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弱虫の英雄と最強の英雄   作者: 雨色 狼
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緑の物語 1 風雀

電子回路のような空間を漂っている。

自分の身体が実際に在るのかどうかすらわからない不安定な空間。

漂っている、という表現が正しいかどうかすらわからないし、そもそもこの空間を目視しているのかどうかすらわからない。

僕はあの時死んでいて、此処が死後の世界なのかもしれない。

どれだけ考えたって、確かめる術なんてない。

ただ、今この空間では考える事しかできない。







眼が、開く。

眼に写る何よりも、眼が何年も開かなかったらこんな感じなのだろうかという感情が先行する。

四肢は動くのだろうかと思い、手足を軽く動かそうとする。良かった、それに応じて僕の身体も動く。

少し周囲を見渡してから、漸く自分が置かれている状況について考え出す。



何処を見ても、草原。

無限に続いていくかのような草原しか、僕の眼には映らないのではないだろうかと思えるほどの緑色の世界が僕を包む。

僕は確か、山の奥にある廃校舎にいたはずだ。

しかし、この光景はとても似つかわしくない。

やはりあの電子回路のような空間は実在して、そこを通じてどこかに移動したのだろうか。

第一、廃校舎で引き込まれたあの黒い穴のようなものはなんだったんだろう。

引き込まれた……?そういえばヤマトくんは無事だろうか?

それに……ヤマトくんを穴に突き落としたイサムくん?いったい何が起きているんだ……。

2人の生存を確認しなければならないし、イサムくんの行動の真意は聞いておかなければならない。

久しぶりに動かすような感覚というか、とにかく上手くは動かない身体を叩き、草原の中を歩きだした。





ひたすら1つの方向に歩き続けて、1時間くらい経つのだろうか。

代わり映えのない景色をひたすらに眺めていると、何かに躓いたのか僕の身体は地面に叩きつけられる。

普段なら咄嗟に出る痛み声すらも上手く出ない。身体にそんな余力がないのだろう。


躓いたであろう足元に視線をやると、そこには毛むくじゃらの腕のようなものが地面から這い出ていた。

普段なら驚いて恐怖するであろう。だけど脳の処理が追いついてなかった。

そのままそれをじっと見つめていると徐々に這い上がってくる人ではないが人の形をした毛むくじゃらの何か。鋭い爪をぶら下げてこちらを睨んできた。


また化け物!?

死ぬのか。

どうせ生きているのか死んでいるのかすらわからない。後悔なんてものも、2人ともう一度会えなかった事くらいしか今は見つからない。

死を目の当たりにしても、今は恐怖心すら湧いてこない。

視線をその人ではない「それ」に向けながら死を覚悟していると、一瞬にして「それ」は真っ二つに両断された。


剣だろうか。

両断したであろう、大きな剣の様な物を持った大男が僕の事を見つめていた。


血飛沫を浴びてしまった僕に、男が話かける。

「...無事か?」


知らない人だ。

安全になったとわかると。

僕は怖い思いの連続で、緊張の糸が解けたのか、涙が込み上げてきた。


「泣くな……、子供が何故ここに?」


ため息をひとつつき戸惑いながら、なだめる大男。

このままだと、この人を困らせてしまうと思い必死に涙を拭う。


「うぅ……、すいません。僕いきなりこんなとこに迷いこんじゃったみたいで、なにがなんだかわからなくて……」


泣きじゃくりながら、大男の顔を見上げる、

よくみると日本人ではないようだ。

銀色の短髪、青色の瞳、身長は2mを優に超えていて筋骨隆々、ガタイがいいじゃすまされないほどの筋肉。

何故上半身裸なのかはわからないが、すごい傷だらけだ。

首には読めそうもない文字が書かれたシルバーのネックレス。そして右腕には無色透明の腕輪のようなもの。

そして極めつけは左手に自分の背をも優に超えるほどの大剣。幅は、まだ小学生の僕を多い尽くせるほども大きく、歪な傷や刃こぼれがたくさんあった。


僕が、まじまじ大男の顔を見てると大男が喋りだす。


「……私の家に行こう。そこで詳しい事情を聞かせてくれ……」


男の背を追いかけようとすると、

ぼんやり声のようなものが聞こえた、ような気がした。


(チッ……哀れな男だ……)


「あの?何か言いましたか?」

大男が何か言ってきたのだろうかと思い聞いてみる。

「……いや」の一言だけ。


僕の気のせいだろうか。





どのくらい広い草原なのだろか。

ここから更に一時間かかるとこにあった。


男は寡黙なのか、道中一言も発しなかった。


ほんとに何もない草原の中に一軒家があった。

素朴な木の造りで1つ煙突が付いた、不思議な家だった。


僕は素朴な疑問が沸いた。

「こんな何もない草原のなかで、どうやってこの家に帰ってるんですか?なにも目印もないのに?」

「……匂いだ」

「匂い?」

「……家に俺の匂いが染み付いてる」


僕は聞いてもよく分からなかった。

草原を歩いていても、ここに着いてもなにも変わらないのに。


匂いなんて……


ずっと鉄を舐めたような、血の匂いが鼻に媚びりついているだけだ。

さっきの人ではない「ソレ」の血だとおもう。


小屋の中に入ると、中にあったのは台所とベッド、本棚に机と、椅子が2つ、あとは暖炉があるだけだ。


暖炉には薪などの木材はなく、赤い紋様が入った鉱石のようなものが置かれていた。


男は紋様の入った鉱石をとり、地面にコンコンと数回優しくたたく。

すると、パチパチと音を立て暖炉の中で火は広がっていった。


どうゆう仕組みだろうか。

僕は黙って火を見つめていた。


男は持っていた大剣を大雑把に壁に立てかけ、椅子に座り、言葉を発した。

「……さて、話を聞かせてくれ」


これでも食えと、持ってきた何の肉か分からない干し肉を差し出され。

今まであった経緯を話した。


いままでにあった事、黒い穴に落とされてどこかに飛ばされてしまったこと、友達と離れ離れになってしまったこと。


これまであったことを話してると、また涙が溢れてきた。

変な猛獣に襲われたり、友達が変になってたり、どこか分からない所にとばされて、また化物に襲われたりで頭の中は恐怖と混乱が蘇ってきた。


男は黙ってそれを聞き



「……そうか。すまない君を助けることはできなさそうだが、...どうするか決まるまではここで過ごすといい。この家は安全な場所だ……」


そう答えた。



これから、どうすればいいのだろうか。

もしかしたら、ずっと帰れないのか。

ヤマトくんとイサムくんは無事なのかな。

体験したことのない気持ちで心が締め付けられ苦しい。

自分が今どんな感情になっているのかもわからない。


頭の中でいっぱいになった時、父の言葉をを思い出した。

『前を向いて生きろ』


少し勇気がでたような気がした。

僕は少し息を整え、負けないよう言葉を放つ。


「スゥー……僕、アラタっていいます。風夜新汰です!おじさんの名前も聞いていいですか?」


強がり……空元気ともいえるだろうか。

ただアラタは負けないようにと、強く答えた。


「……すまない、名前はわからないんだ……」


「えっ……」

元気になりかけたが固まってしまった。


「……名前だけではない、何故ここで暮らしているのかもわからない」

「そう……ですか」



とりあえず休もう。

そう促され、出された干し肉を食し、

寝る場所としてベッドを提供された。

男は暖炉の横の柱に腰掛け大剣を近くに置いて寝に入った。


その夜、僕は高熱にうなされた。


身体が熱い……


経験したことのない熱がアラタの身体に襲っていた。


夢を見ていた。

ヤマトくんとイサムくんと鬼ごっこをしていた。僕が鬼で、2人は背を向けずっと歩いている。僕はひたすら走って追いかける。しかし距離が一向に縮まらない。

むしろ離れてく一方だ。

『待って!……待ってよ2人とも!おいてかないでよ!』


寝ていた僕はベッドで跳ね起きてしまった。

汗でびっしょりになっていた。さっきまで熱かった熱も引いてる。

何より頭がスッキリして、身体が軽く感じていた。


〈やぁ、目が覚めたようだね〉


どこかきいたことのある幼い声が聞こえてきた。

皮の布団を被っている僕の膝の上に、

小さな(すずめ)のような小鳥がとまっている。

見た目は雀だが、顔と羽に金色の防具の様な装飾をつけていた。


「小鳥が……、喋って……る?」

〈小鳥ではない!僕は伝説の神獣ガルダだぞ!〉

「しんじゅうっていわれてもなぁ……」


そんな話はいい、と小鳥に一蹴され、小鳥は語り出す。

〈すまないね、なぜだか腕輪の魔力の供給が途切れてしまってね。話せなくなってしまい、心細い思いをさせたみたいだね。〉



神獣ガルダは、したり顔で語りはじめるのであった。

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