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1-6 第三惑星(1)

 満天の星々は微動だにしない。ただ、ルイとタマが乗る船の速度はかなりのものだった。ついさっきまでニクサヘル星系を全力で駆け抜けている最中で、速度は謎の転移後もそのままだったからだ。


「タマ、その近い星系ってあの星のこと?」

『はい、進行に対して右下に見える明るい星です』

「そこまでの航路はどうなるの?」

『航行システムが3つの選択肢を提示しています』


 窓に3種類の航路が必要エネルギーと所要時間付きで表示される。第1案は、消費エネルギーを気にせず可及的速やかに到達を目指す計画。第2案は、消費エネルギーと所有時間のバランスをとった通常航行で使うような計画。第3案は、とにかくエネルギー消費を最小にする計画。


「なるべく燃料は節約したいから第3案かな……って2年もかかるのか」

『差し迫る危険もないので、それも良いかもしれませんよ。長期睡眠ベッドで寝れば、あっちゅーまです』

「……ここに飛ばされた時も危険なんて、なんにも想定されてなかったけどね」

『おやあ、ルイがつっこむとは。じゃあ、燃料なんて気にせず思いきりかっ飛ばしますか?』

「それもちょっと不安だよ」


 どんな船にも十分な余剰燃料が搭載されている。とはいえ、後少しで目的地のゴソック星系であったし、時間優先の旅でもあったから既にそれなりに燃料は使ってしまっていた。星系間航行に使う燃料は科学技術の結晶であり、製造には様々な材料に加え大規模な生産設備が必要になる。それこそ、街1つ分の空間が必要だ。こんな人類未踏の地で手に入るものでは到底ないから、ルイは燃料消費を極力節約したいと考えていた。その一方で、どうもこの宙域に長く留まるのも居心地の悪い気分だった。


 少し話し合った末、第2案と第3案の中間のような計画を探ることにした。燃料使用は出来るだけ少なくしたうえで、使うにしても今後採取できる可能性の高い資源――水から採れる重水素など――から優先して使っていく。一方で、宇宙太陽光発電や太陽帆といった自然エネルギーは最大限使う。その前提で所要時間を最小化する。この条件を再度航行システムに入力すると、しばらくしてタマは1つの案を出してきた。


 目指す星系は、黄金のG型主系列星を主星としている。惑星は6つ。第一と第二惑星は大気の薄い岩石惑星であり、間に小惑星帯を持つ。第四は巨大有毒ガス惑星、第五は極寒の氷世界、第六惑星は赤土の塊だ。詳細に調べればもしかしたら有益な資源が発掘できるかもしれないが、この距離ではなんとも分からない。そのため目的地は第三惑星にならざるを得ない。水が大量に存在している可能性が高いからだ。

 航行システムが提案した航路の鍵は第四惑星にあった。まず太陽帆を全開にして星系中央に向かって少しずつ減速しつつ方向転換、主星の脇を通り過ぎてから少量の燃料とすべての電力を使って減速、第四惑星に接近して引力を使ったスイングバイを行い第三惑星に向かう。


 この案の利点は3つあった。第一に、消費燃料が少ない割に意外に短時間で到着できること。第二に、星系のかなりの範囲を通過するので、主星や惑星についてより詳しい情報が得られること。そして第三に、もしこの星系に文明が存在していても対処がしやすいことにあった。


「いまのところ、第三惑星に文明の痕跡は見えないってことでいいんだよね?」

『はい。ガンマ線や電波の放射など、複数の手法で測定しましたが、とても静かです。他の無人惑星と違いはありません。ただ、産業革命以前の文明が存在する可能性は排除できません』

「なるほどね……こういう時、迷子マニュアルにはどうしろって書いているの?」

『通常の未踏星系探査と同じです。まずは遠くからセンサーで調べる、これはもう終わりました。次に周辺宙域に宇宙ステーションが浮かんでないか調べる。そのあとは、本星と月の人工衛星を調べる。最後は光学センサーで見る、です』

「ちなみにさ……」


 ルイがタマを横目で見る。タマはそれだけでルイの意図を理解した。


『伝説の地球ではないと惑星探査プログラムは判断しています。確かに主星がG型であること、文明が存在する可能性を持つのが第三惑星であることは同じです。ただ、他の惑星の構成が全く違いますし、小惑星帯の位置も違います。有り得ないと断言してよいでしょう』

「そっか……」


 残念がりつつもルイは、それでも自身がいま葦原人類最大の偉業を成し遂げていることに気が付いている。人類が住めそうな気温で、水が豊富にある惑星の発見は葦原人類が長く熱望しつつも、これまで全く見いだせていなかったからだ。しかも、それが伝説の地球であったのなら、水上ルイの名は永遠に伝説として語り継がれるものになっただろう。発見を葦原星系に伝えられれば、の話であるが。

 そんな功名心が自分の中にもあると気付くと、つい先程まで絶望していたのに現金なもんだな、とルイは苦笑いせざるを得なかった。


 それから、計画の詳細についてタマと話し合ったあと、ルイは睡眠室に向かった。眠れるのか不安であったが、装置に入ると急速な眠気に襲われた。自分が想像以上の強いストレスに晒されて疲れ果てていることにようやく気が付いたルイは眠気に身を任せる。それは、まだ生きていたいと思っている証拠だった。






 [タマのメモリーノート]葦原星系第三惑星である地星は、青い岩石と土に覆われた不毛の地である。

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