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2 インスタント美少女は彼女メイド?

 え、えぇーー‼


 声にならない驚きが、心の中でこだまする。

 とんでもない美少女が来てしまった……。


 学校にこんな可愛い美少女はいないし、あの怪しすぎる奴以外に俺がこんな美少女に尋ねられる理由がない。


「八雲君。家に入れてほしいかな?」


「あ、あぁ」


 そんな神殺しのエンジェルスマイルを向けられれば、女子に耐性のない俺はうなずくことしかできなくなる。

 

 少女は「おじゃましまーす」と言いながら俺の家に入ってきた。

 その時ふわりと甘い香りが俺の鼻孔をくすぐる。


「(な、なんだこのいい匂いは……)」


 とりあえず母さんが親切心で買ってきたスリッパをすっと差し出す。

 俺がぼっちであることを知っておきながら、「高校生になったらお友達きっとできるわよ」と言っておいてくれた優しさととげの権化。


 まさかこんな時に役に立つとは……母さん、ありがとう。


 玄関で一人、海外の地にいる母さんに礼を言っていると、少女はいつの間に部屋に入っていた。


「すごいきれいだねー」


「ま、まぁ趣味がないからおのずと物が少なくなってね……」


「ミニマリストってやつ?」


「そ、そういうわけじゃないんだけど(近い近い近い近い近い近い近い)」


 あかん。精神が持たない。


 ぼっちだからだろうか。こんなにも美少女で、正直ドタイプの女子が俺の家にいると思うと、それだけで蒸発しそうだ。


 きれいな青色のポニーテールが揺れる。


「突然で自己紹介もしてなかったね」


「あ、う、うん……(あかんちゃんとしゃべれへん)」


 少女は一歩俺の方に近づいて、上目遣いで言った。


「私の名前は青崎あおさきかもめ。たった一日だけだけど、よろしくねっ!」


 さりげなくウィンクをかます少女。

 俺はウィンクどころか常に目をぱちぱちさせていて、動揺しまくっている。


「私は八雲君のことを八雲君って呼ぶけど、八雲君はもしかして呼んでほしい名前とかってある? なんでもばっちこいだよ!」


 なぜか袖をまくってマッチョポーズ。でも真っ白い肌が露出して、その仕草も又可愛いなと思ってしまう。


「や、八雲君でいいです……」


「わかった! じゃあ私はかもめって呼んでくれると嬉しいな」


「わ、わかった。か、かもめ?」


 もはややけくそにそう呼ぶ。

 もうどうにでもなれといった感じだった。


「呼んでくれてありがとさん。でもなんか……照れちゃうね……」


 急に頬をぽっと赤らめてそう呟く。

 仕草仕草一つ一つが可愛くて、瞬きをしているのがもったいないなと思うほどだった。


「とりあえず、座ろっか。えーっと……」


 きょろきょろしながら座るところを探すかもめ。

 ただ俺は人を招き入れることがほぼないため、一日のほとんどをベッドの上で過ごす。

 ご飯を食べるときだけ、床に座って食べるのだ。


 だから座るところなんて特になくて、「ここかなっ」とかもめは俺のベッドに腰を掛けた。


「まぁ私が家に入れてもらってるんだけど、八雲君も座ったら?」


 ぽんぽんとかもめの隣を叩く。

 そしてにひひ~と無邪気な笑顔を向けてきた。


 は、犯罪にならない? それ。


 いや、そもそも今の状況が犯罪を超えて非現実的すぎる。

 よしっ。作戦夢。これを夢だと思おう。


 俺は意を決して少し距離を開けて隣に座った。


「で、さっそくだけど、何がしたい? 私は八雲君の彼女だから、何でも受け入れるよ?」


 なんでもというのはかの有名ななんでもというやつだろうか。いや、そうに違いない。

 あの怪しすぎる詳細にも、そう書いてあった。

 この子が俺の彼女……控えめに言って世界の常識に反しているとしか言いようがない。


 でも、とりあえずは疑問点を払拭すべきだろう。

 それに夢と思っても、妙にリアルっぽいし。というか現実から夢に切り替わるタイミングわかんなかったし。


「その……さ、か、かもめはインスタント美少女なの?」


「うん! 八雲君の注文を受けてやってきました!」


「かもめはさ……人間なの?」


「それはお答えできません」


 急に無機質にそう言った。

 まぁ普通に考えれば注文してから三分もたたずに俺の家に来たのだ。人間である可能性は極めて低い。

  

 でも、あまりにも人間味を帯びすぎている。

 人間じゃないなんて、とても信じられなかった。


「私から言えることは詳細に書いてあったことと同じこと。私は八雲君の注文を受けて、一日、つまりは注文してくれた午後七時まで、私は八雲君の彼女となる。といっても、八雲君のしてほしいことはすべて受け入れるっていう……まぁメイドに近いかもしれないね」


「そう……なのか……」


 試しに頬をつねってみても痛みを感じた。

 これは信じられないが……現実なのだろう。


 俺の願望が具現化したのか、こんな出会いが待っていたなんて……。やけくそで購入ボタンを押したときの俺には考えられなかった。



 

 そして——


 この、俺の妄想が作り上げた幻想ともいってもおかしくない彼女が俺を一変させるとは、この時の俺は全く予期していなかった。



可愛いに尽きる物語

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