4-15 戦勝会議(2)
男はぽつぽつと語る。
「血盟戦士団と奴隷解放戦線、連合帝国にとってどっちがより邪魔だったのかは……まあ微妙なところだったんだろうな。だが、とにかく商人ギルドを焚きつけてだな、陳情させたんだ。奴隷解放戦線から潰すべき、ってな。あんだけ同業者が殺されているんだから当たり前だよな。結構うまく行っていると聞いていた。だがな」
男が一段と声を落とす。
「ある時から帝国の奴らの動きが鈍くなった。だから、本部は色々と調べ上げた。だが、間に合わず結局お前らが現れてこのザマだ。どういう訳か、どっかで先に潰すのは俺たちだと決断したんだろう。お前らは安全だ。両方を潰す余裕は帝国にねえからな。やれやれ、シグモイドを攻める準備がなかなか進まねえから怪しいと思ってたんだが、実際に分かっちまうと堪えるもんだな」
そう言った男の声は細く、情けなさの籠ったものだった。だが、そんなことを斟酌するレネーではない。
「一丁前に被害者ぶるじゃねえか。お前らの博奕に勝手に乗せられて全滅した戦士どもは本当にご愁傷様だぜ」
「ふっ、言っておくがな、奴らは湖畔都市スイゴウを壊した張本人なんだぞ。俺はな、スイゴウを壊滅させるつもりは全く無かったんだよ。だから、まあそれなりに権利や生活を守るつもりだった」
「お前のそれなりは全然信用なんねーな」
「……都市を捨てて逃げ出すより遥かにマシのはずだったんだ。もともと帝国の税がクソ重たいから、それを俺らが取ったところであんまり変わらねえだぜ? 本当に帝国の奴らは酷くてよう――」
「話を戻せ」
「おいおい、話を振ったのは嬢ちゃんだろう? ――続ける! 足を下げろ! ……とにかく、そのなんだ? うまくスイゴウを支配するつもりだったんだけどよ、奴らが暴走しちまってよ。奴らが何をしたかは……あんまり言いたくねえ。秘密なんじゃない、話しても単にお互い胸糞が悪くなるってだけだ。簡単に言うとな、愉しんだって感じだった」
「……それで薬漬けにしたのか」
「まったく統制が効かなかったんだから仕方ないだろ。随分と俺を非難するけどな、お前らだったら奴らをどう扱ったんだ? 俺はそれなりにあいつらを幸せにしていたはずなんだけどよ」
「お前らが度し難いってのは良く分ったよ。にっちもさっちもいかなくなって、変な理屈を作りやがる。人類統合局みてーだな」
またレネーが良く分らないことを言う。だが、あまりに話が脱線していたのでルイはまず話を元に戻そうと思った。
「で、モモカって奴は何者なんだ? 分からないなら仮説でいい」と、レネーの真似をしてルイも男の推測を引き出そうとする。
「帝国の、商人ギルド側の人間じゃねえかとは思ってたがな。モモカだけじゃねえ、死んだ部下はだいたいそうだろう。外からきた密偵だったら調べても無駄。戦士だったとしても出自の分からねえ奴ばっかりだから調べても無駄。どっちにしろ調べる意味がねえ」
「とりあえず解放戦線を潰す方向に話が進めばそれでよかった。そして実際に潰したかった。それが神聖法廷から来たお前の役割だな?」
「ミトロンはカストディアンだから当たり前だろ」
納得できる話ではある、とルイは感じた。
「ミトロンはお前をどうするんだ」
「それこそ知らねえよ。せいぜい助命を嘆願してくれや、頼んだぜ」
ルイの質問に、男はそっけなく答えると硬い床に寝転がった。もう話す気はないようだったし、ルイ達もこれ以上聞くことは無かったので無言で立ち去っていった。
兵士のひとりが「ミトロンが話をしたいと言っている」と告げてきたのは、それからすぐのことだった。





