伝説の音速娘
「おっと。今更武器を構えても、もう遅いわ!」
音速のスピードで竹刀を振り払うと、目の前にいる相手は音もなく崩れ落ちた。
私はそのまま規定の位置まで戻って、戦った相手に感謝の意を込めた礼をしてから訓練場を後にする。
「ふぅ。やっぱり今日も私が最速のようね」
ここはある組織の訓練場。
みんな一流のエージェントになる為に訓練してるんだけど、もうここの訓練生で私の速さについてこられるのは誰もいないみたい。
休憩所に着くと知ってる子がいて、入室した私に気付くと話しかけてきた。
「ごきげんよう。今日の訓練はもう終わったの?」
「まだだけど少し休憩に寄っただけ。それより、そっちは何してるの?」
「マリアはヒロ神父に頼まれて、唐揚げを作ってきたの」
「ふ~ん」
「美味しそうだからって、食べたら駄目よ?」
テーブルの上を見てみると確かに唐揚げが置いてあったので、マリアが目を離した隙に音速で1つだけ掴んでつまみ食いしてみる。
「ん。まあまあね」
どう頑張っても冷凍唐揚げの味だけど、小腹がすいている今だとこれくらいの方が丁度いい。
「あれ? 僕の唐揚げは?」
少し遅れて祭服を着た神父がやってきた。
けどお生憎様。
唐揚げは音速で頂いたから、今更返してくれって言ってももう遅いわ。
「唐揚げならテーブルに置いといたわよ」
「ああ、これね。……あれ? けど1個足りなくない?」
「あら? カラシ入りのを1つ忘れたかも。すぐ用意するから、ちょっと待っててくれるかしら?」
「も~、頼むよマリア~。今日のドッキリで使うんだからさ~」
マリアは私とすれ違った時に少し悪い笑顔を見せながら「だから言ったのに」と言い。
直後、私の口の中を言葉に出来ないレベルの辛さが襲いかかって来た。
「ん~!?」
私は急いで水飲み場まで走り、思いっきり水を飲み込む。
……あんの、いたずら猫。
知っててわざと隙を見せたな。
もう食べちゃったから遅いわ! ……って言うつもりだったのに、まさか「あ~あカラシ入り食べちゃったんだ~、けどもう遅いからちゃんと食べなさいね」みたいなもう遅い返しをされるなんて。
――――そして数日後。
正式なエージェントになった私のデビュー戦。
いたずら猫の手伝いってのは気に入らないけど、私は自分の使命を果たすのみ。
対面にいる奴はパーカーを深く被っていって顔はよく見えないけど、誰が相手でも音速で倒すだけ。
私と戦う事を後悔しても、もう遅い!