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1-11 古語(2)

「エルフ……?」


 地球時代の娯楽作品に親しんできたルイは、ある時期においてエルフという想像上の種族が高い人気を誇っていたことを知っている。登場する作品によって特徴は異なるが、耳長の美男美女というのが概ね共通した要素であり、想像上のエルフを現実化したらまさに目の前の彼女のようになるだろう、という強い印象を持った。


「え…るふ…」


 彼女は再び何かに気づいたように、ルイの言葉を繰り返す。彼女も彼女なりに会話を成立させようとしているのだろうか、そうルイは考えた時、大柄な方が会話に割って入ってきた。


「――――」


 おそらく大柄の男と言えそうな人物が視線をルイに固定しながら、何かを話す。落ち着きと自信を感じさせるような低く太い声だ。ただ、こちらも普通の人ではない。改めて近くで見ると聳え立つ岩のようだとルイは感じた。


 その男の背は高く、ルイの背は彼の肩にも届かない。緑に輝く鋭い目、その目の周りこそ浅黒く柔らかだが、頬骨のあたりや頭部は白い石のような皮膚に覆われている。さらに頭頂にある2つの短い角が、明らかに葦原人類とは違う種族だということを力強く物語っていた。体は大きく太く、硬そうな皮膚と良く似た白っぽい金属の鎧を身につけ、砂避けなのか肩には茶色の布を巻き付けている。脚にはゆとりがあるシルエットの板金を貼ったズボン。靴は革製に見えるブーツ。そして、背中には背丈ほどの太い板のような特大剣を持ち、腰には小太刀を差している。

 その雰囲気の全てが、自分は戦士であると訴えていた。ルイはふと、リンが彼に会えば手合わせを望むのではないか、と感じた。


「――――」


 今度は明確に、大柄の男がルイに話し掛けてくる。短く端的な話しぶりは、武人という初印象を裏付けたが、言葉が分からないことに変わりはない。


「あー、……すみません。あなたも僕の言葉、分かりませんよね」

「――――」


 大柄の男の視線が、ルイのライフルに向かう。


「あ、ああ、これ? これは、ライフル。そう、ライフル」

「らいふる」


 彼がライフルを指で差していることに気がついたルイは、とりあえず名前を伝えてみる。


「――――、らいふる――――」


 相変わらず何を言っているのか分からないが、ライフルに興味があるらしいことは分かった。


「そう、ライフル。うーん……」


 まず武器に興味を持つとはやはり武人か。ともあれこれは紛れもない会話、続けるにはどうしたらよいか、などとルイが思案していると1つの考えが浮かんだ。


「あー、いいか、じゃない。いいですか。あっち、あっち、岩、そうあっち」


 ルイが川沿いにある岩を指差す。二人はそちらを向き、岩の上に折れた蜘蛛の脚があることに気がついてから再びルイに目を向けてくる。何をするのか察してくれたようだとルイは思いながら、そのまま膝立ちになって小声で囁く。


「タマ、補助を頼む」

『威力は最小にしますよ。ド派手に岩を吹っ飛ばして自慢したいとかやめてくださいよ。もう無駄遣いなんて出来ませんからね』

「わかってるよ……って本当にエネルギーが少ないのか……」


 無傷で危なげない勝利に見えたが、実はギリギリだったのではないか。そう思いながらルイがライフルを構えて引き金を引く。すると、小さな白い光弾が岩の表面を叩き蜘蛛の脚を弾き飛ばした。


「――――」


 再び大柄な岩肌の男が何かを言い、敷物に戻っていく。女性の方もなにか言いたそうな表情をしていたが、無言で戻っていった。


「満足したのかな」

『わかりませんねえ……肌が岩になっている人の表情を読む機能なんて持っていませんから』

「こっちだって初見だよ……」


 *


 ルイはテントの近くに寝転がり、二人は砂へ敷いた敷物に座ってそれぞれ休憩をとっている。


 あれから数度、会話を試みたものの言葉が通じないため意思の疎通が難しく、自然と双方とも無言になっていった。そのことに二人は特に神経質になるわけでもなかったが無防備になることも無く、いまは時折ルイやバギーを見ながら小声で何かを話している。


 ルイは、ゴーグル内に表示された時刻を見る。高天原プライムにおける日の出の予想時間まで、まだしばらくある。


 ここは谷だから日が差すには少し時間がかかるだろうが、空が明るくなれば随分視界は良くなるはずだ。あの蜘蛛が夜行性である保証は無いが、明るくなったならば暗視装置に頼る必要がないのでより効率的に戦えるだろうし、エネルギーも補充され始める。そこまではいい、その後はどうするか。もし受け入れられるのであれば谷の出口ぐらいまでは送って行ってもよいかもしれない。ただ、その後に彼らが仲間を連れて戻ってきたりはしないだろうか。それは揉め事の種になるのではないだろうか。そうなると仮定して、今なにか出来ることはあるのだろうか。

 そんな思考を回しているルイにタマが話しかける。


『ルイ、お喜びください』

「ん?」

『彼らの言語が少し解析できました。簡単なことであれば私の補助で会話可能です』

「――!」


 ルイはハッとしてからゆっくり周囲を見渡す。二人を驚かせたかもしれないからだ。だが、二人は川の方を見ていてルイの驚きに気が付いていないようだった。


「随分と早いな……あんな少しの会話で未知の言語が分かるようになるものなのか? 単語とか明らかに足りないだろ」

『いいえ、少し違うのです』

「どういうこと?」

『未知の言語には変わりないのですが、彼らが話している言語は、葦原統一言語が生まれる前に存在した古語とかなり似通っています。そして、その古語は葦原統一言語の源流です。端的に言うと、彼らは我々の言葉の高天原プライム弁を話している、ということです』

「ちょっと待て……間違いないのか?」

『はい。我々の基準で見ればかなり発音が訛っているものの、語順、使っている音、活用形などが酷似しています。これが何を示唆するのかは極めて興味深いことですが、とりあえず少し解析できたことに間違いはありません』






 [タマのメモリーノート] 男物と女物を組み合わせた和装は葦原星系の男装・女装アイドルらがしばしば行っていることで、ルイもそれなりに見慣れている。

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