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3-20 西塔の異変(1)

 眼の前の階下、箱の中に佇む死虫人と似たカストディアンが動く様子はない。


「壊れているのか。それとも、保守中なのか」

「カストディアンはどんな夢を見るんだろうね」


 ルイの何気ない疑問にジャミールが別の疑問を被せる。


「……夢は見ないんじゃないかな。たぶん、だけど」


 ソフォンの歴史によると、旧型ソフォンは定期点検を必要としていたらしい。稼働中にどうしても変更できないデータがあったので、全機能(オンライン)を停止させてから一括(バッチ)処理していたようだ。だから、昔のソフォンは()()。だが、夢を見たという話は聞いたことがない。


「君が言うならそうかもしれないね」


 ジャミールは愛嬌ある感じで軽く含み笑いをするが、それは一瞬のことだった。


「さて、どうやって殺ろうか」


 ジャミールが屋上で見せたような純度の高い殺意を(みなぎ)らせる。ルイもどうすればよいか頭を巡らせる。確実なのは狙撃だ。威力を十分に高めれば、ここから今すぐ破壊できるだろう。だが、棺桶のようなベッドも含めて派手に破壊することになる。3階がどうなっているか分からない中、安易に物音を立てることは避けたい。


「うまく忍び寄るとか……えっ?」


 ルイが静かに処理することを提案し始めた時、突如として遠くから破裂音が響き、足元が軽く揺れる。


『爆発音! 方位、西塔!』


 タマの叫びを聞きながら、ルイは目の前で起きたことに体を硬直させる。ジャミールも同様であった。死虫人に似たカストディアンが突如として、素早く上半身を起こしたからだ。そして、()()は急ぐようにして地面に降り、階段のあるこちらへ向かってくる。


 見つかる。ルイは瞬時にそう判断した。そして覚悟を決めて長刀紅千鳥(べにちどり)に手を掛けた。もうこの距離なら、じっくりライフルで狙うより刀の方がずっと速い。刹那の緊迫の中、カストディアンが首を捻ってゆっくりこちらに目を向けてくる。


 ――やるしか無い!


 紅く輝く刀身をもった紅千鳥をルイが――抜きかけたその直前、「コンコン」と小さく可愛らしい金属音が鳴った。


『あいつのベッド!』


 視界の中、音の発生源が強調表示される。それは棺桶のような金属の箱。横に転がる小さな小石。箱へと振り返る死虫人に似たカストディアン。


 ――ジャミール、助かる!


 風など無いのに、どうして小石が動いているのか。そのことに気が付いた瞬間、ルイは機動戦闘服の出力を全開にして階段上の物陰から天井近くにまで飛び上がった。すぐ下には、再び階段方向へ振り返ったカストディアンがいた。真っ直ぐ迫っていたら確実に見つかっていた。


「ギッ!」


 ルイが上空から音もなくカストディアンの背後に着地、同時に背中を紅千鳥で貫く。すると虫のような擬音を出したカストディアンが、首を180度回して背後のルイを見た。そして、顎のあたりから音声を発した。


「お、おお。もしや……だが何故――」


 声が震えている。ルイはその中に哀れみすら感じて、僅かに硬直してしまう。その次の瞬間、カストディアンの頭部が爆ぜた。


「大丈夫かっ!」


 ルイがその声を聞くのと、ジャミールが淡く光る槍で頭部を破壊したと分かったのは同時だった。ジャミールもまた、ルイが斬りかかるのに合わせて突撃していた。


「階段に戻れッ!」


 すぐさまジャミールはカストディアンの胸に両足を当て、一気に槍を引き抜く。ルイも同時に左足で背を蹴りつけながら紅千鳥を引き抜いた。前後から同時に蹴りつけられたカストディアンはあらぬ方向に大きく吹っ飛び、壁にぶちあたって派手な金属音がまき散らした。そして共に階段の踊り場へと戻って行く。

 先程の爆発音で、塔のカストディアンたちは臨戦体制に入ったと考えるべきだった。すぐに上階への退路を確保せねば、3階からの増援に包囲されかねない。


『上階に反応なし! 3階からの動的反応多数!』

「さっきの奴は!?」

『完全停止!』

「ライフル起動」


 ルイが呟く。もはやここまで来たら、残ったカストディアン達がエネルギー兵器を感知できるかなどと心配しても仕方がない。腕の中で鼓動のような、起動したライフルの振動を確かめて3階へと続く階段に狙いを定める。この角度から3階を直接見ることはできない。だが、3階で点灯された強い光源が、いまや大量のカストディアンの存在を、影絵のように天井や壁に映し出していたのだ。

 ルイは、スコープを覗き下り階段に狙いを定め続ける。姿が見えたら、3点バーストを惜しみなく使うつもりだった。


 だが、数秒待っても、階下のカストディアンは活発に動いている様子なのに、ただの1体も上がってこない。


「ルイ君。奴ら、遠ざかっていないか?」

『……確かに、階下へ向かう足音があります。こちらの階段へ踏み入れるものは1体も――緊急合図を感知! 西塔!』

 

 ルイには全く聞こえなかったが、反射的にジャミールを見ると彼も合図を聞き取ったようだった。


「聞こえたよ。――っと、いま地上からも笛が鳴ったぞ。よし、俺は上から行く。下を頼む!」


 ジャミールはそういうと振り返りもせず、階段を駆け上がっていく。


 西塔と外で一体何が起きているのか。ルイにはまるで分らなかったが、いまここで逡巡(しゅんじゅん)してはならないことだけは確かだ。ルイは前方に駆け出し、一気に3階へ躍り出る。目に入ったのは、予想通り大勢のカストディアンだった。どれも森にいた歩哨と同じ型。それぞれ、長い棒や長剣を持って2階へ殺到している。


 ルイは流れるようにライフルを構え、3点バーストで距離の近いカストディアンから部位に拘らず撃ち抜いていった。

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