私に死ねと言うの?
その日の夜、マリルに見送られながら伯爵の屋敷をココアは後にする事になる。
マリルにレーズンの街の情報をずっと聞いており、屋敷を出て街にある宿屋へと向かう。
宿屋は冒険者ギルドと酒場が併設されており、夜であっても冒険者や酒場の客でにぎわっていた。
そこに小綺麗な服装をした成人したばかりの女性が入って来たので注目の的となってしまう。
『マリルの話によれば、宿屋の主人に部屋を泊まる部屋をお願いすればいいはずだったわね。』
「すいませんが、一泊部屋をお願いしたいのですが?」
ココアは、主人らしき人物に話しかける事にした。
「おう。2階の手前の部屋が今空いているそこに泊まってくれ。料金は2銀貨を前払いだ。」
ココアは、ホルンより渡されたお金を確認する。
中身は、10金貨のみ。
これは、一般家庭が2か月暮らす分である。
ココアは、金貨で払いお釣りを貰い部屋へと向かう。
『この街にはいられないし、王都に向かうのがいいとマリルは言ってたわね。王都までは、馬車で2週間くらいかかるという話だったわね。馬車が手配できるかわからないけど、明日聞いてみましょう。今日は、もう疲れたわ。寝るとしましょう。』
部屋に鍵をかけ、ココアは粗末なベッドで横になる。
「こんな固いベッドは初めてだわ。でも、寝ないと明日から困ってしまうわ。無理やりでも寝ないとね。おやすみ。」
小声で独り言を言い、ココアは眠りにつくことにした。
翌朝ベッドから起きだし着替えを済ませ、宿屋の主人に
「朝食はまだかしら?お腹が空いたのだけれど?」
ココアはそう伝える。
すると主人が
「朝食は、1銀貨になるぞ。それでよければ用意してやる。」
と返答する。
『え?朝食ってお金を払うものだったの?』
外界と隔絶され暮らしてきたココアは、外の世界に関してはマリルにいくらかは聞いているが知らない事の方が多かった。
1銀貨を支払い、朝食を食べる。
『こんな粗末な食事でお金を取るのね…』
軟禁されていたとしても、それなりの食事を出してくれていた親に感謝するのだった。
宿屋を後にして、王都行きの馬車が出ているかを門番に聞くことにした。
「王都行きの馬車であれば、マシュマロ商会で斡旋してたはずだ。そこに行ってみるがよい。」
マシュマロ商会へ行き、ココアは王都行きの馬車について尋ねる。
「王都行き馬車は、護衛込みで10金貨になります。期間も2週間で、それくらいが相場です。」
マシュマロ商会の受付は、教えてくれた。
そして、ココアは手持ちが足りないことに気づいた。
「すいません。手持ちが足りません。どうしたら、お金は稼ぐ事が出来るのでしょうか?」
「店で働くか冒険者をするのが一般的でしょうね。最近は、店員を募集してる店も少ないようですから、冒険者になるのがいいのかもしれません。」
「ありがとうございます。お金をお支払い出来るになれば、またお伺いしようと思います。」
ココアは、受付に挨拶してマシュマロ商会を後にした。
冒険者の宿に戻るココア、そこでギルドの受付に話を聞くことにする。
「冒険者として登録したいのですが、何か条件とか必要なものはございますでしょうか?」
「登録ご希望ですね。こちらの登録用紙にご記入願えますか?」
「了解いたしました。えっと、名前は・・・」
ブツブツ小声で喋りながら必要事項を記入していく。
すると最後の方に気になる欄があった。
「あのすいません。最後のスキルを書くところがありますがこれは必須でしょうか?」
「ええ、必要です。冒険者としての適性の判断や初心者講習もありますから、記入して頂かないと困ります。」
受付は答えを返す。
ココアは受付の耳元に小声で話しかける。
「ボソボソッ(わたし、スキルがないんです)」
「ええっ!」
受付嬢は思わず、声を上げてしまった。
「失礼しました。ここでは話しづらいでしょうから、別室の方でお話を伺ってもよろしいでしょうか?」
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受付嬢は奥にある特別室に案内し、ギルド長を呼び二人で話を聞くことにする。
「ココアさんでしたっけ。先ほど私にスキルがないと仰ってましたが事実なのでしょうか?」
「はい。私が3歳の時受けた祝福の儀の際、受けた神託が職業適性不明でスキルなしというものだったそうです。それから、10年間私は部屋に閉じ込められ外に出ることが叶いませんでした。成人年齢に達したという事で父より幾許かのお金を頂き家を勘当されました。生きるためには、何かしらお金を稼ぐ手段が必要との事で冒険者になろうかとこちらにお伺いした次第でございます。」
ココアは、自分の置かれた状況を説明する事にした。
「10年前にそのような神託が下されたと噂が流れていたな。確かその娘は、伯爵家の長女という話だったはずだが・・・」
ギルド長が自分の仕入れていた情報に基づき話をする。
「昨日までは伯爵家の娘だったのでしょうが、今は家名を名乗る事も禁じられ勘当された身ただのココアでございます。私に冒険者が務まるものなのでしょうか?」
「職業適性不明はまだいいとしてスキルがないという事はマイナスで、今までスキルを授からなかった者の話は聞いた事がない。」
「では、私に死ねとおっしゃるのですか?わずかばかりの所持金が無くなれば、私にはお金を稼ぐ手段さえなくなります。せめて、王都まで行ければそこで何かしらの事は出来るかもしれません。その方法がないとすれば、私には未来がありません。出来れば、早くこの街を出たいのです。」
真剣な表情でココアは訴える。
「うーむ。冒険者登録に関しては制限事項はないのだが、命の危険性がありえるのでスキルによって登録を遠慮してもらう前例もあるのだ。」
「命の危険性というのであれば、冒険者となれなければ一緒の事。私には、選択枝は最初からありません。」
ココアのその言により、マスターは登録を認めるのだった。
「だが、あまり難しいクエストを選んでくれるなよ。Fランクのクエストのみを受ける事をお勧めする。まずは、ステータスの確認してギルド証を交付する事にしよう。」
ギルド長は、ギルド証交付のための装置を用意するように受付嬢に指示をだす。
装置の準備が出来た所で、
「それじゃ、ここに手を置いてくれるかな?そうすると君のステータスがギルド証が交付される事になる。」
言われるまま、ココアは装置に手を置くと
名前:ココア
HP:E(15)
MP:D(32)
力 :D(38)
魔力:C(79)
体力:E(14)
速さ:E(16)
幸運:B(279)
経験値:0
保有スキル:なし
登録ギルド:レーズン冒険者ギルド
更新ギルド:なし
上記の情報がギルド証に書き込まれ交付される。
「ステータスとすれば、優秀な方だな。普通の登録者であれば、F表記があるはずだからな。ちなみにステータスの表記はSからFで表記される。()内は、各ステータスの経験値だ。HPとMPは特殊でHPが0になれば死亡し、MPが0になれば気絶する。少々、ステータスが低くてもそれを補う力がスキルと呼ばれるものだ。」
ギルド長が説明してくれる。
「補足事項とすれば、必要なスキルがなければ剣術や魔法が使う事が出来ない。したがって、スキルを持たないココアはそう言ったものが使えない事を意味するのだ。」
ココアは、ギルド長の説明を受けその事を理解した旨を伝える。
「かといって、スキルがないからと言って戦えない訳ではない。最低限の装備は揃える必要があるだろう。その恰好では何もできんぞ。」
「ありがとうございます。まずは装備をそろえる事にしたいと思いますが、目安としたらどの程度の装備が必要なのでしょうか?」
素直に教えを乞うココアに対し、
「一式揃えて、金貨1枚から2枚くらいの装備がお勧めだな。そのあたりは、武器屋や防具店に聞くといい。街を出る際には、回復ポーションも持っていくといいだろう。使う機会がないのが一番ではあるがな。装備を揃えたら、ここにいる受付嬢のミラに言うがいいさ。彼女にお前にあったクエストを紹介させる事にする。」
「何から何までありがとうございます。今日の所は、これにてお暇させて頂きますね。」
ココアはギルド長と受付嬢のミラに挨拶をし、部屋を退出し装備を揃えるために店を探す。
街を回り、武器店と防具店で装備を見繕って貰いサイズの調整をお願いし、引き取りは明日という事になった。
再び宿に戻り金貨1枚を支払い、5日分の宿泊をお願いする事にした。
残りのお金は、金貨6枚と銀貨6枚となった。
翌日の朝に装備を受け取り装備した後、冒険者ギルドのミラのカウンターへと向かう。
「おはようございます。私の出来そうな依頼はありますでしょうか?」
「ココアさん、おはようございます。あなたにお願いしたい依頼はこれとこれですね。」
受付嬢のミラは、依頼書を見せてくれる。
依頼内容は、街の迷子猫探しと近くの森での薬草の採取である。
「猫の特徴は依頼書に書いてある通りです。薬草の採取に関しては、低級モンスターも出る可能性があるので十分に気を付けてください。これが薬草のサンプルです。報酬は、猫探しが金貨1枚で薬草は1本1銀貨で買い取ります。」
ミラは、依頼内容を説明してくれる。
「ミラさんありがとうございます。では、頑張ってみます。」
頼みこんで冒険者登録を完了したココア。スローライフは、まだ遥か彼方・・・
読んでいただきありがとうございます。サブタイトルを変更しました。