英才教育
修行が始まって数か月経ち、ココアは一人前の冒険者と言っていいくらいの実力を身に着けることになる。
座学はミラが担当し、職業の基本のステータスの振り方などを教えて貰っている。
適性職業が不明な彼女は、どういう風にステータスを振るかをいろいろ相談するのだがまだ方針はなかなか決まらない。
剣も上級者に近いレベルで扱えるようになった時、もしかしたら魔法の才能もあるのではないかと考えたメリッサがガッデスと相談しガッデスの元パーティーの魔術師を先生として招聘する。
彼女の名前は、ヴェルヴェット・デュミナスといいBランクの冒険者である。
彼女は、風と水の魔術スキルを持っており種族特性として精霊魔術も使えるのだった。
魔法修練場にヴェルヴェット、メリッサ、ガッデス、ココア、サラが集まりヴェルヴェットがお手本で風魔法を披露する。
風の基本魔法とも言える風の刃の呪文だ。
彼女の魔法が的に命中し、的を切り裂く。
「それじゃ、ココアちゃん。今の感じで魔法を唱えてみようかしら?」
ヴェルヴェットはココアを促す。
ココアは言われた通りに呪文風の刃を唱えると魔法が発動し的に当たり的を切り裂く。
威力的にはヴェルヴェットの方が間違いなく高いのではあるが、魔力Cにしては強力でBランクの下位くらいの威力がある事が判明した。
「すごいわね。威力だけならBランクの下位レベルくらいだと思うわ。」
ヴェルヴェットが素直に感心して告げる。
「やはり魔法の才能もあったか。魔法と剣両方が使えるのなら戦いの幅が広がるな。」
メリッサは予想していた通りと言わんばかりの発言である。
「しかし、これでステータスの振り方が難しくなりますね。」
サラが口を挟む。
「まずは力や体力といったステータスを伸ばし、剣での戦闘をメインにした方がよいだろう。弓も使える事だしな。」
メリッサがそう言うと、
「いえ。ココアさんの才能は魔法を極めるうえで素晴らしいものです。CランクでありながらBランク並みの魔法が使えるというのであれば、夢が広がります。」
事情を詳しく聞いていないヴェルヴェットがメリッサに異議を唱える。
結局はどうするかはココアに任せるという話で落ち着くことになるのだが、ヴェルヴェットがココアに強い興味を持った事で事態は少しだけ騒がしくなる。
その日の夜、ヴェルヴェットが酒場でパーティー仲間で飲んでいた。
「私、素晴らしい才能の持ち主を見つけましたよ。ガッデスが今教えているココアという冒険者見習いです。」
ヴェルヴェットはワインを飲んでいた事もあり、ココアに遇えた喜びを大きな声でメンバーに伝える。
一緒に飲んでいるメンバーは、レンジャーであるガッデス、魔術師のヴェルヴェット、騎士のトリスタン、僧侶のミーア、剣士のジュリー、盾使いのバッシュである。
「まった、ヴェル。それは、内緒だと言ったじゃねーか。」
ガッデスが咎めるように注意する。
「でもさ、あの子は絶対にすごい魔術師になるんだよ?今のうちに、私たちのパーティに加えてもいいと思うんだけど。」
ヴェルベットはまだ食い下がる。
「確かにお嬢ちゃんなら、俺らの中でもやってけるだけの実力はすぐ身に付きそうだがな。でも、お嬢ちゃんも事情があるんだよ。」
ガッデスが言う。
「お前たちがそういう人物であれば、会ってみたいものではあるな。」
トリスタンが興味を示す。
「そうね。二人がそこまで評価するのって珍しいわよね。」
ミーアが意見に賛同する。
「ま、どっちでもいいのじゃねーか。」
ジュリーはあまり興味がない感じである。
「中衛なり後衛が増えるのは、儂としては楽じゃな。」
バッシュが戦力強化になるのであればとの発言であった。
「でもな、お嬢ちゃんまだ12歳だぞ?」
ガッデスが年齢の事を持ち出した。
「ええ!?12歳であの才能なの?なおさら、私たちで育てて1人前にしましょうよ。」
ヴェルヴェットが年齢に驚きつつもパーティーに加入させようと強く言いだすのであった。
お読みいただきましてありがとうございます。