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3-9 はぐれ(1)

『ルイ、知ってますか? ほとんどの鳥は夜でも目が効くそうですよ』

「……」

『ああ、緊張はしてないようですね。結構、結構』


 眉を顰めるルイにタマがニヤリと笑う。それを見たルイは、口だけ動かし声を出さないように呟く。機動戦闘服の複数のセンサー類を調整した結果、声帯を使わずに口を動かしながら息を吐くだけでタマには通じるようになっていた。これも船と通信が繋がった成果の1つであるらしい。


「ジャミールに聞こえないからって随分と失礼なことを言うなあ。そんなことより、相手はどんな奴か早く教えてくれよ」

『うーん。どーも、センサーの解像度が低いんですよねえ……まだ門の真ん前に居て、ぼけーっと宿を見てるのは確実です』


 仕方ない、近づくしかないか。そう思ってルイは歩みを進めて、門の横で身を隠す。そこは、大量の薪が背丈ほどに積まれていて、様子を伺うのに絶好だった。


 そこからルイは駅の主人や旅人の目もあるので、いったんゴーグルは付けずに網膜情報表示レンズの光感度を高めて前方を伺った。暗いのでシルエットしか分からないが、そこには確かに人がいて門の横にある塀の鉄格子を掴んで顔をねじ込もうとしている。


「ヤツは何をしてんだろうね」


 ジャミールも門を覗きながら小声で声を掛けてくる。


「……目がいいね」

「なに、君には遠く及ばないよ。で、どうしたものだろうか。これ以上近づけば、気付かれるかもしれん。君の話はもちろん信用しているものの、最悪の場合、例えば伏兵がいたときのことを考えれば、なるべく追いかけず済ませたいもんだ。最低でも、顔ぐらいは確認しておきたいが……」


 そういうジャミールに応えるように、今度は短弓を持った男が口を開く。ジャミールがさきほど宿で引き抜いた旅人だ。


「とりあえず射抜いてみるのはどうだ? 身体に当てればすぐには死なんだろう」


 その男は使い込まれた革を巻き付けたような上着に、同じく革ながら所々金属で補強されたズボンを履いている。

 見た目の年齢は中年の部類であろうか、禿げ上がった駅の主人よりはずっと若そうに見える。ただ、態度は非常に落ち着いており、荒事に慣れた旅人との印象を受ける。


「……とりあえず、光を当ててみていい? それで怪しい奴で、しかも逃げるようなら僕が塀に登って脚を撃つか追いかけて捕まえる」

「へえ。どんな奴か、この距離で分かるってことか。いいねえ」


 ジャミールは軽く答える。短弓を持った男は無言だ。そのことを確認してからルイは再び前を向く。


『やーれやれ、ライフルの照明でやりますかね。銃口を向けてください』

「……じゃあ、照らすよ」


 ルイがライフルを構えると、闇に慣れた目には少し強烈な指向性の光が正面の一点を照らす。そして、門の前にいた何者かを瞬時に浮かび上がらせた。それをライフルのスコープから見ていたルイは二度に驚くこととなった。


「な、なんだ……あっ」


 そこに居たのは、まるで白い蟻を立たせて人型の二足歩行にしたような、昆虫のような生物だった。服は身に着けておらず、体は固い殻のようなもので覆われている。胸や腰の部分は屈強な男を思い起こさせるほど太いが、腹部の節のような部分は大変細い。

 腕も同様に上腕と前腕は太いが、肘にあたる部分は節であるらしく同様に細い。頭部は、縦長の長方形のようであり、左右に紅く怪しく光る眼がついている。


 ルイは、その異様な姿にまず驚いた。そして次に、()()が突然現れた光に眼を守ろうとしたのか腕部をかざした時、隠しきれなかった四角い頭頂部に矢が突き刺さったことに驚いた。


「死虫人か!」


 ジャミールが素早く駆け出す。ほぼ同時に虫人の腹へ二本目の矢が撃ちこまれる。ここまで一瞬の事だった。


「ぼけっとすんな! 殺せ!」


 背後で新たな矢をつがえながら短弓使いの旅人が切迫した声で叫ぶ。


「撃つ!」


 咄嗟にルイは光弾を放つと、虫人の細い首に命中し、頭部が胴体から切り離された。僅かに遅れて三本目の矢も胸部に突き刺さると、その虫人は体を僅かに痙攣させた後、まるで糸が切れた操り人形のようにその場で崩れ落ちた。


「ルイ君、他に居ないか見てくれ!」


 いつの間にか、高さ4メートルほどの塀の上に立っていたジャミールが、後ろを振り向かずに叫ぶ。自身の状況判断の遅さに少し苛つきながらルイは、言われるがまま脚部の出力を高めると、直接塀に飛び乗って周囲を見渡す。


「……動くものはいない」

「そうか」


 頷きつつジャミールは周囲の警戒を怠らない。ルイも念のため音、光、振動などセンサーを切り替えたり組み合わせたりしながら何度も周囲を探っていくが、やはり動くものは何もない。

 駅の周囲は平地になっており、木もないため見晴らしは良い。敢えて何か目立つものをあげるとしたら、空に小さな月がひとつ朧げに浮かんでいるぐらいだ。


 おそらく数分、しかし体感的には数十分の沈黙の後、ふう、と小さく息を吐いてジャミールが少し体から緊張を抜く。そして背後を振り向いた。

 その視線の先には宿の屋上があり、そこにはサクヤとヤグラの他、宿に居合わせた旅人たちも周囲を警戒していた。さらに、左をみれば酒場と呼ばれていた小屋の屋上にも何人かがクロスボウの射撃台に座っている。


「おーい、大丈夫らしい。早い所、埋めちまおう」


 そういうとジャミールは手を振ると、何人かが屋上から降りて行った。

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