ている。rimさんが事前に言っていた服の特徴と一致しているのだ。信じられないけど、残された可能性はひとつしか無かった。こんな偶然ってあるのだろうか。
「“rim”って、石川さん……?」
「え、じゃあBEKKOUさんってあんたの事……?」
rimさん、もとい石川さんは信じられない様子で目を丸くしていた。
どちらも次の言葉が出てこなくて、かなり長い無言の時間が続いた。石川さんが推しの歌い手だったなんて、そんなことありえるのか?僕は下を向きながら石川さんの次の言葉をビクビクしながら待っていた。次第に石川さんは全て悟ったようで、沈黙を破ってこう言った。
「……とりあえず座って」
「……うん」
――
「BEKKOUさん……で、いいんだよね?」
「うん、僕がBEKKOUです……」
「あーー……こんなことってホントにあるんだ……」
「……」
石川さんは頭の後ろに手を組んで、どこか上の方を見ながら大きく息を吐いた。石川さんも、僕も、この信じられないような現実をまだ受け止めきれていない。
rimさん=石川さんであることは間違いないんだろうけど……だとしてもなかなかその事実を飲み込むことができない。だってあの石川さんだぞ?ボカロのことをオタク趣味だって馬鹿にしてたギャルギャルしいあの石川さんに限ってそんなことがあるわけがない。
「ね、あたしがrimだって知ってびっくりしたでしょ」
「それは……そうだね」
「はは、そりゃそうか……あーー…………」
そう言うと、石川さんは何かを思い出すように上を向いた。BEKKOUの正体が僕だと知ってイライラしてるのだろうか。だとしたらこれから期待外れだなんだと罵倒されるだろう。僕は石川さんの次の言葉に身構えた。しかしそんな予想は外れて、次の瞬間石川さんは勢いよく頭を下げた。
「今まで本当にごめんなさい……!」
「……えっ?」
「ボカロのことあんな風に言っちゃって……本当ごめん!」
僕はその突然の謝罪に驚いて何も言えなかった。石川さんは深く頭を下げたまま続ける。
「私、本当はボカロ大好きなんだけど……それを友達に言うのなんか恥ずかしくて……一度ボカロを馬鹿にしちゃった時からもうそういうキャラが定着しちゃって……って、こんなこと言ったって言い訳でしかないんだけど……本当にごめんなさい……!」
石川さんがボカロを好きだったことを知って、僕が最初に感じた気持ちは、今まで馬鹿にされてきたことへの怒りではなく、僕と同じくらいにボカロが大好きな仲間がこんなにも身近なところにいたことへの喜びだった。
「鈴木君のことも悪く言っちゃったし……本当にごめん……」
「いや、謝らなくていいよ」
「……え?」
「むしろ石川さんがボカロ好きだって知れて嬉しいっていうか……はは、なんでだろ、なんていうか今までボカロを語れる相手がいなくて寂しかったからだと思うけど。これからは少しでもいいからボカロのこと話そうよ……って、石川さん!?」
僕が話している間に石川さんは泣いていた。女子が目の前で泣いてしまったらどうすればいいのかなんて分からなかった。僕が「大丈夫?」と聞くと、石川さんは「うん。ごめん、なんか泣いちゃった」と言って目頭を押さえていた。
「よくわかんないけどすごく嬉しくて……許してくれて本当にありがとう。私も好きなもののことを話せないのすごく辛かったからさ……鈴木君とボカロのこと話したい」
涙を拭って落ち着いた石川さんは、僕が見たことのない優しい笑顔を浮かべていた。僕は初めてみる石川さんのその表情にドキッとしたけど、それを声に出さないように意識しながら石川さんにボカロの話題を切り出した。
「じゃあ、あの……石川さんっていつからボカロ聴いてるの?」
「私は3DSで聴いたのが最初かな、携帯も持ってなかったし。YouTubeにあったうごメモの動画に使われてた曲がたまたまボカロでさ。確か、ミクちゃんがドーナツ食べるやつ」
「え!?それ見たことある!懐かしいなー!じゃあアレも聴いたことある?――」
声に出してボカロの話をするのがこんなに楽しいだなんて思わなかった。自然と次に話したいことが思い浮かんで、ハイテンションになる。石川さんも段々とノってきて、僕たちは時間が経つのも忘れて喋っていた。やっぱり、と言うべきか、僕と石川さんはとても意見が合った。
「――僕はその、作風変わった後の方も味があって好きだったりしてさ」
「うん、わかる!私はむしろそっちの方が好きかも」
「ね、やっぱいいよね」
「"こういう曲もいけるんだぜ"って感じでいいよね〜」
「そう!そうなんだよなー」
石川さんは喉が渇いていることに気づいたのか、飲み物を飲んだ。それをただ見ているのもおかしいかと思って僕も飲み物を飲む。一息ついて、久しぶりに店の中のBGMが聞こえてきたことから、周りの音も気にならないくらい話に熱中していたことに気づく。
「……楽しい」
石川さんが呟く。
僕も楽しいよ、と返すと石川さんはふふ、と小さく笑った。会話が途切れる。でも気まずい沈黙ではなく、居心地のいい雰囲気が流れていた。次はどんなことを話そう、と考えていると、このオフ会がrimさんと曲を作ることについて話す場だったことを思い出した。出会った時の衝撃でパニックになっていたし、石川さんと話すのが楽しすぎたこともあってつい忘れてしまっていた。石川さんはここにくるまでBEKKOUが僕だということを知らなかったわけで。この事実を知っても尚僕と曲を作りたいと言ってくれるだろうか。
「ねぇ、石川さん」
「なに?」
「Twitterでした話のことなんだけどさ、……改めてだけど、僕と一緒に曲を作ってもらえませんか」
「……うん、よろしくお願いします」
石川さんはすぐにOKをくれた。それから二人ともにこやかに曲を作る約束ができた感動に浸って話した。
解散した後も石川さんとメッセージを送りあった。LINEではボカロのことはあまり話さず、学校の話をした。寝る直前まで続いたその時間はとても楽しかった。
――
翌日、僕はいつも通り学校に到着したのだけど、謎の緊張感に襲われていた。石川さんと仲良くなったはいいものの、いざ学校で顔を合わせるとなると恥ずかしい。
元々石川さんにはそりゃもうめちゃくちゃに悪口言われてたんだっけ……。石川さんのボカロへの想いを知った今となってはもう信じられないような話ではあるけど。
教室では、石川さんが友達と喋っていた。石川さんは僕に気づくと、友達に気づかれないくらいのすごく小さな会釈をしてくれた。僕も会釈を返すと、石川さんは微笑んでまた友達との会話に戻った。
今の……なんかすごいよかったな。秘密の関係を築いてます的な感じで。気持ち悪いことは考えるだけ無料だからな。許してくれ、石川さん。
石川さんの友達との会話を聞いてみると、漫画の話をしていた。石川さんのグループではみんながワンピースを最新刊までしっかり読むほど好きなようで、ずっとワンピースの話をしていた。
僕はワンピースをあまり知らないから話の内容自体はよくわからないけど、かなり詳しいことはなんとなくわかった。教室で話しているから、みんな妙にネタバレをしないようにしているのも面白い。
石川さんの会話の内容なんて気にしたことなかったけど、案外普通のことを話してるんだな。申し訳ないけど、ずっと悪口大会でもしているのかと思ってた。
趣味を共有できる推しの歌い手が同じ教室にいることを僕はなんで気づけなかったのだろう。今までの石川さんのキャラ的に学校ではあまりボカロについて話せないだろうけど、これまでボカロ好きは僕の他にいないだろうと思っていたから、仲間がもう一人いるという事実だけでテンションが上がる。
石川さん、もといrimさんとこれからどれだけいい曲を生み出せるのか楽しみだな。
――
第二話
今日の現代文の授業はいつもと違いあまり眠くなかった。テンションが高い今日の僕はいつもよりエネルギッシュなんだろう。
トイレに行って教室に帰るまでの道に石川さんがいた。壁にもたれかかりながら携帯を触っていて、誰かのことを待っているみたいだ……僕だろうか。
そのまま無言で通り過ぎるのもなんか違うかな、とか考えていると石川さんがこっちを見た。
「鈴木くん」
「え、なに?」
やっぱり石川さんは僕のことを待っていたみたいだ。なんとなくそんな気がしてたけど、どことなく白々しい返答になってしまった。
「ごめんね。待ち伏せみたいなことして」
「はは、待ち伏せとも思ってなかったけどね」
「ありがと、昨日。すごく楽しかった」
「ああ、うん。僕もすごく楽しかった、ありがとう」
僕の中での制服の石川さんは、陰キャだとバカにしてくる性格の悪いやつからまだ更新されてなかったからとても新鮮に感じる。昨日カフェで解散した夜にもLINEでお礼を言ってくれたのに、学校でもう一度改めて言うのは礼儀正しいなと思う。石川さんってどことなく礼儀正しさを感じるんだよな。
「学校で鈴木くんに話しに行けなくてごめんね。今までのキャラ的に、急に鈴木くんと話したら夏帆たちがびっくりするかと思って……」
「僕も学校ではまだ堂々と話さない方がいいと思ってたから大丈夫だよ」
「ありがと。それでなんだけどさ、今日の放課後どっかに遊びいかない?」
「放課後に遊びに?」
「そう。モールとかゲーセンとか。またカフェでもいいし」
予想してなかった話が飛び出して、つい復唱してしまった。オフで会ってから昨日の今日で遊びに行く選択肢は考えてなかった。石川さんとまた話せるならめちゃくちゃ行きたいな。
「あー、もしかして鈴木くんって部活入ってた?」
「いや、部活には入ってない」
「じゃあいいじゃん、あたしまだ語り足りなくってさ……だめ?」
「いや、だめじゃない。いいよ、また遊びたいと思ってたし」
石川さん、押しが強いなぁ。まあ、前よりもずっと打ち解けているってことだろうから嬉しいことだけどね。
「ホントに!?ありがとー!じゃあ、放課後にモールの駐車場で合流でいい?」
「うん、いいよ」
約束を取り付けると、石川さんは先に教室に戻った。
まさか石川さんと放課後デートができるなんて。その後の授業、僕はワクワクしすぎて訳がわからなくなってしまった。
一時間目の集中力が嘘だったかのように二時間目以降は全く授業の内容が入ってこなかった。時々石川さんのことをちらちらと見てしまった。その時の僕は明らかにキモかっただろう。
放課後が待ち遠しいな……
こうして、僕とボカロ好きなギャルの石川さんとの音楽活動が幕を開けた。
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