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1-14 再び谷へ(3)

「随分古い門ね」


 サクヤが用心深く、腰の剣に手を掛けながら巨大な鉄板を見つめながら呟く。ヤグラと斥候長も剣の柄をいつでも手に取れる体制となっている。


「下がっていてくれ」


 ルイが先導役を買って出る。もしも罠や敵性生物の巣があるとすれば、自分が前に出るのが最適とルイは考えていた。暗視ゴーグルを始めとした各種センサーを持ち、何かあればタマの補佐で人の知覚速度を越えた危機回避ができるのはルイだけだ。

 機動戦闘服の手袋越しに門へ手を添え、ひんやりした温度を感じながら微かな声でタマに話しかける。


「タマ、どうだ」

『非常に精巧な鋼鉄と思われます。塗装は剥げていますが躯体に錆は全くありません。鍵さえ開いていれば、下から押し上げれば開くでしょう。』

「錆が無いって、そんな金属、簡単に作れるのか」

『まったく簡単ではないはずです。ここ独自の製法があるのかも。宿の前にあった電灯といい、ちょっとここの文明は歪ですね』


 長い年月を経ても錆の無い扉。崩れる気配の無さそうな扉。産業革命前に見えるのに風力発電があるアズマ府。ルイはそのことを思って少し動きを止める。それを見た斥候長が声を掛けてくる。


「おい、道案内。どうなんだ?」

「……鍵さえ掛かっていなければ開きそうだ」

「そうかい、そうかい。頼むから手荒な真似はやめてくれよ」


 ルイは斥候長の反応もまた奇妙だと感じる。こんな場所で手荒にしたとして、いったい誰が気にするというのか。ともあれルイは取手に手を掛ける。


『機動戦闘服の出力を向上させます……出力増を確認、どうぞ』

「よし……お、普通に開くな」


 大きなシャッターを下から開けるように、ルイがゆっくりと門を押し上げていく。背後の誰かの息を呑む気配を感じながら門を中ごろ、ヤグラが屈まず通れる程度まで開けた。

 ルイは門の前に広がる塔の外壁を見渡す。足元を見れば綺麗な石畳になっていて、その先には塔の一階に至る入り口があった。扉は無いらしく、ぽっかり空いた四角い漆黒のような穴に目を凝らせば中は柱ばかりのようだが、外壁のせいで光の入らない内部は深い暗闇になっていて詳しくは分からない。


「暗視モード起動。タマ、どうだ」

『異常なし、中に動く物体なし』


 ルイは自らも暗視装置のせいで白黒になった世界を見て確認したのち、振り返って中に何もないことを仲間に告げる。


「何も無いって……この暗さで良く分るな。本当なのか?」

「……これでどうだ」


 ルイは機動戦闘服の両肩とゴーグルについた光源を点灯した。塔の内部が浮かび上がっていく。いくつもの柱が聳え立つ中は広場のようになっており木製らしき机や椅子がある。いくつかは倒れ腐食しているようだった。


「お前……いや、なんでもねえよ」


 斥候長はルイが生み出した光を見て詰問しようとしたが、ヤグラに睨まれて押し黙る。そうして、四人は広場の中に入っていった。ちょっとした集会場のような場所で、机や椅子に加え、ボロボロのコップや瓶の残骸まである。

 壁には木製の掲示板のようなものもあった。そのなかで最もルイの注目を集めたのは、塔の内壁を伝うように上部に向かう螺旋階段、そしてその上にある閉ざされた二階への扉だった。


『ルイ、上階の部屋に大きめの金属反応があります』


 続けて視覚に探査結果が表示される。二階もまた広場のようであり、金属反応を示すコンテナのような、あるいは棺のような箱がいくつも置いてある。そして、その合間に()()()()()()()()()()()()()()()がある。服飾店にあるマネキンのように見えるが、冷え切っている。


『少し調べてみたいのですが、良いでしょうか』


 珍しくタマが調査を申し出る。主人だけでなく人類全体にも貢献するというソフォンの側面が何かを気にしたのだろうか。そう思いながら、自身でも興味を感じていたルイは無言で肯定する。しかし、すぐ大きな声で斥候長が話しかけてくる。


「二階は調べなくてもいいんじゃねえか? ここは安全そう。それでいいじゃねえか。おい岩肌族の戦士、なんか言ってくれよ」

「……ルイの判断に任せる。だが」


 いったん話すのを止めて、ヤグラがルイに横目を向けてから続ける。


「ここでも野営は十分に可能だろう」


 ルイはヤグラが言外に「踏み込むな」と言っているように感じた。


「わかった」


 ルイは素直に従った。そしてタマに調査を止めさせた。経験の深そうなヤグラを信頼した方が良いように思えたからだ。斥候長は明らかに安堵したような表情を見せたが、程度の差こそあれルイにはサクヤやヤグラも同様に見えた。


 それから斥候の二人を呼び入れて野営の準備に入った。もう塔の中は昏かったが、ルイの光源があるので問題なく進んだ。そして、そのまま一行は交代で仮眠を取りながら夜明けを迎えた。






 [タマのメモリーノート] 第三の播種船は13光年先のティーガーデン第二惑星に向かったが、到着直後に通信が途絶した。事故解析報告によると、降下前後なんらかの事故に巻き込まれたらしい。

 第四の播種船は16光年先のカジキ星系の第四惑星へ向かったが「何かに見られている、返信するな」との通信を最後に音信不通となった。集団発狂の可能性も含めて様々な議論が交わされたが結論は出ず、とりあえず返信は控えることのみが合意された。

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