表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
146/356

4-6 血盟の戦士(3)

 ――あいつら、俺を馬鹿にしていやがった。許せねえ。


 あっさり倒されてしまった部下たちを見た隊長の心の中には、熱く煮えたぎった泥のような感情が渦巻いていた。

 

 奇妙な一行への奇襲が成功し、倍以上の人員で圧倒できる状況を作り上げることができた。後は――まあゴラムの奴は本国の戦士でなくとも強いだろうから何人かは死ぬにしても――殺して食糧を奪うだけ。

 そんな目論みは一瞬にして崩れ去った。相手の三人は誰もが規格外の戦闘力を隠していて、こちらを瞬時に蹴散らしてしまった。岩肌族の男だけならまだしも、頼りなさげなガキも刀を使うし――しかも峰打ちという舐めっぷり――、徒手空拳の子供も滅茶苦茶な速さと打撃力を持っている。二倍程度の数的有利などなんの意味もなかった。

 挙句の果てには射殺したはずの女がなんとも無かったかのように起き上がってくるし、重症であったはずの変な帽子のクソガキに至ってはニコニコとしている。


 完全に罠だった。それもただの罠ではない。こちらを引っ掛けて嘲笑(あざわら)うためという()()()()()()()()()()だった。そうでなければ、あんな笑ってしまうほど下手くそな演技をする必要がない。

 きっと大いに愉しんだことだろう。俺たちに飯が食えると偽りの希望を与えて、そして目論みが一瞬のうちに崩れ去り驚愕したのを見て。


 ――こんな奴らが生きていて良いはずがない。


 必ず皆殺しにする。奴らの醜悪さは、あのクソみたいな神聖法廷の神様すらもお許しにならぬだろうよ。消えて当然の悪党どもだ。


 とはいえ、勇敢に一人で斬り掛かるような馬鹿な真似などしない。そんなことをしても、何の意味もない。彼我の戦力差は明らかだし、決死の覚悟なんざ、何の役にも立たない。そんなものを信じた同僚は全て虚しくなんの成果も上げずに死んでいった。


 それでも、男は自分の運命にまだ絶望してはいなかった。むしろ、希望を抱いていた。


 ――奴らのほとんどはカストディアン、絶対にそうだ。


 戦場を注意深く見ていた男は気がついていた。若い男の外套の内側が怪しく光るのを。抜かれた刀が炎のように紅く一瞬だけ輝いたのを。やたら素早いメスガキが繰り出す打撃の威力が、その小さな体格と明らかに矛盾しているのを。

 

 男は対峙する相手の多くがカストディアンであるという自らの予想に、残りの人生という有り金の全てを賭けることを決意した。部下を全滅させて一人帰ったところで待っているのは死か同等程度の苦役。そもそも自分の命など硬貨数枚程度のもの。やる価値はある。

 

 男が強く剣を握りしめていた力を意識して緩める。


 血盟戦士団には全員に剣が支給される。そして小隊長には、鉈のような少し短めの剣が渡される。血盟戦士団が保有する古代遺跡から発掘した遺物で、なかなか丈夫で切れ味良い。ただ、末端が知るのはそこまでだ。

 

 男は剣の柄の一部を捻る。すると、僅かな間を置いて刀身が怪しく灰色に光った。


 ――ぶっ壊れろや、機械ども。


 男は僅かに祈ってから地面と同じ水平に素早く剣を薙いだ。すると残像によって生まれた剣の軌跡が実体、すなわち光の弧と化してルイたちに襲いかかっていった。






 [タマのメモリーノート] 誰もが総合戦闘術を習う葦原社会では、浪漫感の溢れる装備は耳目を集める。カスタムオーダーメードの武器を作る店も多い。リンもきっとそんな場所で月影を手に入れたのだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ