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第六話 親睦を深めるための第一歩

 


 正座であった。

 失われた東の国に倣って反省の気持ちを示してみたが、もう醸し出す空気からしてワイバーンがダース単位であっても逃げ出すほどに凄まじいオリビアに通用するわけもなかった。



「で、なんだって?」


「いえ、あの、私今現在素寒貧でね」


「それで?」


「だから遊ぶ金もなくてグリムゲルデさんとのデートがうまくいかないからオリビアさんに相談に乗ってもらおうと思って、その、はい」


「はぁ。……これはもう監禁でもしないといけないかもねえ」


「そこまで!? 怒っているにしてもお仕置きの方法はもうちょっと加減してほしいなあ!? あれ? でもよくよく考えれば監禁ってお泊まりとそう変わらないよね。それはちょっと楽しみかも」


「ミナちゃん。アタシ、これでも怒っているんだけどねえ」


「あっ、ごめんねっ」


「それと『監禁』だろうがお泊まりに置き換えれば乗り気だったのは忘れないから。色々準備があるから今日のところは見逃すけどねえ」


 それより、と漆黒のドレス姿の妖艶な美女は正座しているミナの顎に手をやり、持ち上げ、視線を合わせる。


「ミナちゃんはあのワルキューレのことどう思っているのかしら?」


「どうって、ええっと……どうなんだろう?」


 良くも悪くも裏表がないミナは首を傾げていた。答えによっては顎にある手がほんの少し下に移動して()()()()()()()かもしれないことなど察してはいないのだろう。


「はぁ。まあいいわよ。今のところは保留にしてあげる」


「それって、許してくれるってこと?」


「ええ」


「よかったあ。オリビアさんに嫌われたら私普通に立ち直れないからさ」


「……ふーん?」


 ほっと胸に手をやって息を吐くミナは満更でもなさそうなオリビアには気付いていなかった。


「それより、デートだよデートっ。オリビアさんどうすればうまくいくと思う!?」


「わざとかねえ? これが駆け引きというなら演技力の高さと腹黒さに感心するほどよ」


「???」


「はいはいそうよねミナちゃんに裏表なんてあるわけないものねえ。それで、デートだっけ? そもそもデートの目的はミナちゃんのことだし仲良くなりたいとかそんなところでしょう?」


「仲良く……あっ、うんっ、そうかも!!」


 自分で自分の気持ちに気づいていなかったのか、驚いたように目を見開くミナ。オリビア以外の人間と仲良くなりたいと思っていること自体が許せないのだが、それ以上にミナの気持ちを優先してにっこり微笑む。


「……? オリビアさんまだ怒っている???」


「さあ、どうかしら」


「やばいこれ後でとんでもないしっぺ返しがくるパターンかも!?」


「それよりも」


「露骨にぶった切られたよお!?」


「仲良くなりたいならお金を使って遊ぶまでもないわよ。面と向かって話すだけでも仲を深めることはできるんだからね。ええ、ええ、それはもうミナちゃんにとっては有意義な時間になること間違いなしよ」


 ミナちゃんにとっては、の部分を強調して吐き捨てるように告げるオリビア。それには気づいていても、その理由まで察することができていないミナはこんなことを返したのだ。



「それじゃあ、オリビアさんも一緒にどう?」



 仲間外れになったみたいで寂しくて拗ねている、とでも考えているのか自信満々に提案してくるのだから、なんというか救いようがなかった。


「……うっふふ」


 にっこり、笑顔で。

 とりあえずミナの顔面にアイアンクローを叩き込むオリビアであった。



 ーーー☆ーーー



「う、うおおお……っ! オリビアさん魔法使っていたよねめちゃんこ痛いもん!!」


『組織』の本拠地から叩き出されたミナが路地裏に転がっていた。顔を覆って呻く彼女の近くには仮面のように無表情な美女が立っている。


「大丈夫です?」


「は、あはは。まあオリビアさんを怒らせた私が悪いんだから仕方ないよ。どうして怒らせたのかわかってない以上、下手に謝っても逆効果だし時間を置くしかないよね」


 それより! と。

 勢いよく跳ね起きたミナはこう言った。


「デートだよデートっ。今日はグリムゲルデさんとデートするって決めたからね!! オリビアさんのアドバイス通りお話しようよ!!」


「構いませんが、グリムゲルデは人を楽しませるような会話能力は搭載されていません。退屈させてしまうですよ?」


「そんなの気にしなくていいから、さあどうぞ!!」


「……、何を話せばいいです?」


「何って、そうだなあ。グリムゲルデさんのこと、なんでもいいから教えてよ!!」


「それでは──」



 ーーー☆ーーー



 ワルキューレとは九つの『女神の魂の欠片』を複数の生物の遺伝子を掛け合わせた魂なき生物兵器へと埋め込んで生み出された。


 魔法における燃料たる魔力は魂から生まれるものなので人間のそれより遥かに高次元なりし『女神の魂の欠片』を軸としたワルキューレの魔法は強力なものとなる。つまりいかにワルキューレと同等の魔力変換回路を用意したとしても基となる魔力の質が異なればワルキューレの魔法を再現することはできないということだ。加えるならば魔力探知に長けた者であれば容易にワルキューレの魔法とその他の生物の魔法を見分けることができるだろう。


「?」


 現在、四体のワルキューレが東西南北をそれぞれ守護しており、グリムゲルデは北部地方担当として魔族迎撃の任についている。


 王国を覆うように展開されている王国守護結界『ミッドガルド』は三次元空間における害悪なりし存在の侵入を防ぐが、ワルキューレと同じく高次の魂を有する魔族には空間跳躍の魔法がある。三次元よりも『上』に跳躍し、そこから王国守護結界『ミッドガルド』を迂回する形で王国内部へと侵入することもできるので魔族と同じく三次元よりも『上』にも跳躍可能なワルキューレが迎撃の任につく必要があるのだ(逆に言えば真っ向から『ミッドガルド』を破ることはできないということでもあるのだが)。


 いかに迂回による突破が可能とはいえ流石に三次元よりも『上』に跳躍することはもちろん、『上』から三次元空間に戻るのも時間がかかるし、その際に使用される魔法の反応は隠しきれない。つまり時間稼ぎと魔族の居場所を感知するためにも多大なコストを支払ってでも王国守護結界『ミッドガルド』を維持する必要はあるだろう。


 また、王国守護結界『ミッドガルド』は王国の中心に位置する王都を始点として地下を走る魔力供給網『ユグドラシル』より必要な魔力を供給されている。『ユグドラシル』は初めこそ『ミッドガルド』への魔力供給のためだけに構築されたのだが、高速で供給される魔力に()()()()術が発見されてからは高速移動手段として構築され直され、今では王国全土を短時間で移動する秘密の経路として運用されている(『ユグドラシル』に関する情報は一部の特権階級のみが知り得ているものであり、もちろんミナも初めて聞いた)。


「……???」


 グリムゲルデの得意な魔法は風属性の支配。もちろん高次の魂からなる魔法であるので単に風を操る以外にも応用は効くし、支配下に置かれた風においても多大なる『力』が宿る。早い話が凄まじい威力を発揮するということだ。


 他にも全てのワルキューレが会得している三次元よりも『上』に跳ぶ空間跳躍魔法や万物を透かして地平線の彼方さえも見通す千里眼など様々な魔法を──


「あのう、グリムゲルデさん」


「はいです?」


「なんか話が、こう、味気なくない!? 小難しい本でも読んでいる気分になってくるんだけど!?」


 確かにグリムゲルデのことを教えてとは言ったが、まさかワルキューレの成り立ちから淡々と説明されるとは思わなかった。


「すみません。ですけど、何を話せばいいのかわからなくて……」


 無表情ではあった。

 声音も波のない、淡々としたものだった。


 だけど、どことなくしょんぼりしているようにも見えたのはミナの見間違いだろうか?


「いや、今のは私が悪かったよ。そうだよね、グリムゲルデさんのこと教えてくれたんだもんね。それに茶々入れるのはかんっぜんに私が間違ってた!」


「いえ、そんなことは……。あの、ミナ。一ついいですか?」


「なにかな?」


「グリムゲルデにはこういう時どんな話をすればいいのかわからないです。ですのでお手本、示してくれないです?」


 …………。

 …………。

 …………。


「えーっと、いや、そのっ、あれ? これ華麗に決めないといけない感じ!? そうだよね偉そうにダメ出ししたんだから私こそ良い感じの話をしてあげないとだよねっ。だけど、うおおっ、変に期待値上がっている気がするよお!!」


 普通におしゃべりすればいいものを、勝手にハードルを上げに上げまくったミナ。さて、ここからどんな話をすれば上がりに上がったハードルを乗り越えることができる?

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