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弱虫の英雄と最強の英雄   作者: 雨色 狼
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緑の物語 5 喪失感

エディス創世期326年

日本時間2021年 8月6日 午後 無域スーサイドダウン縛草原




北の風が吹いているのか、元々夏を過ごしていた僕は薄着で肌寒く感じていた。

悠々と吹く風は草原の葉っぱ達を波のように揺らしていた。


以前として彼は剣を振り続けていた。


僕は、彼の少し後ろで、自然と彼の動きに合わせようとしていた。

彼は、チラッとこちらに視線を一瞬向けたが

何も喋らず剣を振り続ける。

大剣と短剣では使い方は違うだろうが、動きは真似することができる。


彼が水平に剣を薙払えば、僕は短剣を逆手に持ち替え、薙払う動きをする。

彼が上から剣を振りおろせば、僕はまた、持ち手を変え、上から振り払う動きをする。


剣を振るいながら、頭の中でずっと何かを考えている。


ーーー


強くならなければ


2人を探さないと


昨日の様な戦いが、また起こるのだろうか


おじさんになにがしてあげられるだろうか


ーーー


心配性で臆病な性格が頭ん中で考えるのをやめようとしない。

それでも彼の動きを見よう見真似で、剣を振るう。



彼は小さく溜め息をしながらも、剣を振るのをやめずに話しかける。

「……ハァ、剣を振るのに無駄な事を考えすぎだ」


「……え、なんでわかるんですか?」


不意に当てられ動揺する。


「剣筋がぶれ過ぎだ。……剣を持ったら他のことは何も考えるな目の前敵を倒すことだけ考えろ」


僕は動きを止めてしまう。


「……集中力が分散してしまっている。見た感じ、君はいろんなことを同時に考えれる人間ではない、強くなりたいなら目の前の1つのことを考えろ」


図星を突かれてしまった。


そうだ、僕は昔から弱虫で、臆病で、心配性で、考えても無駄な事もずっといじいじ悩んでいた。


嫌、今もずっと悩んでいるか。


彼は何かを察したのか質問してくる。


「……君はどうしたい?強くなりたいのか?」


僕は少し黙り答える。


「……いえ、強がりたいだけなのかもしれないです」


苦笑いを1つ零して

僕は余計な事を考えるのを止め、また剣を振り続ける。


心に強くあろうとする気概を秘めつつ無心で振り続ける。



剣を振り終え、すごい量の汗をかきながら肩で息をし、草原に寝ぞべっていた。


呼吸を整え僕は、上半身を起こし、腰を下ろし座っている彼に話しかける。


「……おじさん」

「……なんだ?」

「その腰の黒い布貸してもらえませんか?」

「ん?何故だ?」

「いいから、いいから」


そういって、半ば強引に腰の布をとると、僕はその布を持っている木の短剣で、破いていく。


「!……なにしてる!?」

「すいません……、でも……」


僕はそう言いながら、彼の左腕に黒い布を縛っていく。


そしてもう半分は、自分の左腕に、片手で縛れないから右手と口と歯を使い大雑把に縛る。


「悲しいじゃないですか……」


覚えてもらえないのって……

心の中で呟くように小さく最後に付け加える。


「……何を言ってるかわからんが。まぁ……悪くはないか……」


彼は自分の左腕の布を見て呟く。

心無しか、彼が喜んでるように見えた。


これで何かが変わるのかとかはわからないが、それでも覚えててもらいたいという一心で証を残す。


そんな思いを抱かせつつ、今日という1日が終わっていく。





8月7日 ジャックの小屋


干し肉を作る手伝いと鍛錬だけで、前の日は特に何も無しで就寝してしまった。



ブォン、ブォン


凄まじい何かの風圧の音で目が覚める。

昨日の汗だくになっていた寝覚めの悪さはない。

魔力が入った食べ物を食べても高熱がでなくなってきた、少し身体が慣れてきたのか。

それでも、すこし身体に熱を帯びてるのは変わらない感じがした。


あの大きな風圧はなんとなく想像がついた。

多分、彼がまた剣を振っているのだろう。


そんなことを思いつつ外に出て挨拶しようとベッドから起きて家の扉を開く。

彼は剣を振るのをやめて、こちらに視線を向ける。


「……君は……誰だ?何故、俺の家にいる……」


「……ッ!」


ーーー


分かっていたんだ……分かってはいたけど……


胸が苦しくなった


きついなぁ


明日から毎日、同じことが起こるんだ


慣れな、きゃ……いけない、のに


ーーー


涙が零れそうになり顔が歪んでしまう。


僕は必死でそれを堪える。


必死に崩れかけた顔を戻し、笑顔を作って

少し遠めの彼に手を振る。



「……ぼ、僕アラタっていいます……、昨日来たばかりなんですけど、分からないことたくさんあるんで、お、教えてくださいッ……」


泣いてないだろうか


顔が崩れてないだろうか


こんなことで、彼を困らせてはいけない


泣き叫びそうになる顔を、必死に堪え僕は挨拶する。


「……そうか、……よろしく頼む」


何も無い1日が、また始まっていく。







朝起きて


彼に自己紹介する


繰り返し地面から這い出てくる魔喰者を狩る


彼の日課の素振りを見よう見真似でついていく


一緒に、ご飯を食べる


夜は、外にでて月夜の下で子雀とお話をする


3日に1回くらいに、この島の南にある唯一の湖に身体を洗いに行く。

小屋から、約50kmはあるらしく、普通に行くと7、8時間はかかる。


こんな1日の繰り返しだった。


なんでもない様な1日の繰り返しに見えるが、僕にとっては大分、精神的にきていた。


しっかり休んではいたが、どこか精神的にも、身体的にも疲労が溜まっている様な気がした。


こういう生活を過ごしていて、3ヶ月くらい経っての出来事だ。


悪夢が迫ってきているのを、僕はまだ知らなかった。


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