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4-8 火口都市 反奴隷の地(2)

 自分の心が変わった。そう言われたサクヤは、虚をつかれたのか僅かに素の反応を示す。そんなサクヤに、ポーは好意的な声色で話を続ける。


「ああ。これまでの君は、故郷から課された義務に忠実なだけでなく優秀ですらあったが、少し辛辣な表現になってしまうことを恐れずに言うと……退屈だった。我々は奴隷制という世界に根付いた常識を覆そうという強い意思をもった誇り高き集まりであり、奴隷という自由意志を奪われたものたちを自由にしようという正義の旗を掲げている」


 ポーが目の前の木のコップに入った水を軽く飲んでから続ける。


「だから、自然と自らの意思を強く持っている者に対して少々敏感なるのだよ。最も優れた宝石ばかりを毎日ずっと見ていると、宝石の価値がいつのまにか正確に区別できるようになると昔の職人は言ったそうだが、それと同じだ。我らは、相手の自由意思の強さを感じ取れるのだ」


 ポーは、サクヤの顔を覗きこむようにする。


「今、サクヤ殿から、以前は感じられなかった自由意志の力強い萌芽を感じる。何か、内面から力強い行動への熱意が湧き出ているような。それがどんなものかは分からないが、自由意思そのものを我々は歓迎する。それが我らの正義そのものであるからな。願わくば、中身も親近感を持てるものだと嬉しいものだ」


 サクヤは表情へ現れそうになった困惑の色合いを上手く隠しつつ、ためらうような笑顔をポーに向ける。


「……ありがとうございます、と申し上げていいのでしょうか。ただ、自由意志……私の意思といってもあまり実感がありません。本日伺ったのも森羅からの要請に基づくものですし、私はこれまで通り森羅と櫛稲田のために動くだけなのですから」

「勿論そうだろう。我らとて本国の後ろ盾のないものと交渉や約束はできない。ただね、自由意思は任務とはあまり関係ない。意志と真逆の任務を課されていたとしても失われる事などない。――サクヤ殿。自由意志を持っているかを、どうやって見極めればよいか分かるかな?」


 首を振ったサクヤを見て、ポーが意味深に笑う。


「瞳だ。瞳の輝きだよ。それを見ればなんとなく、しかし明確に分かるのだ。さっき言ったように、サクヤ殿には自由意志の萌芽が見える――まだ小さいようだがね。大輪が咲くことを祈ろうか。さて」


 ポーは立ち上がる。そして何かを告げようとするサクヤを手で牽制する。


「同志の準備ができたようだ。忙しくしているからな、あまり待たせたくはない。さあ、ご同行いただこう」


 ポーの掛け声と同時に、周囲のものが酒を呑む手を止める。あえて視線を向けてきたりはしないが、意識はこちらに向いている。そのことをサクヤも敏感に感じ取ったようで小さく頷くと、ルイたち一行も立ち上がった。そして、ポーとサクヤを先頭にして酒場の奥にある個室へと向かっていった。


『瞳ねえ……。それはともかく、個人の意思を尊重する度合いだけを見れば、これまでの相手より葦原と感覚が近そうですね。あくまで相対的には、ですけど』


 ルイはタマの呟きに反応しない。ルイはパーカーの被りが深いポーの瞳を一度も見ていないことが、どうも引っかかっていた。ポーはサクヤと視線を交わしたと思われるが、ルイはついぞポーの瞳を見ることができなかった。


「これは個人的な直感だが、森羅や櫛稲田からの使いではなく、()()()殿()()()として交渉することをお勧めするよ。では、入ろう。同志は形式的なことにはあまり興味を示さないことに注意したまえ」


 ポーはそう言ってから、サクヤの返答を待たずに戸を開けて、中へ入っていった。一行も続けて入っていく。そこには、双子の塔のものとはまた違うカストディアンが居た。






 [タマのメモリーノート] ソフォンは自由意志を持たないと定義されている。持たせてはならないとも決められている。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] タマの本体に関する記述が無いようですが、どうやって現実世界を認識しているのか、逆に他者に認識させているのか木になります。 時間をさかのぼる演出がお好きなようで多用されていますが、最初の…
[一言] 君の瞳は10000ボルト うん?葦原の単位はボルトでいいのか?
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